サイコパス??
室長のいつもの小言が、今日は称賛に変わった。
「並木先生、やればできるじゃないですか! この二日間で生徒を三人も増やすなんて、素晴らしい!」
クビの心配が消えてよかったけれど、変わり身の早さに若干引いてしまう。
室長はほくほく顔で、わたしを褒めちぎる。
「売上に貢献できる先生になってくださいましたね。生徒だけでなく、先生方がいてくださってこの瀧田音楽教室は成り立っているのです!」
室長の目力がすごい。ギラギラしてる。
「けれどお試しレッスン期間が終わるまで気は抜けませんよ。並木先生の技量で三人ともきちんと捕まえておいてくださいね!とりわけ、八代さんは絶対によそに逃さないように!」
「はい、分かりました......」
けれど新しく入った生徒の面々には問題があるのが二人ばかりいる。
それは自称天使と、他称悪魔だ。
◯
いまレッスンルームで隣に座る生徒さんは、昨日ベティカ幻想曲を弾いてプロ並みの腕前を披露した男性だ。
彼の名前は、八代奏という。年はわたしと同じ二十八歳。モデルや俳優をしていてもおかしくないくらいに顔が綺麗で高身長で、どこか華がある。黒髪はややくせ毛で、ふわふわしていて柔らかそうだ。ブラックの襟付きシャツを着こなしている。
瀧田音楽教室は昨日から、突然現れた凄腕イケメンの話題で持ちきりだ。
「昨日、演奏素敵でした! すごく感動しました!」
「ありがとうございます」
笑顔で応える奏さん。あれだけの演奏をした本人は飄々としている。
「正直、わたしがあなたに教えられることはあまり無いと思うんですが......。とにかく、今日からよろしくお願いしますね!」
「......そうですね、こちらこそよろしくお願いします。と言いたいところですが......。ここにはピアノを弾きに来たわけではなくて、」
すると奏さんは不穏なワードで断ってから、言った。
「僕がここに来たのは、『僕ら』が渇望するものを手に入れるためなのです」
「ど、どういうことですか.......?」
「あれ? 仁伎くんから僕のこと、聞いているんじゃないですか?」
「仁伎くん? な、なにを......」
「僕が、侑紀さんを狙う悪魔なんだって」
唇の端をつり上げて、ニヤリと表情を歪ませた。それはピエロの笑顔みたいに奇妙で滑稽なものだった。
さっきまでの彼と雰囲気がすっかり変わり、うすら寒さを覚える。
「仁伎くんの言った通りですよ。僕は藤嶋侑紀の魂を頂くために下の奴らに派遣された身なんだ。......今日は、宣戦布告に参りました」
彼は芝居がかった調子でシャツの襟を丁寧に正してから、言った。
「藤嶋侑紀には、僕らの仲間、つまり悪魔になっていただきます。そのために、あらゆる手段と『人間』を利用させてもらいますね」
そして、いきなりアイドルばりのウインクを飛ばし、パチンと指を鳴らす。
「それにはあなたも含みますよ、並木十和子先生! 僕という災厄を覚悟せよッ!」
ーーわたしはしばらく呆気に取られていた。




