第0章 「我が母校、堺県立御子柴高等学校」
最寄り駅である南海高野線浅香山駅から徒歩で約10分の距離に位置する堺県堺市堺区香ヶ丘町2丁目1番地、堺県立御子柴高等学校。
それがこの私こと、人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局配属の特命遊撃士、吹田千里准佐の学舎なの。
大正10年の創立当時の風情を今に伝える蔦の絡まった赤レンガの中央校舎がトレードマークで、近隣には関西大学堺キャンパスと大和川があるんだ。
この御子柴高等学校に通っている特命遊撃士は、私だけじゃないよ。
私の親友にして上官でもある和歌浦マリナちゃんに枚方京花ちゃん、そして養成コース時代以来の親友である生駒英里奈ちゃんを始め、堺県第2支局に配属されている特命遊撃士や特命機動隊の曹士が多数在籍して、授業を受けたり、休み時間にお喋りをしたりといった、同世代の一般生徒の子達に限りなく近いスクールライフを送っている学校。
それが、堺県立御子柴高等学校なの。
真っ赤なブレザータイプの制服が可愛いとか、赤レンガ造りの中央校舎がお洒落だとか、長所は色々と挙げられるけど、私が個人的に感じている堺県立御子柴高校の良い所は、一般生徒との共学校であるという所かな。
私達が所属している人類防衛機構は、各国の警察や軍隊そして国連軍の手に余る様々な悪の脅威から、人類の未来と文明を守るために組織された、国際的防衛組織なの。
具体的には、マッドサイエンティストやカルト教団、武装テロリストに悪の秘密結社、そして凶悪怪獣や未確認生物UMAなどが、私達の主な敵だね。
そして、これらの悪の脅威へのカウンターとなるのが、女性の5人に1人が覚醒する、「サイフォース」と呼ばれる特殊能力なの。
このサイフォースに目覚めた女の子達をナノマシンで生体強化改造したのが、特命遊撃士なんだ。
もちろん私も、その1人だよ。
また、サイフォースには目覚めなかったか、覚醒しても微弱な力しか確認出来なかった人達のうち、志願者にナノマシンを投与して、戦闘に耐えられるように強化改造処置を施したのが、「曹士」とも呼称される特命機動隊。
その他にも人類防衛機構には、衰えたサイフォースをナノマシンの再投与と経験値で補った、特命遊撃士OGによる上部組織である特命教導隊があるね。
特命機動隊に特命教導隊、そして特命遊撃士。人類防衛機構に所属する私達を一括して「防人の乙女」と呼ぶ事もあるんだ。
こうして力を得た私達は、人類の明日を守る正義の使者として、人類の未来を脅かす悪との戦いに日夜勤しんでいるの。
しかし、忘れてはいけない事があるんだ。
それは、「防人の乙女」である私達は正義の使者であると同時に、10代から20代の年若くて前途ある少女でもあるって事なの。
そんな前途ある若者にとって、勉学は本分であると同時に、自分の未来を切り開く最大にして最強の武器であるという事も、決して忘れてはいけない事だね。
人類の未来を守る戦士が、自分達の未来を犠牲にしてはならない。
自分1人の未来を守れない者に、人類全体の未来を守る事など出来はしない。
人類防衛機構上層部のこういった意向もあって、私達は戦士と学生の二足の草鞋を履いているの。
人類防衛機構上層部も、私達が任務と学業の両立を出来るように、様々な援助制度を設けてくれているんだ。付属校の創設や、公立及び私立の一般校との提携も、それらの援助制度の一環だね。
人類防衛機構に所属している私達が通学する学校は、人類防衛機構が運営する付属校と、普通の学校である提携校の2つに大別出来んだ。
前者の付属校だと、人類防衛機構の関連施設だから、在学する生徒の全員が人類防衛機構のメンバーだね。
授業を受け持つ先生達も、特命遊撃士OGで構成された教導隊の方々ばかりだから、特命遊撃士や特命機動隊曹士の感覚がよく分かるので、「気心が通じ合えて楽だ。」って、付属校に通っている子から聞いた事があるな。
勤務日や当直日のシフトに合わせて授業が開講されたり、体育の授業を普通に履修出来たりするのも、メリットの1つに挙げられるね。
一方の提携校は、私達が通学している御子柴高校のように、一般生徒の子達も普通に通学している。私にとっては、この一般生徒の存在が重要なんだよね。
もちろん、不便な事だってあるよ。
例えば、平日に勤務日や当直日がある場合は公欠扱いで出席点を付けてくれるけど、私達に合わせて時間割を組んでくれる訳ではないから、休んだ回の授業内容を押さえておかないと、置いてけぼりを食らっちゃうんだ。
授業内容は録画配信されているから、配信された動画を支局での当直中に、放送大学の要領で視聴すれば事足りるけど、意識して消化していかないと、どんどん貯まっていくからね。
それと、学校で開講されている体育の授業に参加出来ない点も、大きなデメリットなのかも知れないね。