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エピローグ第12章 「守りたい街、守りたい笑顔」

 ここで私は、ちょっとした好奇心に駆られたんだ。

「ねえ、おばさん…?マリナちゃん達からおばさんへは、私の事はどんな風に伝わっているんですか?」

「な…!お…おい!待てよ、ちさ!」

 そんなにやたらと言い淀むだなんて、いつものマリナちゃんらしくないよ。

 ついさっきの英里奈ちゃんじゃあるまいし。

「なあ、お京からも何とか言ってくれよ!」

 サイドテールコンビのパートナーにして、養成コース時代からの親友である京花ちゃんに、このように助け船を求めたんだけど。

「意義あり!吹田千里准佐は、和歌浦マリナ少佐による自身の評価を、第三者の公正な証言として聞く権利を有している物と判断します!」

 京花ちゃんは、マリナちゃんではなく、私の側についてくれたんだ。

 冗談めかしてか、殊更に改まった言い回しだけど。

「お、おい…マジかよ、お京…」

「満更、悪い事を言ってる訳でもないんだし、おばさんだって、マリナちゃんが千里ちゃんの事を憎からず思っているエピソードとして、話題に挙げようとしているんだよ。そこまで頑なにならなくても、別に良いんじゃないかな?」

 要点を実に的確に押さえた、フランクだけど説得力のある諭し方法だね、京花ちゃん。

「ううむ…まあ、ね…」

 親友にここまで言われたら、マリナちゃんとしても了承せざるを得ないよね。

 何とも歯切れの悪い口調が、気になる所だけど。

「マリナちゃんは千里ちゃんの事を、『よく笑う明るい性格で、友達グループの雰囲気を大事にしている。』って言っていたね…」

 老舗の駄菓子屋を切り盛りしてきたベテランの女主人は、年の割には聞き取りやすい明瞭な口調で、このように切り出したの。

「うん!それから…?」

 思わずせっついてしまった私にも、嫌な顔1つ見せず、駄菓子屋店主が教えてくれた、マリナちゃんの私への評価は、実に肯定的な内容ばかりだったね。

 京花ちゃんが保証していた通りだったよ。

 曰く、「天真爛漫で子供っぽく見えるけど、少しでもギクシャクしたムードを感じたら、例え自分が道化役になってでも、私達のグループの雰囲気を良くしようとする。アイツは、そんな気遣いが自然と出来るヤツなんだ。」とか。

 或いは、「ちさが作戦中の怪我で昏睡状態になった直後は、私達のグループは大変だった。英里は喪中の未亡人みたいに沈み込むし、お京の軽口も空回り。雰囲気も気まずく、私も、『このままこのグループもバラバラになってしまうのか?』と諦めかけていた。しかし、週1でお見舞いに行く事になって、私達の関係性は修復された。病院のベッドに横たわり、機械に繋がれて眠り続けているけど、ちさは生きている。その事実が私達の絆を繋ぎ止め、より一層強固にしてくれた。昏睡状態でベッドに横たわる、ちさの小さな身体が、とても大きな存在に感じられた。」とかね。

 正直言って、「聞けて良かった。」って思ったよ。

 特に、自分が昏睡状態で入院していた時の出来事なんて、私としては知りようがないからね。こうして誰かに教えて貰わない限り。

「私の事、そんな風に思ってくれていたんだね。そんな肯定的に受け止めてくれているなら、隠さなくたって良いのに…」

 駄菓子屋のおばさんの話を聞き終えた私は、マリナちゃんの方に向き直ると、キチンと正しい姿勢に座り直したの。

 何しろ、私の事を細かく見てくれているだけではなく、長所もしっかり見つけてくれているんだからね。

 上官としては勿論の事だけど、親友としても敬意を払わないといけないよね。

「なんか…照れ臭かったんだよ。これ見よがしに自分の善行を自慢しているみたいでさ。」

 私にこのように応じるマリナちゃんは、照れ隠しのためなのか、右耳の上辺りを軽く掻いていたんだ。

 その周辺に手をやると、ボリュームのあるサイドテールが、否応なしに強調されるよね。

「ホント、ここじゃ隠し事も出来ないよ…」

 右耳の上を掻くのにも飽きたのか、再び頬杖の姿勢を取ったマリナちゃんは、深々と大儀そうに溜め息をついたんだ。

 何とも気だるげで退廃的な雰囲気だよね。

「まあまあ…そんなにボヤくもんじゃないよ、マリナちゃん。」

 マリナちゃんを諌める私に同調するかの如く、感慨深そうに何度も頷いたのは英里奈ちゃんだった。

「おっしゃる通りです、千里さん。マリナさんにとって、アヤメ菓子店のおば様は、喜びも悲しみも包み隠さずに素直に吐露して、甘える事の出来る方。(わたくし)には、そのように御見受け出来ましたが?」

 英里奈ちゃんは空気を読むのが上手いから、時々こうして鋭い観察力を発揮する事があるんだよね。

 まあ、御両親や使用人の人達に口喧しく叱られながら育ったから、人の顔色を伺う癖が自然についちゃったんだろうけど。

「ふぅん…そういう物なの、英里?」

 頬杖はついたままだけど、やや目線を上げたマリナちゃんの顔には、先程までの気だるげな雰囲気は、少しも残っていなかったの。

 どうやらマリナちゃんとしても、思い至る節があるんだろうね。

「はい!より端的に申し上げれば、保護者のような、故郷のような方といった所でしょうね。」

 今度は駄菓子屋のおばさんが、英里奈ちゃんに向かって何度も感慨深く頷く番だったよ。

「貴女はいい所に目をつけているね…お店に来てくれる子達は、私にとっては自分の子供のように可愛いんだよ。マリナちゃんや京花ちゃんだけじゃない…こうして来てくれた千里ちゃんや英里奈ちゃんも、私にとっては娘みたいな物だね。」

 駄菓子屋のおばさんの話を聞き終えた私と英里奈ちゃんは、思わず顔を見合わせちゃったんだ。

「成る程…マリナさんにとってのおば様は、(わたくし)にとっての登美江さんに当たる方という事でしょうか?」

 英里奈ちゃんが具体例として思わず挙げた「登美江さん」っていうのは、生駒本家に雇われているメイドにして生駒本家御令嬢の一番の理解者である所の、白庭登美江(しらにわとみえ)さんの事だよ。

 登美江さんは英里奈ちゃんの保護者や親族の役割も果たしてくれていて、今年のつつじ祭では、御両親の代わりに英里奈ちゃんの様子を見に来てくれたんだ。

「うん、そういう事!それにしても…聞いた、英里奈ちゃん?『私と英里奈ちゃんも、娘みたいな物。』だってさ!こう言われちゃったら、また遊びに来ないとダメだよね、英里奈ちゃん!」

 私は英里奈ちゃんと笑い合いながら、駄菓子屋のおばさんとマリナちゃんの一連のやり取りに、ふと思いを馳せていたの。

 暖かく迎えてくれる人達やホッと出来る場所は、誰にでも必ずあるんだよね。

 そしてそこでは誰しもが、気負いやメンツといった重い荷物を棚上げして、素直な自分に戻れるんだね。

 それって、とっても素敵な事だよね。

 そして、そういう誰かの大切な人や場所を守るのが、防人の乙女である私達だという事にも、改めて気づかされたよ。

 都市防衛の任を帯び、管轄地域の平和と秩序の維持のため、それらを脅かす邪悪と戦う。

 それこそが、防人の乙女である私達の本分だ。

 しかし、「管轄地域の防衛」というのは、単に都市機能やインフラだけを守っていれば良い訳ではない。

 そこに住む人々の生命財産は当然として、人々の絆や思い出もまた、私達の防衛対象なんだ。

 口で言うのは簡単だけど、それが決して容易ならざる道のりだって事は、よく分かっているつもりだよ。

 だって、支局で行われる講義や式典の前後では毎回のように、特命教導隊の先生達や幹部のお偉いさん達から承っている事だもの。

 それに私達自身、作戦参加中に何度も痛感させられている事でもあるからね。

 でも、それがどんなに困難な事だからって投げ出す訳にはいかないし、投げ出すつもりも毛頭ないよ。

 だって、管轄地域に生きる民間の人々との絆や、生まれ育った町に息づく思い出は、私達にとっても大切な物だからね。

 管轄地域に生きる人々が素直になれる大切な人と場所を、大好きな戦友達と力を合わせて、これからも守っていこう。

 駄菓子バーの和やかな雰囲気に浸りながら、私は特命遊撃士としての誓いを新たにしたんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 絶対、護りたいよね。 例え、どんな相手だろうとも。
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