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第13章 「校舎屋上の陽だまりにて…特命遊撃士、ひと時の休息。」

 現場検証を終えた私が御子柴高校に戻った時には、4時限目の授業も半ばに差し掛かっていたんだ。

 当然だけど美術の授業なんか、とうの昔に終わっていたよ。

 のっぺらぼうのままで放置した人物デッサンの課題、どうしようかな…

 まあ…考えても、なるようにしかならないよね。

 昼休みにリフレッシュしたら、気を取り直して午後の授業に臨もうか!

 爽やかに晴れ渡った青空は抜けるようで、気温は暑過ぎもせず寒過ぎもしない絶妙なバランス。

 こんな素晴らしい気候に恵まれた日の昼休みなんだから、教室や学食を飛び出しちゃって、屋外でお弁当を広げたくなるのが人情だよね。

 誰しも考える事は同じみたいで、仲の良い者同士で中庭の木陰や校庭の花壇の縁等に腰掛けて弁当や購買のパンを食べている様子が、ここからだと良く見えるね。

 ここは何しろ、御子柴高校通常教室棟の屋上なんだからさ。

 柵と金網があって、一応施錠されてはいないけれど、万一の事を考えてか、一般生徒はあまり立ち入らないんだよね。

 もしも金網が外れて落っこちでもしたら、大怪我じゃ済まないもん。

 その点、私達みたいに人類防衛機構に所属している子達は、ナノマシンによる生体強化改造済みだから、校舎の屋上から転落した位ではビクともしないんだ。

 私が2時限目の美術の授業時に、レーザーライフルを抱えて窓からダイブ出来たのも、そういう事なんだよ。

 そういう訳で、校舎の屋上でお昼ご飯を食べている子がいたら、その子は十中八九、人類防衛機構の一員だと考えていいね。

 かく言う私達4人も、ピクニック気分でお弁当を広げに、こうして屋上に来た次第なんだよね。

 いいよね、これぞ青春真っ盛り!だけど…

「う~ん…」

 購買が300円で売っているロコモコ丼を割り箸でつつきながら、青いサイドテールの少女が低い唸り声を上げている。

 普段の京花ちゃんは明朗快活な主人公気質の子だから、こういうシチュエーションにはドンピシャなんだけどね…

「京花ちゃん、どうかした?嫌いな物でも入っていたの?」

 ノンアルコールカクテルのアルミ缶から唇を離した私が、中身を飲み込んでから京花ちゃんに話し掛ける。そこまで言って私は、自分の発言に穴がある事に、遅まきながら思い至ったんだよね。

 両親に持たされたお弁当や小学校の給食みたいに、選択権のない場合ならばいざ知らず、自分のさじ加減で好きなメニューを選択出来る学食や購買の弁当で、嫌いなオカズが入っているメニューをわざわざ買う物好きは少ないだろうね。

 案の定、京花ちゃんは私の問いに対して、首を横に振る事で応じている。

「ううん…弁当には不満はないんだよね。問題は、こっち…」

 そう言って京花ちゃんが私に示したのは、ノンアルコールビールのアルミ缶だった。ドイツ麦芽を使った本格派で、焼酎の割り材としても優秀なんだよね。

「ノンアルコールビールがどうかしたの、京花ちゃん…?」

「どうもアルコールが入っていないと、飲んだ気がしないんだよね…」

 京花ちゃんは、何とも物足りなさそうな表情を浮かべている。

 気持ちは分かるよ、京花ちゃん。

 私だって今この場で、お母さんが作ってくれたサンドイッチを肴に、カルーアミルクかサングリアを決められたら、どんなに気分がいいだろうと考えちゃうよ。

 ましてや、こんなに良い天気で大好きな親友と一緒なんだから、ここにお酒があれば、まさに言う事無しだよ。

「気持ちは分かるけど、場所をわきまえようよ。ここは校内だよ、お京。」

「うん…」

 京花ちゃんが飲んでいるのと同じノンアルコールビールを、購買で買ったカレーパンとホットドッグをツマミに頂いていたマリナちゃんが、トーンを落とした静かな声で京花ちゃんを(たしな)めた。

 人類防衛機構に所属する私達は、未成年でありながら飲酒が許可されている。

 それは、私達に投与された生体強化ナノマシンがアルコールで活性化し、負傷や疲労の回復を早めてくれる特性を持っているからなんだ。

 配属先である第2支局内での勤務中に飲むのは、私達にとっては当たり前の日常だし、バーや居酒屋にも、同世代の一般人の子達がファーストフード店に道草するノリで放課後立ち寄ったりもする。

 そんな私達だけれど、1ヶ所だけ飲酒を自粛している場所があるの。

 それは、在籍している学校の敷地内なんだ。より正確に言えば、人類防衛機構に入隊した生徒と一般生徒の共学方針を取っている学校内だね。

 理由としては単純明快で、校内で私達が好き勝手にお酒を飲んでいるのを見た一般生徒が、羨ましがって真似したら風紀が乱れてしまうからなんだ。

 学校のゴミ箱に缶チューハイやカクテル瓶が捨てられていても、それが飲酒の許可されている私達が捨てた物なのか、或いは一般生徒が捨てた物なのかは判別不可能だからね。

 裏を返すと、人類防衛機構の付属校だったら、全校生徒全員が人類防衛機構のメンバーなので、校内での飲酒は許可されるんだよ。

 もしかしたら、これも付属校の長所かも知れないな。

 そうは言っても、この堺県立御子柴高等学校は一般生徒との共学校だから、郷に入っては郷に従うしかないよね。

 何しろ「人類防衛機構5箇条の誓い」には、「私達人類防衛機構は、市井に生きる善良な市民の皆様に希望を与える勇士に相応しい、矜持ある振る舞いを常に心掛ける事を誓います。」って条文があるんだもの。

 正義の守護者を自認する特命遊撃士である私達が、一般生徒に悪影響をもたらしたらダメだからね。

「それは分かるよ、マリナちゃん…だけど…」

「物足りないんだよね?分かるよ、京花ちゃん。」

 私の問い掛けに、京花ちゃんは小さく頷いた。

 校内で飲酒は御法度と言う事は分かっている。

 だから、せめて気分だけでもと思って、ノンアルコールビールやノンアルコールカクテルなどを持ち込んではいるけれども、何だか違うんだよね。

「ヘビースモーカーだった私の父親が、会社のタバコ休憩が撤廃されたのをきっかけに、最近禁煙を始めたんだよね。物足りないから禁煙パイプやニコチンガムを使ってはいるものの、今のお京みたいな腑に落ちない顔をしていたっけ…」

 市内の「タマブサ飲料」っていう飲料品メーカーに、営業職として勤務しているマリナちゃんのお父さんも、「何か違う…」という気分だったんだろうね。

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― 新着の感想 ―
飲酒可能な人類防衛機構のメンバーからすれば、一般生徒との共学の学校は窮屈かもしれませんね。 ちょっと時系列があやふやになっているのですが、本章は現在に戻っているんですよね? 千里さんが准佐で、他の方…
[一言] >校舎の屋上から転落した位ではビクともしないんだ 『バキ』における、ジ○ックとシ○ルスキーの「人間じゃねェ………ッッ」的なやり取りが可能かもしれぬ(ォィ そしてアルコール! うぅむ……飲め…
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