第9章 「天突く爆煙、ホーミング・ミサイル!」
本隊が到着するまでの時間稼ぎも兼ねた初動作戦は、概ね成功したんだよね。
軍用スマホから随時送られてくる、ユリカ先輩の的確な指揮。
そして、特命機動隊御堂分隊の高い練度とチームワーク。
この2つのファクターが、養成コース修了間もない私達の未熟さを補ってくれて、その上で潜在的能力を最大限に引き出してくれたの。
「まずは右…お次は左目も頂くよ!」
私のレーザーライフルから放たれた光線が、口から火炎放射をしようとするサイバーティラノの両目に命中した。
「やった!」
私の歓声に呼応するかのように、サイバーティラノの両目からジュッと白煙が上がったんだ。
レーザー光線で焼き潰された両目を短い前足で何とか押さえようとしながら、サイバーティラノが苦悶の絶叫を上げているよ。
「今です!奴の口にミサイルを!」
空から迫り来るサイバープテラノドンをレーザーライフルで次々に撃墜しながら、私は武装特捜車に指示を出したの。
「はっ!承知しました、吹田千里少尉!」
武装特捜車に乗った中津麻衣子上級曹長が、美しい略式敬礼で応じてくれる。
「上牧みなせ一曹!ホーミング・ミサイル、発射準備!」
「承知しました、中津麻衣子上級曹長!ホーミング・ミサイル、発射準備!」
張りのある復唱の声は、助手席から聞こえてきた。
助手席でコントロールパネルを預かる初々しい曹士の少女が、慣れた手つきでルーフのミサイル砲を操作する。
「目標補足、照準良し!」
コントロールパネルのモニターで照準を確認した曹士の少女は、緊迫した面持ちで運転席に陣取った上官の判断を仰ぐ。
これこそ、上牧みなせ曹長の若き日の姿だよ。
こんな事を言ったら上牧みなせ曹長から、「県立大1回生を捕まえて『若き日の』はあんまりですよ!」って文句を言われちゃうかな?
だけど、人に歴史あり。
この頃は本当に初々しい、御子柴高校の1年生だったんだから。
「ホーミング・ミサイル、撃ち方始め!」
「復唱します!撃ち方、始め!」
武装特捜車のルーフから発射されたミサイルが、白い糸のような煙をウネウネと吐きながら、サイバーティラノの大きく開いた口に突っ込んでいく。
思わぬ差し入れを飲み込んだサイバーティラノの頭部は内側から派手に弾け飛び、大量の鮮血と脳味噌を辺りに撒き散らして倒れ込んだんだ。
だけど私達の戦果は、まだまだこんなもんじゃないよ。
さっきの遠距離射撃で撃ち抜いたサイバー翼竜が、まるでカトンボみたいに落ちていくんだからね。
コントロールを失ってヨロヨロと落ちていく様は、まるで連合軍の対空砲火でやられたドイツ軍のエルベ特攻隊みたいだったよ。
首から上を吹き飛ばされたサイバーティラノの巨体に、頭や腹をレーザー光線で破壊されて墜落したサイバープテラノドンの残骸が激突し、黒煙を上げているよ。
そして小爆発が「ボンッボンッ!」と相次ぎ、仕上げとばかりにサイバー肉食竜の身体が派手に吹き飛んだんだ。
「お見事ですよ、吹田千里少尉!」
武装特捜車の窓から身を乗り出して誉めてくれた上級曹長のお姉さんに、私は笑って親指を立てる事で応じたの。
「あっ、いけない!中津麻衣子上級曹長、上牧みなせ一曹!敵の増援が!」
すぐに真顔に戻った私は、背中の放熱板からビームを撃ちながら突進してくるサイバーステゴサウルスの頭部を照準器に捉えて、トリガーを引いたんだ。
小さな脳天をレーザー光線で吹き飛ばされて、転倒して息絶えるサイバーステゴサウルスの無様な姿と来たら、笑っちゃうよね。
戦場となった河内長野市の町を照準器越しに眺めていると、他のみんなの活躍振りもよく見えるね。
どれもこれも、なかなかに目を見張る物だったよ。