出会い
この日、一人の老人が天に帰っていった、彼は聖人と呼ぶにふさわしい人間だった。
貧しい村に生まれ、その日の食事にもありつけない日々の生活で、わずかばかりの食事も自分の分をさらに減らし、自分よりも貧しい人へと分け与える日々を送っていた。
「今日は森へ行って木の実でも探してくるよ。」
まだ幼い妹へ優しく微笑む
「きをつけてね。おにいちゃん」
大きく手をブンブンと振り明るく振る舞う。
森の中は子供たちにとって宝の山のような存在だ、木の実やキノコ山菜や野草
多くの食料があり上手くいけば薬草などお金に変わるものも手に入る、だが危険も多い、野生の動物の他にもモンスターと呼ばれる魔物が潜んでいるのだ。
少年は森の中へ入っていく、腰にはやや大ぶりのナイフのみ、そのナイフも以前拾った折れたショートソードを自分で加工したものである。
「おっ、ルコの実が結構なっているな、あっちにはキノコも多いな」
少年は警戒しつつ、手早く摘み取る、多くの収穫に興奮し予定より奥の方へ行ってしまった。
少年の目に予想外の光景が映った、薬草の群生地である、100本200本どころではないだろう。視界の端から端まで埋め尽くされていた。
目の前の光景に立ち尽くしていると背後から物音が聞こえ咄嗟に手製のナイフを取り身構える。
薬草は人がそのまま食べても、傷の回復を早くし疲労回復効果もある野草だ、それは森の生物にも同じである、動物ならばまだいい魔物の可能性もある、知能の高い魔物であればこの場所は格好の餌場として機能するだろう。
少年の思考は最悪の方向へ進んでいく。
物音が近づく度、死へと近づく感覚。
「あらっ、可愛いお客さんね」
そこに立っていたのはローブを着た黒髪、黒目の美しい女性だった。
「ここは私の自慢の薬草畑なのよ、気に入ったなら少し分けてあげるわよ」
「ごめんなさい。あなたの物って知らなくて勝手に取ろうとしてしまいました」
少年は何度も頭を下げ必死に許しを請う
「別に怒っているわけじゃないのよ、特に柵をしているわけじゃないし畑ってわからなかったのね、たまに森の子たちも食べに来るから柵はしなかったの」
「ごめんなさい、ごめんなさい、何でもします」
何度も頭を下げつづける少年
「じゃあこの薬草あげるから少しお話相手になってもらえないかしら?」
「ほえっ?」
「私この近くに住んでいるのだけど、お話相手がいなくて少し退屈していたのよ、私では嫌かしら?」
「嫌じゃないです、ごめんなさい」
「そう、良かったわ、断られたらどうしようかと思っていたわ。採取したらお茶でもどうかしら」
「はい、いただきます」
微笑む少年と黒目黒髪の女性この光景がのちに世界に語りつながれる物語の幕開けになるのである。