将来の私たち
合川晴香のひとときです。
ある美術の授業中。ふと、みんなの将来の話になった。合川晴香の隣、百夏と前、絢と話し始める。
「なんかさ、俊はすぐにはげそう。今もほら、すこしはげてない?」
「あー、前髪の方? だったら、小高もじゃない? 意外と、はげそう」
「は、俺、毛の量多いし」
私達の話に、小高がいきなり入ってくる。その様子に、小高のまわりの人たちも話に加わった。
「うん、はげはしなさそう」
「俊くんの将来は想像できるよね。なんか、このまま30代くらいになってそう」
「ああ、分かる。同窓会とかしたら、すぐに分かりそう。あいつ俊だって。変わってないなーって」
「え、老けて見える、俺?」
話の的になっている俊くん。絢の言葉を解読し、真の意味が分かったようだった。
「俺も老けて見える、俊のこと。なんかねー、……かわいい、俊」
「出たよ、かわいい発言。よくみんなに言われるよね。なんで?」
「さあ、男子のことはよくわかんないし。それよりさあ、同窓会、絶対しようね。わたし幹事したい! で、店決めはたくさん食べる俊で」
「みんな集まるかな」
「うーん、俊のお店のチョイスによるんじゃない? がっつり系だったらみんな集まんないと思う。それに、県外とか国外とか、さすがに行く人いるんじゃない? 大学とか、結婚とかで」
「意外と、俊、結婚早いんじゃない? あの顔的に、子持ちって感じするし」
「ああ。小高も、早そうじゃない?」
「そうかな。あいつ、プロポーズとか出来なさそうだし。早くて、30くらいでしょ」
「え、30も早くない?」
「そう? 私は23に結婚するもん。もうずっと前から決めてる」
「ふーん、言ったからね、絢。もし出来なかったら、めっちゃ言ってやるから。『あれー、23で結婚するんじゃなかったのー』って」
「23って難しいよ。大学出てすぐ? だし」
「大丈夫。高校のときの彼氏と結婚するもん。」
「ここまで言い切ってて出来なかったら……」
「うるさいなあ、もう。二人はあるの」
「うちはねー、25,6でいいかな」
「うん、私も。早くてそのくらい、かな」
「でも、私、あまり未来の話をしたくないな。高校とかならまだ分かるけど、結婚は、遠く感じるし」
「晴香ちゃんは頭いいとこ行くから、そんなこと言えるんだよ。大学も決めてるんでしょ?」
「○△大学」
「ほら」
「でも、なんか寂しくない? 未来の話とか」
「そう? いろいろ考えすぎなんだって」
「例えば、今こうして話している時間も何十年も経ったらすっかり忘れちゃうのかなって思うと、寂しくなる」
「ふーん。うちは感じないけど。そもそも考えてもいない、そんなこと」
「そういうもんかぁ」
「そういうもん、そういうもん」
「将来の夢はなんだっけ」
「通訳案内士」
「ああ、留学もか」
「私は正直大学に進む気がないもんなあ。だから商業系の高校生きたいし」
「うちは職業柄、大学行かなきゃ駄目だし」
「何になりたいの」
「医学療法士」
「看護大学とかね」
「専門学校も」
「みんなやりたいことあるんだね」
そして、授業が終わり。
「由良は、将来何になりたいの?」
「教師か、雑誌とかの編集者」
「編集者って、大変そうじゃない? 取材とかもしなきゃいけないし、漫画とか小説とかの編集者だったら、もっと。まあ、担当にもよるけど」
「でも、なりたいんだ」
「じゃあ、もしかしたら将来もつながっているかもね、私達」
「え? ああ、そういうこと。小説、送ってよ、私が編集者になったら」
「うん、副業みたいな感じでね」
遠い未来の話はしたくない。寂しくなっていたはずなのに、なんだか未来が楽しみになっていた。