ハイ・パラディン
十数体ものオオカミ魔獣たちが一斉に襲い掛かってくる。
一体ごとのステータスはこちらより少し下くらいで、タイマンならどうとでもできるがさすがにこの数相手に真正面から戦うのはキツい。
「アルマ、複数相手にまともに戦おうと思うな! 精霊魔法で地形を変えたりしてなるべく一対一で戦うようにするんだ!」
「分かった!」
そう言うと、俺とアルマの周りを精霊魔法で作った壁で覆った。
ただし、一方向だけあえて出入りができるように開けてある。…なるほど、これなら。
その狭い入り口からまんまとオオカミたちが一匹ずつ壁の中に侵入してこようとしている。
『グルァアアアアッ!! …ギャヒィッ!?』
で、どっから来るのか分かりきってるならいい的なわけで、入り口から入ってくるオオカミたちを強化したストーンバレットや魔力投石で狙撃。
こうなるともう鴨撃ちより楽に仕留められる。ハイ次の方ー、大丈夫ですよーちょっとチクッとするだけですぐに楽になりますからねー。
『ギャアァッ!?』
『ガブァッ!!』
『ギャインッ!?』
…レミングスかな? 死ぬために順番待ちしてるのかと思うとちょっと心が痛くなってきた気がしないでもない。
でも容赦なんかしてるとこっちの身が危ないからね。仕方ないね。
だが、向こうもこのままじゃ駄目だということが分かってきたらしく、なかなか入ってこなくなってきた。
さてさて、どうするつもりなのかな。……おおっ?
『グルアアアアァァァァッ!!』
『ガゥアアアアアッッ!!』
なんと、壁を飛び越えて上から奇襲を仕掛けてきた。
【ハイジャンプ】と【エアステップ】を組み合わせて跳躍の高さを稼いだのか。こいつらもなかなか工夫してスキルを使っているな。
それと同時に入り口からもオオカミが入ってきて多角的な攻め方をしてきやがった。集団での狩りに慣れているのが連携能力の高さから窺える。
「ヒカル! 入り口の方のオオカミをお願――」
「はぁっ!」
アルマが言い終わる前に、魔力の遠隔操作で入り口から侵入してきたオオカミを引き寄せ、
「オラァッ!!」
『『キャインッ!!?』』
気力操作で強化した膂力で、引き寄せたオオカミの身体を武器のように振り回して上から攻めてきたオオカミにブチ当てた。
こうすればオオカミを一匹無力化できるし武器が増えるし一石二鳥だな! ふはは!
「えええ……」
「アルマ、ドン引きしてないで集中集中、ほらまた来るぞ!」
「う、うん…」
いつものように顔を引きつらせているアルマに注意をしつつ、迎撃準備。
ほれほれどんどん来るがいい! このオオカミソード(仮)のサビにしてくれる!
「は、はぁっ!」
『ギャアアッ!!』
困惑しつつも的確にオオカミたちの襲撃をさばくアルマ。
同レベル帯の魔獣相手ならやっぱり余裕みたいだな。
「オラァっ! てぇっ! とりゃー!」
『ガ、ガフッ! グルゥッ!? ギャインッ!!』
こちらも負けじとオオカミハンマー(気絶)を振り回して迎撃。
オオカミたちもまさか仲間を武器として振り回されるとは思わなかったようで、攻撃される度に大きく怯んでいる。
「やっぱこの戦法は有効だな! 多分、俺以外の人も似たようなことやってるんじゃ――」
「それはない」
さいですか。
いやでも食い気味にツッコまれたけど割とマジで効果は大きいよ?
実際、あれだけいたオオカミたちも残り4~5体くらいまで減ってきてるし。
『ギャウウウアアアアアアアッッ!!!』
お、ついにボスが動くか。
いや、これまで何もしていなかったわけじゃないけどな。
連携指示を意味する咆哮や、手下たちの能力値を強化するスキル技能を使ったり後方支援に徹していたのだが、それだけじゃ勝てないということが分かったらしい。
手下たちとともに突進してきたのが感じとれたが、入り口からでも上からでもない。精霊魔法で作った壁に向かって突進している。
…まさか。
『ガルゥアッ!!!』
ズガァンッ!!
壁を轟突進であっさり破壊しおった!
なんつー強引な。
『ガアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
さらに、奴の爪や牙から光る斬撃がこちら目がけて飛んでくる。
【魔刃・遠当て】の牙術や爪術バージョンってとこか? 直撃したらまずそうだな。
アルマは、本来剣身を魔力で覆って切れ味を鈍くする技能【魔刃引き】を強化し、魔力の盾を作って防御している。
俺はオオカミシールド(御臨終)で、飛んでくる斬撃を防ぐことでなんとか無事で済んだ。盾はボロボロになってしまったが。お疲れ、オオカミウェポン(?)。
『グルオオオオオアアアアアッッ!!』
「うおおおおおおおおおおおっっ!!」
飛んでくる斬撃を防いでいる間に距離を詰め、凄まじい速さで爪や牙を振るい襲い掛かってくるボスオオカミ。
攻撃の度にスキル技能を使っているらしく、アルマの使う【魔刃・疾風】とほぼ互角の速さだ。気力操作で感知能力を強化し、魔力装甲を纏った手足でどうにかさばけているが、なかなか白兵戦の能力も高いな。
まあ、アルマの強化暴風剣と気功纏のコラボに比べたらまだまだ遅いが。
って、その気功纏を使って緩急つけて攻撃してきやがった、まずい!
『グオオオオオッ!!』
ガブゥッ! と思いっきり俺の右手に噛み付くボスオオカミ。
魔力装甲の上からとはいえ、外付けのHPが無ければ大怪我をしているところだろうな。
そうなれば、出血多量でいずれ死に至る可能性もあるだろう。相手が俺じゃなかったら今のでボスオオカミの勝ちだったかもな。
だが、勝負ありだ。お前の負けでな。
ダァンッ!!
噛み付いている腕から、パイル発動。
口の中から直接脳に杭をぶち込まれればさすがにひとたまりもなかったらしく、頭の上半分が砕けて即死したようだ。
…やっぱLv30超えてる魔獣は油断できないな。まさかあんなモロに噛み付かれるとは思わなかった。
「ヒカル、大丈夫?」
「大丈夫じゃない。服に、穴が開いちまった……」
「怪我はしてないんだね、良かった」
良くない。服の代えはあんまり持ってないのに。
やっぱちょっとレベルが上がってきて、油断や慢心をするようになってきてるのかねぇ? 気を引き締めないと。
って、そんなこと思っているうちに、後ろから残りのオオカミがアルマに向かって一斉に襲い掛かってきた!
「アルマ! 後ろっ!」
「大丈夫」
振り返りもせずに、剣を構えるアルマ。
ボコボコボコッ ザクゥッ
その構えた剣から、『水』が湧き出てくるように溢れてオオカミたちに向かって動き出して、その首を同時に刎ねた。
え、い、今のなにやったの?
「…な、なんだ今の?」
「新しい魔法剣。さっきジョブチェンジした時に習得できた。他にもいくつかスキルを獲得したみたい」
新しい魔法剣だとぅ!? いつのまに!
≪魔法剣Lv3技能【大海原乃剣】 剣の周りに大量の水を纏わせ操作し、広範囲への攻撃が可能になる技能。多角的な攻防に強く、操る水の一滴一滴に任意で魔力の刃としての特性を付加することができる≫
ジョブチェンジってことは、ついさっきオオカミたちを倒した時にレベルが上がったのか!
早速ステータスを拝見。どれどれ。
アルマティナ
Lv25
年齢:16
種族:人間
職業:ハイ・パラディン
状態:正常
【能力値】
HP(生命力) :450/450
MP(魔力) :350/362
SP(スタミナ):98/222
STR(筋力) :245
ATK(攻撃力):245(+250)
DEF(防御力):231(+100)(+15)
AGI(素早さ):232(+30)
INT(知能) :250(+100)
DEX(器用さ):184
PER(感知) :259
RES(抵抗値):200
LUK(幸運値):138
【スキル】
剣術Lv7 体術Lv7 投擲Lv3 魔法剣Lv4 攻撃魔法Lv8 精霊魔法Lv1 補助魔法Lv1 拳法Lv1
装備
Lv1 鬼喰い鮫の牙剣
ATK+250 INT+100
熊革の胴当て
DEF+100
疾風のブーツ
DEF+15 AGI+30
うーひゃー、これまたエグいくらい強化されてるなぁ。
能力値がアップしているのはもちろん、スキルの成長幅がヤバい。攻撃魔法Lv8ってなんやねん。
しかも新たなスキルに補助魔法と拳法が追加されている。補助魔法はともかく、拳法?
≪…例の護身術の使用で拳法の熟練度が上がっており、今回のジョブチェンジによる熟練度ボーナスの影響でスキルの獲得に至った模様≫
アレか。やっぱ結構なダメージソースになってたらしいし、拳法のスキルを獲得するのは時間の問題だったんだな…。
もしもスキル込みの急所蹴りを喰らったりしたら、外付けHPなんか一瞬で溶けそうだ。怖ひ。
新たなスキルの試運転も兼ねて、もう少し狩りをしたら町に戻るか。
…アルマが強くなって嬉しい反面、自分も新たな技でも開発しないと置いてけぼりにされそうだという焦りも感じる今日このごろ。
俺の周りの子たちが強すぎて、このままだとホントにヒモになりかねん…。
お読みいただきありがとうございます。




