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第6章 「美術室に轟く銃声!吹田千里准佐は大和川河川敷に急行せよ!」

 その時、薄汚い邪悪な殺気が、私の感覚系を刺激した。

 微かに、だが確実に。

「むっ…?」

 次の瞬間、私の頭の中でスイッチが切り替わったの。

「えっ、千里さん…?」

 英里奈ちゃんが怪訝な声を上げた時には、私は次の行動に移っていたね。

 椅子を蹴倒してガンケースを手にすると、私は窓際に駆け寄った。

 ガンケースの中身を取り出し、速やかに組み立てる。

 中1の時から何度も繰り返した動作だもの、目を閉じていたって出来るよ。

 私は窓を開けると、レーザーライフルを構えてスコープを覗き込んだ。

「ターゲット確認…撃ち方、始め!」

 照準器に映った黒い影に向けて、無言でトリガーを引く。

 確かな感触を伴って、銃口からレーザー光線が放たれる。

 銃声の数秒後、人の物とも獣の物とも判別がつかない断末魔の絶叫が、生体強化ナノマシンで強化改造された私の耳に、微かに届いた。

 謎の黒い影は、大和川の方角に向けて黒煙を上げて墜落していく。

「敵ですか、吹田さん?」

 お下げにした黒髪が印象的な遊撃服姿の少女が、黒塗りの鞘に納められた日本刀に手を掛けながら、私に問い掛けてくる。

 京花ちゃんと共に「御子柴1B三剣聖」の一角を担う、淡路かおる少佐だ。

「ちさ、何を撃った?」

 愛用の大型拳銃を手にしたマリナちゃんが、かおるちゃんに続く。

「何者かは分からないけれど、何か邪悪な気配がしたんだ…」

 私の行動を目にしたみんなの反応も素早かったよね。

 特命遊撃士は各自の個人兵装を構え、特命機動隊の曹士の子達はアサルトライフルに銃剣を取り付けて。

 振り返って見たけど、改めて感心したよ。

「えっ…?えっ…?」

 その中でただ1人、美術の茨木先生がオロオロと狼狽えていたね。

 内気で気弱な英里奈ちゃんですら、レーザーランスを構えて臨戦体勢を取っているんだから、少しは大人として見習って欲しいよね。

「あっ!吹田さん!」

 美大を卒業して間もない美術教師のオロオロとした声を背に受けながら、私は3階の窓から飛び降りたんだ。

 この状況で言うのもあれだけど、穏やかな春の風が、実に気持ちいいな。

「いよっと!」

 土煙を巻き上げて校庭に着地した私は、すぐさまレーザーライフルを構えて立ち上がった。

 当然だけど、擦り傷の1つも有りはしないよ。

 もっとも、一般人の子達が同じ真似をしたら、大怪我じゃ済まないけどね。

「何…何が起こったの?」

「見て、睦美ちゃん…飛び降りてきたあの子、A組の吹田さんよ…」

 白い体操服姿の一般生徒と体育教師が、何事かとこちらを一斉に振り向いた。

 振り向いた顔は、驚きの表情で統一されている。

 まあ、平和ボケした一般生徒と民間人風情には無理もないかな。

 普通に体育の授業をしていたら、いきなりレーザーライフルの銃声が轟いて、その直後に武装した私が3階から飛び降りてきたんだから。

 でも、もしも適性検査の結果が陽性だったら、今こうして遊撃服に身を包んで、銃器を振り回していたのは、君達だったかも知れないんだよ。

「す…吹田さん!これは一体…?」

 一般生徒の一団と全く同じ表情をした美術の茨木瑞生先生が、窓から首を出してオロオロとしている。

 あの先生はどうやら、生まれてから今日まで、一度も人類防衛機構に所属する事もなく過ごして来たみたいだね。

 それが幸せなのか不幸なのかは、私には分からないけれどね。

「先生、お下がり下さい!後は我々にお任せを!」

 特命機動隊の曹士2人に羽交い締めにされて、女子大生気分の抜けきっていない美術教師の年若い顔が引っ込んでいった。

「千里さん!」

 代わりに窓から身を乗り出したのは英里奈ちゃんだった。

 それに呼応するように、美術室の窓が2箇所ガラッと開き、B組のサイドテールコンビが身を乗り出した。

 各々の個人兵装を構えて、私と合流するべく、速やかに窓から飛び降りられる体勢を取っている。

「千里ちゃん!」

「私達の助力は必要か、ちさ!」

 表情こそシリアスになってはいるものの、焦りや戸惑いの色は微塵もなかった。

 それでこそ、誉れ高き防人の乙女。

 それでこそ、正義を旗印に戦う特命遊撃士だよ。

「ありがとう、3人とも!でも、これから支局に報告するから、私1人で大丈夫だよ!それからね、英里奈ちゃん!」

「千里さん、どうしましたか!」

 窓から身を乗り出して叫ぶ英里奈ちゃんに、私は少し寂しげに微笑んだ。

「ゴメンね、英里奈ちゃん…約束、守れなさそうだよ…英里奈ちゃんのデッサンモデルは、他の子にお願いしてね!」

 こう言い残した私はレーザーライフルを左手に持ち替えると、右手で取り出したスマホで支局のオペレータールームを呼び出した。

「こちらは吹田千里准佐であります。正体不明の未確認飛行物体が堺県立御子柴高等学校に迫りつつあったため、レーザーライフルで撃墜致しました。対象は大和川の河川敷に墜落した模様です…既に特命警務隊が到着し、現場検証を開始している?撃墜した標的は敵性生命体?はっ、承知しました!直ちに急行し、合流して捜査に協力致します!」

 歩きながらスマホで報告を終えた私は、呆気に取られた顔をした一般生徒と体育教師を尻目に、レーザーライフルを両手で構えて走り出した。

 目指すは大和川の河川敷。急げ、吹田千里准佐!

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― 新着の感想 ―
ほのぼのとした授業から一変して緊急事態となりましたね。 特命遊撃士だけでなく、特命遊撃士までも直ちに臨戦態勢になったところは、不謹慎ながらカッコいいと思ってしまいました。 中でも、いち早く敵を感知、捕…
[一言] 学校を目指していたのか、そのさらに先を目指していたのか、学校の手前を目指していたのか……謎が残りましたなぁ。
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