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魔獣死すべし、慈悲は無い。

 

 空には怪鳥。周りはゴブリン共に囲まれている。

 しかもホブゴブリンというデカブツのおまけつき。むしろそっちがメインだ。


 ゴブリン共はいきなり襲い掛かってくることはせず、俺とアルマの周りを円を描くように囲み、退路を断っている。

 恐らく、ホブゴブリンの指示だろう。鈍そうに見えて集団の統率までできるのかよ。


 まあ、よく考えたらむしろ好都合だけどな。




「ヒカル、私が囮になって、魔獣たちをおびき寄せるから、そのうちに街へ向かって、助けを呼んできて」


「却下。仮にその案を採用しても、ゴブリン共にアルマが、逃げようとした俺があの鳥に各個撃破されて終わりだ。もちろん俺が囮になっても一緒だな」


「う……」



 自己犠牲の精神は美しいが、正直この状況じゃ大した意味はない。

 仮にそれで俺がギルドまで辿り着いたとしても、助けが来る頃にはアルマが殺されている可能性が高い。

 二人一緒に助かる策以外認めん。俺も正直死にたくないし。

 え?そこは最悪アルマだけでも助かるようにとか言うべきだって? うん、まあ、そうかも知れんけど怖いもんは怖いし…。



「やっぱり、バチが、当たったのかな………」



 深刻そうな表情で、ぼそりと呟くアルマ。

 そんな状態じゃ勝てるものも勝てないぞ?



「違う違う。そうじゃない。むしろこれはご褒美だと思うぞ」


「……え?」


「レベルの高い魔物はその分もらえる経験値も多いんだろ? こいつらぶっ倒して早くレベル上げてジョブチェンジしろって、神様が言ってるんだろきっと」



 緊張を解そうと、軽口をたたいてみる。

 まあ、半分は割と本気でそう思っているが。神様云々はともかく。



「でも、どうしたら……」


「まともに戦ったら無理だな。まともに戦ったら、だが。ちょっと耳かして」


「え? う、うん」



 簡単に作戦の説明をする。いやまぁ、そんなたいした策でもないけど。

 上手くいかなきゃ、死ぬだけだ。覚悟決めろ俺。



「大丈夫。きっと上手くいくさ。ああでも、もしも失敗したらごめんな?」


「大丈夫。きっと上手くやれる。失敗しても恨みっこなし」



 これが今生最後の会話にならないことを願いつつ、作戦を開始した。



「さて、そんじゃあやりますか!」



 そう言って、俺は装備していた剣を上で飛んでる怪鳥に向かって思いっきり投げた。ぽーい。


 もちろん届くわけもなく、怪鳥は馬鹿にしたようにこちらを見ながら嗤っている。

 ゴブリン共も、全員がこちらを嗤いながら眺めているのが分かる。


 魔獣共の視線がこちらに集中してるのを確認し、手元に用意していたあるものが入った巾着袋を頭上に放り投げ、着火した。




 シュボッ




 カッッ!! 




 とオノマトペが出そうなくらい、強烈な光を放ちながら巾着袋が弾けた。



 辺りにいたゴブリンども、デカブツ、怪鳥はモロにその光を目に焼き付けてしまい、その目を眩ませた。

 ステータス表示も一匹残らず一時失明となっている。


 俺が着火したのは、例のギルド近くの素材屋で見つけた、角の先を燃焼させ強烈な光を放った隙に襲い掛かってくる魔物の角を粉状にすり潰した物だ。



【スパークウルフの角】

≪マグネシウムを主成分とする角。魔力が込められており、燃焼した際に通常のマグネシウム以上に強烈な光を放つ≫



 どれぐらい強烈かっていうと、耳かき一杯分を着火しただけで目を瞑っていても光が目蓋を貫通してくるくらい強い光だ。

 ……実験で着火した時にはマジで失明するかと思った。目が、目が~!ってどこぞの大佐みたいになったわ。


 周りのゴブリン共は目が眩んで大混乱。ホブゴブリンも両目を押さえてのたうち回っている




 ザシャアアアァァッ!


『キイイィィ!? キュギイイイィィィッ!!!』




 怪鳥は、急に視力が利かなくなってパニックに陥り、そのまま墜落したようだ。

 ちっ、骨でも折って飛べなくなれば楽だったのに、大してダメージは負ってないな。



 ゲームのRPGなんかでもそうだが、相手の能力をいかに最小限に封じ込めて、自分たちの能力を最大限に活かすかが格上相手の戦いにおける勝利のカギだと思う。

 この状況なら奴らはほぼ無力だろう。



 そして、俺とアルマは着火した瞬間両目を手で塞いでいたので無問題。

 今、まともに動けるのは俺たちだけだ。


 今なら確実に逃げ切れるだろう。が、逃げない。逃げるわけがない。

 こんなおいしい経験値共(ゴチソウ)、頂かない手はない!




「よっしゃ! やるぞ!」


「うん!」




 投げた剣を回収し、俺は周りのゴブリン共を一匹ずつ駆除。剣で頭や首を切り裂いて確実に殺していく。

 ……良かった。命の危険がある状態だと、殺すことへの忌避感もほとんどなく殺れるみたいだ。というわけで死ね。慈悲? ない。そんなものはない。

 アルマは、魔法剣で攻撃力を底上げして、ホブゴブリンを仕留める手筈だ。


 アルマが魔法剣を発動した瞬間、思わず驚いた。



 ゴゥッッ!!



「うおぉ!? なんだそれすごいな!?」


「な、なにこれ……!?」



 修業の終わりに発動させた、剣が燃えているだけの魔法剣もどきとは明らかに違う。

 刀身がまるで巨大なガスバーナーの炎に覆われているように、刀身の形に沿って綺麗な形を造り青く燃えている。


 これが、本当の魔法剣 Lv1【火炎剣(バーナーブレード)】なんだろう。


 武器を含めた攻撃力にINTの半分をプラスされて、現在のアルマのATKはなんと合計181にもなる。

 この攻撃力ならホブゴブリンの高いDEFをものともせずダメージを通すだろう。


 ホブゴブリンの頭目掛けて、火炎剣を振り下ろした。


 だが



『ゴガアアアァァァァ!!』


「っ!?」



 ギィンッ!

 ギリギリギリ……!



 あのデカブツ、目が見えてない状態なのに棍棒で防ぎやがった!

 鍔迫り合いのように、剣と棍棒の押し合いの状態になっている。

 感知能力も大分高いからか、自分に危機が迫っていることを察して咄嗟に防いだのだろう。

 強力な腕力でこのまま押し切り、アルマを潰すつもりか!

 そうはいかん!




「アルマ! 魔力操作で剣に流す魔力を強めろ!!」


「うぅっ……!あああああぁぁぁっ!!」



 アルマが叫びながら魔力を剣に流し込むと、青い炎は白色に変化し




 ジュウゥゥッ! ジャクッ!!




 棍棒を高熱で溶かしながら斬り裂き、容易くホブゴブリンの首を刎ねた。

 ひえぇ、なんつー攻撃力だ。圧倒的じゃないか。



「はぁ、はぁ、や、やった……!」


「ナイスだアルマ! って、俺も早くゴブリン狩らなきゃな」




 残るゴブリンは5体いたが、アルマと共に残ったゴブリン共の首を次々切り裂いて、手早く全滅させた。



 残ったのは、あの怪鳥だけだ。

 正直、あいつを真っ先に倒しておきたかったが、目が眩んでいる間に近づこうとするものがいると、滅茶苦茶に魔法を飛ばして迎撃してきて手が出せなかった。

 アイツのせいで2匹ほどゴブリンがやられたしな。貴重な経験値をよくも。

 視力が少しは回復してきたのか、空に向かって再び飛び上がった。

 空から絨毯爆撃でもして、じわじわとこちらの体力を削るつもりだろうか。


 …ん?なんか飛び方がおかしいような。視力が回復しきってないからか?

 段々とこちらから遠ざかっているように感じるんだが、もしかして逃げようとしてるのか?

 ちょっとステータス確認。




 魔獣:ブレイドウィング


 Lv11


 状態:一時視力低下、魔力不足(小)



【能力値】


 HP(生命力) :104/120

 MP(魔力)  :12/102

 SP(スタミナ):161/188




 なるほど、視力は多少戻ったけど魔力がもうほとんど残ってないのか。

 そりゃあんだけ乱発してりゃそうなるわな。

 あと一発でも魔法を使えば魔力不足(大)になってまともに動けなくなるか、最悪、枯渇。

 そうなる前に逃げようとしてる、と。



 逃がすと思うか?




「アルマ、あいつは俺に任せてくれるか?」


「え?でも、空飛んでるし、どうやって?」


「こうするんだ、よっ!」



 剣を放り投げ、少しでも体重を軽くする。どうせあの鳥相手に俺の剣なんかイマイチ通じづらいだろうし。


 さっきゴブリンを倒してレベルアップした時に、HP、MPの最大値が増加し、全快したのを確認している。便利だな。

 魔力は十分。おそらく足りる。



 身体の外に放出した魔力は、身体から離れれば離れるほど操作の精度と出力が下がっていく。

 つまり、身体にピッタリ張り付けている状態が最も操作しやすく、力強い運用が可能だ。

 魔力を手袋やブーツのように手足に纏わせ、固める。胴と頭部にも同じように魔力を纏わせ、固定。

 その固めた魔力を操作して、俺の体ごと高速で、怪鳥の飛んでる空に向かってぶっ飛ばす!




 その瞬間、俺の身体は空を飛んだ。そりゃもうすっごく速く。




 って、ひいぃっ!? は、速く移動しすぎた!

 今何キロ!? 時速何キロだこれ!? 体感的に高速道路で100キロくらい出してる時より速く感じるんだけど!

 あー、なんかZな戦士たちになった気分。…この比喩はちょっと危ないからやめよう。



『キイィィッ?!』



 で、あっという間に追いついた俺に動揺しながら鳴き声を上げてる怪鳥に、小瓶に入ってた液体をぶっかけた。

 少し塗って点火しただけで、あっという間に薪が灰になる【火蝦蟇の油】だ。

 小瓶の中身全部が燃えたら、果たしてどうなる? お前は耐えきれるかな?

 手から火を放ち、着火!




 太陽がもう一つ増えたんじゃないか、と一瞬思うほどの爆炎が怪鳥の全身を覆った。




『キイイイィィィギャアアアアアァァァァァッッ!!!』




 着火した直後、怪鳥は断末魔の絶叫を上げ派手に炎上しながら墜落していった。

 地面に着く前に、メニュー表示が赤色に変わった。無事、仕留めたようだ。


 ドシャッと墜落した後も、死体は燃え続け、最後には大部分が炭化した死体しか残らなかった。

 ちょっと素材とか肉がもったいない気もしたが、あのままコイツを逃がす方が色々まずい気がしたので、まあ良しとしよう。




 つ、疲れた。

 怪鳥を仕留めて、再びレベルアップしたらしく魔力は全回復したが、肉体的にも精神的にもとにかく疲れた。

 魔力を固めた飛行だって、修業中に思いついたのをぶっつけ本番で試したものだから、失敗する可能性だって決して低くなかった。

 ……うん、次から無茶は控えよう。



 アルマが走ってこちらに追い付いてきた。あ、俺の剣と荷物を持ってきてくれたのか。気が利くなぁ。



「お疲れ。お互い無事で何よりだな」


「ひ、ヒカル、さっき空飛んでた……?」



 剣を手渡しながら、ちょっと顔を引きつらせながら話しかけられた。

 そんな顔せんでも。



「原理が分かれば簡単だぞ? よかったら後でやり方を教えるよ」


「え、遠慮しておく」



 ドン引きしてる。高いところが怖いのかな?



「それより、この辺りで魔獣が出現するのは珍しいことじゃなかったのか? しかもかなり強力な奴だったぞ?」


「あんなに強い魔獣が森林から出てきたのを見たのは、さっきが初めて。なにかが、森であったのかも」


「心当たりは?」


「何かもっと強い魔物に追い立てられたか、スタンピードの前兆かも」


「スタンピード?」


「増えすぎた魔獣が、群れを成して、本来のテリトリーから移動して街や村に侵攻すること。定期的に魔獣を討伐して、月ごとに一定以上の数を仕留めれば、起こらないはずなのに…」


「…ここ一週間、魔獣を討伐していなかったのが原因、とかじゃないよな?」


「私一人が、一週間ぐらい討伐をしなかったからって急にスタンピードが起こるとは思えない。何かが、おかしい気がする」


「……どっちにしろ、ギルドに報告しに行かなきゃな。街に戻ろう」


「うん」



 そう言って街に向かって足早に歩き始めた。

 もしもスタンピードってやつが本当に起ころうとしているなら、今後どうするかも考えておかないと。


 あ、そうだ。レベルアップした後のステータスを移動しながら確認しておこう。


 まず、俺のステータス。




 梶川 光流


 Lv5


 年齢:25


 種族:人間


 職業:ERROR(判定不能)


 状態:正常



【能力値】


 HP(生命力) :40/40

 MP(魔力)  :36/36

 SP(スタミナ):0/12


 STR(筋力) :16

 ATK(攻撃力):16(+30)(+2)

 DEF(防御力):16(+15)(+5)

 AGI(素早さ):15

 INT(知能) :17

 DEX(器用さ):18

 PER(感知) :24

 RES(抵抗値):14

 LUK(幸運値):14



【スキル】


 ※取得不可※



 EXP(トータル経験値) :188

 NEXT(次のレベルに必要な値):240



 装備


 鉄剣 

 ATK+30


 熊革の胸当て 

 DEF+15


 安全靴

 ATK+2 DEF+5



 お、おおお。一気に全能力値が2ケタに上がってる!

 レベルも一気に5かよ。あの鳥どんだけ経験値高かったんだか。

 む、この能力値の上がり方、俺ってレベルアップする時レベルの数値と同じ分だけ能力値がアップするのか?

 最初はLv1で能力値0スタートだったけど、もしかして大器晩成タイプだったりするのかな。だとしたらレベルが20くらいになればステータスはまともな数値になりそうだな。先は長いが。



 で、次は。



「アルマ、ステータスの確認をしてみないか?」


「うん。さっき、大きなゴブリン倒した時にレベルが上がって、ジョブチェンジの選択肢が頭の中に浮かんできて、パラディンを選んだの。どうなったか見てみたい」


 ジョブチェンジって、条件を満たしたその場でできるのか。

 教会とかにわざわざ行って変更する必要があるのかと思ってたわ。


「おお、やったじゃないか! どれどれ…」




 アルマティナ


 Lv10


 年齢:16


 種族:人間


 職業:パラディン


 状態:正常



【能力値】


 HP(生命力) :211/211

 MP(魔力)  :126/126

 SP(スタミナ):70/90


 STR(筋力) :100

 ATK(攻撃力):100(+30)

 DEF(防御力):92(+20)(+10)

 AGI(素早さ):105(+16)

 INT(知能) :133(+5)

 DEX(器用さ):64

 PER(感知) :106

 RES(抵抗値):85

 LUK(幸運値):45



【スキル】

 剣術Lv4 攻撃魔法Lv4 体術Lv3 投擲Lv1 魔法剣Lv2



 EXP(トータル経験値) :2034

 NEXT(次のレベルに必要な値):2500



 装備


 鉄剣(付呪1)

 ATK+30(INT+5)


 蜥蜴革の胴当て

 DEF+20


 風のブーツ

 DEF+10 AGI+16




 ぶっ!?

 な、なんだこりゃ!

 ジョブチェンジの際にボーナスでもあるのか、色々凄まじいことになっとる!



「の、能力値が大幅にアップしてる。スキルレベルも剣と魔法が4、体術が3、魔法剣が2に上がってる…」


「…すごいことになってるみたいだね。まるで自分のことじゃないみたい」




 これは、ウカウカしてたらアルマの足手まといになりかねんな。

 積極的にレベルアップして、能力値の差を縮めていかないと。

 そのためにもさっさとギルドに報告して、レベル上げのための魔獣狩りの準備をするか。ですとろーい。


お読み頂きありがとうございます。


追記

時々修正入れてますが、誤字脱字を直したりしてるくらいです。

話の内容が大きく変わるときには報告致します。

レベルアップの際に、回復するのはHPとMPだけで、SPと状態異常は基本的に回復しません。

また、主人公以外の人間や魔獣もレベルが上がれば回復します。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[気になる点] レベル9見習いパラディン HP(生命力) :196/196  MP(魔力)  :101/119  SP(スタミナ):70/85  STR(筋力) :90  ATK(攻撃力):90(+…
[一言] 素材を大切にし切り口だけを焦がすならともかくそうでなければ火系統は論外だよね
2021/04/25 18:36 退会済み
管理
[良い点] 努力をしているところが良い [気になる点] 白い火は青い火よりも温度は低い
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