港町へ到着
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山賊どもをとっ捕まえてから数十分。ようやく港町が見えてきた。
どうも、俺ですが現在馬車の中の空気が最悪です。原因は山賊相手に大声で怒鳴ったせいで周りの乗客を怯えさせてしまったからだけど。
下手にこちらから話しかけようものなら余計に怯えさせてしまうかもしれないし、もう黙ってジッとしてるしかない。
「…ヒカルがあんなに怒ったの、ダイジェルから逃げた日以来かも」
「前にもあんなおっかない怒り方したことあるんすか…」
「うん、私がどこかの男爵に仕えるように言われて、断ったら顔を叩かれたのを見て、すごい形相で怒鳴りながら殴り返してた」
「そういえば、前に貴族様殴って逃げてきたって言ってたっすね。自分が父に酒瓶投げられた時も本気で怒ってたみたいっすけど、カジカワさん自身がなにかされて怒るのって珍しい気がするっす」
「そりゃ、頭に矢ぁ突き刺されたら誰でも怒るだろ」
「いや怒る以前に普通死んじゃうっすよ…」
だよね。
…我ながらだんだんバケモノじみてきてんな。自分で自分が怖い。
「怒った理由は、矢を刺されたことじゃないだろぉ?」
「…?」
これまでそっぽを向いていた商人の男性が口を開いた。
「矢を抜いた後、表情が険しくなったのはそっちのお嬢ちゃんたちの方を見てからだったろ。『もしもこれが二人に当たってたら』って思ったからあんなに怒ったんじゃないんか?」
「……まあ、ですかね」
そういうことは気付いても口には出さないでほしいんだけどなー、なんか恥ずかしいし。
てか、さっきまで葬式中かと思うほどだんまりしてたのに急に会話に入ってきたなこのおっちゃん。
「さっき、山賊どもに向かって怒鳴り上げてた時はなんておっかない奴だって思ったが、よくよく見てみれば人のために怒ることができる熱いオトコじゃねーか、気に入った」
「買いかぶり過ぎですよ。さっきのだって単にキレて勢い任せに怒鳴っただけです」
「いい、いい、分かっとる分かっとる。…ワシは『カナックマート』っつーもんだ。アンタのお陰で商品を無事に次の町まで送れそうだ。町で物を売ってるところでも見かけたら是非声をかけてくれや、サービスするからよ」
「はぁ」
なんか一人で勝手に納得した挙句礼を言われた。
別に誰かのためにーとかそういうの意識してるわけじゃないんだけどなぁ。
自分のことで怒ることがあまりないのも、平気だからとかじゃなくて単に慣れてるというかどうせ俺なんてこんなもんだって半分諦めてるだけやし。
…まあいいや。そういうなら贔屓にしてもいいかな。売ってるものにもよるけど。
お、そんなこんなでやっと着いたみたいだ、長かった。
港町【ランドライナム】に到着。
他の街みたいに外に向かって出入りするための関所のようなものは無いようだが、港町というだけあって海から他の街へ行き来する船の姿が常時何隻も見える。
港町だから海の幸が豊富なのは当たり前だが、他の島や大陸からの輸入品なんかも入ってきてるようでヴィンフィートともまた違った品揃えの店が多く見える。
うむうむ、思い切って少し遠出した甲斐があったな。
「海の、潮の香りがする」
「ふわあああ……自分、産まれて初めて海を見たっす……」
「雑踏の音の中でも波の音がよく聞こえるな。…人によっちゃ寝る時に気になってなかなか眠れないかもな」
三者三様、感想を言いながら港町を眺めている。新たな町に着いた時の新鮮な気持ちはなんとも言い難い、ワクワクした気分になってくるな。
山賊どもを憲兵に引き渡したら、とりまギルドと宿を探すか。
本当は海の幸とかを早速見て回りたかったけど、もうそろそろ暗くなるころだし明日にしよう。
標識と人伝に頼りながら、ギルドに着いた。
海岸沿いに建ってるせいか、冒険者ギルドの建物っていうよりなんか海の家みたいに見える。ラムネとか売ってそう。
ギルドの外観も、入り口側の壁の代わりに手すりが設置されていて、他の街に比べて随分と開放的に見える。
さらに、中に入ってみると円形のテーブルがいくつも設置されており、冒険者たちが酒場のように飲食を楽しんでいる。…ここ、冒険者ギルドだよね? 海の家じゃないよね?
さっさと受付嬢のところに行って、魔獣討伐依頼受けるか。
…青髪クセ毛で十代後半くらいの女性が、気だるげに頬杖をついている。見るからにやる気なさそうだけど大丈夫かここのギルド。
「…あー、いらっしゃーい、見ない顔だけど新人さん?」
「…いえ、他の街から来た者です。明日から魔獣討伐の依頼を受けようかと思いまして」
「あ、そう。……うーわ、アンタなにそのステータス。スキル取得不可とか見たことないんだけど。職業も判定不能とか表示されてるし、それで戦えんの?」
「まあ、一応は」
「能力値はまあまあだけど、スキルが無いんじゃ限界あるだろうし無理はやめときなよ。こっちの薬草採取にしとかない? 魔獣草原の浅いとこにも時々生えてるし安全だよ?」
「ええと、主にパーティの新入りの子のレベリングのためなのですが」
「ああ、アンタじゃなくて後ろの子たちに狩らせるのねー、もしかしてヒモ?」
…さっきからこの子ちょっと態度悪くない?
いやまあ、本人は親切心で薬草採取とかオススメしてるかもしれないけどさ。討伐履歴とか確認すれば弱い魔獣くらいなら倒せるって分かると思うんだが。
≪…どうやら討伐履歴を確認するのが面倒で簡易な鑑定しかしていない模様≫
大丈夫かこの子。大丈夫かこのギルド。
「まあいいや。後ろの子たちばっかに働かせてないで、アンタもちっとは稼ぎなさいよヒモ男。ほら、魔獣討伐と薬草採取の依頼カードね」
「…ありがとうございます」
勝手にヒモ男認定されて、薬草採取の依頼カードまで渡された。
スキルがないことを理由に下に見られるのは久しぶりだな。なんかちょっと懐かしくも思う。
「……ヒカルを悪く—――」
「それじゃあ、今日は宿で一泊して明日から頑張ることにします。色々ありがとうございました」
「おーう、しっかり働けよー」
…半ギレしかかってるアルマの言葉を遮り、足早にギルドから脱出。
アルマが不満そうな表情をしているが、こんなことで言い争いをして無用なトラブルを起こしたくない。
「……さっきの受付、態度がすごく悪かった」
「カジカワさんのこと、スキルが無いからって小馬鹿にしてたっすね。……なんか、自分も腹立ってきたっす」
「落ち着け、もう慣れたことだ。それに、言葉じゃなくてこれからの働きぶりをみせて見返してやればいいさ」
「でも………」
「それに、薬草採取を久しぶりにやってみるのも悪くないしな。……………じゃんじゃん掘るぞー、それはもうものすごく掘るぞーふふふふふ」
「か、カジカワさん、なんかすごく不気味な顔で笑ってるんすけど、薬草採取っすよね? 大型魔獣の討伐とかに行くんじゃないんすよね?」
「……ちょっと、さっきの職員に同情する」
薬草採取に意気込みを見せると、レイナは困惑したような顔をし、アルマはこれからなにが起こるのか察して少し溜飲が下がったような表情になった。
さーて、さっきの子はネイアさんと比べてどっちが根性あるかな?
ネイアさん「なんか悪寒が…」
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