20分三題小説「音楽」「裏切り」「おかしな主従関係」「大衆小説」
「師匠、お茶くんでください」
「はい」
「師匠、お茶菓子」
「どうぞ」
僕を師匠と呼びつつ、小間使いのように扱う彼は弟子です。僕が師匠で、彼が弟子。おかしいと思うのは当然でしょう。でもこれは僕の裏切りと言っていい行動からできてしまった師弟、いや、おかしな主従関係なんです。
何をしたかというと、僕は音楽家なんですけどね、最近なんていうか、こう、おりてこない、状態がずーっと続いていまして。
とある日なんですが、酔ったらかけるんじゃないかという提案から普段の倍、いや倍の倍はお酒を飲みました。もーこれが視界は揺らぐし、足もまるで地についてない感覚、最後には天地がひっくりかえりました。
その時看病してくれたのは弟子だったんですけど、ついでに弟子が新作を聞いてくれっていうんで聞いたんですよ。とんでもなくいい曲でした。それはもうまさにおりてきたってやつと間違うぐらいに。
そうです。朝起きた僕は完全に勘違いをしてそれを自分の曲として発表してしまいました。そしたらもう世間に大うけ、新天地に到達したなんて言われちゃって。それはちょっと嬉しかったんですけど。弟子、大激怒です。当たり前ですよね。僕はもー、ひたすらに謝ってなんやかんやあり、今に至ります。
僕は未だにおりてこない状況が続き、弟子に新作を頼っています。
やっぱりお酒は怖いですね。弟子に酔ったら書けるという事を懇切丁寧にプレゼンされた時は絶対いけると思ったんですが。
「師匠、新作できましたよ」
「ありがとうございまぁす!」
「こちらこそ」