脅迫されるかそれともするか
新規のブックマーク、誤字報告ありがとうございます。
今回で累計100話目になるようです。
ここまでモチベを維持して投稿し続けられたのもお読み下さっている方々のおかげです。誠に、ありがとうございます。
どうか今後も暇つぶしにでもお読み頂ければ幸いです。
あれから二日ほど経ち、一通り買う物買って準備も整ったのでいざ港町【ランドライナム】へ。
飛んで行けばすぐに着くだろうが、飛んでいるところを人に見られる危険があるし、アルマとレイナを抱えた状態で港町まで辿り着けるか不安だし。
ダイジェルから逃げてきた時は緊急避難だったから仕方ないとして、特に急ぐ理由もないのにそんなことする必要はないだろう。
街を出る直前、レイナに向かって小さな子供二人が夫婦と見られる老人二人と一緒になにか話していた。
微笑を浮かべながら子供二人の頭を撫でると、『じゃあ、行ってくるっす!』とだけ告げて馬車に乗り込んだ。
あの二人も潰れた孤児院から来た子たちのようだ。穏やかな笑顔で子供たちを連れている老夫婦の様子を見る限り、大事に育てられているようでなにより。
で、港町行きの馬車の荷台に乗せてもらって揺られながら移動中なのですが、揺れすぎて尻が痛い。
厚めのクッションでも買っておけばよかった…。あ、そうだ魔力の緩衝材をクッション代わりにすればいいじゃん。
魔力操作ってやっぱ便利だわー。アルマとレイナは大丈夫かな?
…二人とも寝とる。こんなに揺れてるのによく眠れるな君たち。
他にもお客が何人かいるけど、どの人も馬車の揺れには慣れているのか涼しい顔をしている。あれ? もしかして俺が軟弱なだけか?
仕方ないやん、自動車っていう快適な乗り物を知ってしまっている現代人なんだし。……俺の車、どうなったんだろうな。もうバッテリー切れてると思うけど。
「ニイちゃん、アンタも港町へ行くんか?」
向かい側に座っている、小太りの商人風の中年男性が俺に声をかけてきた。
急に話しかけられてちょっとビックリした。
「はい、ちょっと用事がありましてね。まあ一番の楽しみは港町ならではの新鮮な海の幸ですけどね、ははは」
「うんうん、確かにあの町で売ってる海産物は絶品だかんな。わかるわかる」
「そちらも、海の幸がお目当てですか?」
「半分はな。ワシは商人やからヴィンフィートで仕入れた物を売るのがメインなんだわ。で、港町で仕入れたモンを他の街で売って、って具合に細々と旅しながら物を流通しとるわけなんよ」
「なるほど。ヴィンフィートは物が豊富で、魅力的な街でしたね」
「ああ、おかげでちっと仕入れすぎた気もするがな。まあその分ジャンジャン売れば儲けも増えるってもんよ」
そう言いながら、ポンポンと横にある大荷物を軽く叩きながら笑った。
一人で運べる荷物の量には限界があるが、旅をしながら物を売る商人の数は意外と多い。その総数を考えると商人たちによる物の流通が与える影響はかなり大きいと言える。
この人も、物品の流通に大きな影響を与えている商人たちの一人というわけだ。
途中で休憩をはさみつつ、半日近く馬車に揺られていると潮の香りがしてきた。
港町が近いみたいだな。やれやれ、もうしばらく馬車は遠慮したいものd
ドスッ
暢気なことを考えている頭に、不意に衝撃。
外付けのHPがあるから痛みは無いが、なんかとんでもない衝撃が頭を貫いたような。
あ、俺の頭に、矢が刺さっとるやん。
「う、うわああああああっ!!?」
向かいに座っている商人の男性が絶叫を上げた。そらビックリするわな。
馬車の御者も思わず馬車を止めたようだ。
その絶叫を聞いて、眠っていたアルマとレイナが飛び起きた。
「な、なにが起きたんすか!? って、か、カジカワさんアタマああああ!!?」
「ずっと寝てたから分からな……ひ、ヒカル、あ、頭に……!!」
目が覚めた後に俺の方を向いて、顔を蒼白にしながら口をパクパクさせている二人。
「うん、なんか、矢が飛んできて刺さった」
「へ、平気なんすか!? どうみても致命傷っていうか命に関わるような傷なんすけど!」
「お、スポって抜けた。うん、血もついてないな、怪我はしてないみたいだから安心していいぞ」
「全然、安心できないんだけど……!?」
「あ、アンタ手品師かなんかかい? こりゃ芸の一つなんか?」
「いえ、どうやら馬車の外から誰かが矢を放ってきたようです」
呆然としながら、周りの人たちがこちらを見ている。悪目立ちしたくないのに、どうしてこうなった。
…ステータスを確認してみると、HPが100ほどごっそり減っていた。
どう見ても致命傷だけど、HP的にはまだ余裕があるな。実際に脳とかが傷付いたわけじゃないからかな。
もしも、この矢が俺じゃなくて他の誰かに、例えばアルマやレイナに当たっていたかと思うとゾッとするのと同時に怒りがこみ上げてきた。
どこのどいつだ、こんなことしやがった野郎は。許さん、この矢を膝に当てて衛兵にしてくれる! いや我ながら意味分からん…。
もしかして暗殺ギルドの連中かと一瞬思ったが、マップ画面を見て確認してみるとどうも違うっぽい。
山賊と思われる反応が、馬車の周りに十数体ほど表示されている。こいつらが矢を頭にブチ当てたわけね。
「馬鹿野郎! 誰が馬車の中の客に当てろと言った! 馬を狙えと言っただろうが!」
「す、すんません、手元が狂っちまったみたいで」
「俺たちの目的は金目のものだ! 人の命じゃねぇんだよ! ああ、くそ。人死にが出ちまったんならもう今後この狩場は使えねぇぞ、憲兵が確認しに来ちまう」
んー、馬車の中の人たちを皆殺しにして金品を奪うような連中じゃなさそうだが、今回は最初の一発でドジを踏んだっぽいな。
そのせいで俺の頭にギャグマンガの如く矢が刺さることになったと。ふざけんな。
「…まあいい。おい、馬車に乗ってる奴ら全員聞け! 金品やその他金目の物を全部置いていけば命はとらないでやる! でなければさっき頭をぶち抜かれた客みたいに死ぬことになるぞ!」
死んでねーよ! いや死んでない方がおかしいけどさ。
「逃げようとしても無駄だ! この馬車は既に囲まれている! 馬車を走らせてももう遅い、道はもう塞いであるからな!」
馬車の通るはずだった道の先に、岩や倒木などで作られたバリケードが見える。
いや御者がアレに気付けば矢を射る必要なかっただろ! いい加減にしろ!
「分かったら、さっさと荷物を寄越しな! 早くしないと」
ビュンッ と大声を上げている山賊の頬に何かが掠めた。
まあ俺が投げ返した矢なんだけども。
ツー、と山賊の頬から血が垂れていく。
「っ!?」
「お、おい! なにしやがる! 死にてえのか!」
「うるっさいわボケェッ!!!」
自分でもビックリするくらいでっかい声が出た。
気力強化で喉と肺を強化して思いっきり怒鳴ってやったけど、大型メガホンでも装備してるんじゃないかってくらい声の大きさが強化されている。
だが驚く気持ちよりも、もしもアルマやレイナに危害が及んでいたらという怒りの方が大きい。
「う、な、なんだテメェは……!?」
「おい、さっき矢ぁ飛ばしやがった奴は誰だぁっ!! ブチ殺すぞクソがぁっ!!」
「ひ、ヒイィィッ!!?」
山賊たちが悲鳴を上げているが許す気持ちは微塵もありません。
もうこうなったら全員ボコボコにして憲兵に突き出したる! 全員Lv20にも満たない雑魚ばっかだし。
「そ、そんなこけおどしにビビると思うか! 矢を放てるのは一人じゃないんだぜ! 降伏しないとあらゆる方向から矢が飛んでくるんだぞ!」
あっそ。それで?
アイテム画面に入れておいた野球ボール大の石をいくつか魔力気力生命力で覆い、遠隔操作。
器用さが上がった影響か、複数の対象を同時に操れるようになってきて、石くらいなら5個は操作可能だ。
魔力装甲で覆った石を飛ばし、マップ画面と魔力感知を頼りに弓を持っている山賊たちの腕にブチ当て無力化させていく。
「ぎゃあああっ!? い、痛ええええ!!」
「う、腕がああ!?」
「ゆ、弓を持った奴らが次々に……!」
さて、これでもう遠距離からの脅威はなくなったな。
メニューを見る限りじゃ魔法使いなんかも居ないようだし。
「おい、今すぐ道を塞いでるあのゴミの山をどけろ。そんで無抵抗で捕まるならこのまま憲兵に突き出すだけで勘弁してやる」
「ふ、ふざけんな! 誰がそんなあっさり捕まってやるもんかよ!」
ズガァンッ! と抗議の声を上げている山賊のリーダーと思われる男の横にある岩が砕けた。
魔力装甲で覆われた石を高速でブチ当ててやっただけだが、もしも人体に当たったら、……想像したくないな。
「なんか言ったか?」
「おい! 野郎どもさっさとバリケード片付けんぞ早くしろでないと殺されるっ!!」
大声かつ早口で手下に必死の形相で指示を出すリーダー。
指示を受けた手下たちは、見ていて思わず感心するほど洗練された動きでバリケードを片付ける準備を進めていった。
お前ら、そんなに連携能力高いなら山賊なんかしてないでどっかの衛兵にでもなれよ。膝に矢受けなくていいから。
「はぁ、とりあえず安心かな」
溜め息を吐いて、馬車の中に戻ると乗客の何人かが気絶しているのが見えた。
山賊の襲撃がそんなに怖かったのか。可哀そうに。……いや、意識を保っている人たちの状態に【恐怖】(対象:梶川光流)とか表示されとる。
どう見てもさっき俺が怒鳴ったのが原因です、本当にありがとうございました。…どうしてこうなった。
しばらくしてバリケードの撤去が完了した後、山賊全員をふん縛って荷台にぶち込んで走行を再開できた。
街に着くまでみんな終始無言。時々こちらに怯えたような視線を周りの人が送ってきて気分は針の筵。
さっきまで談笑していた商人の男性は一瞥すらしてくれない。もうやだ。
やっぱ街から街へ移動する時は飛んでいった方がいいのかねぇ…。
お読み頂きありがとうございます。




