第五話
「どういうことだ?」
ミラさんと話し終えると、離れにある私用の部屋まですぐに戻って来ました。
すぐに後を追って来たオリオンが用意された椅子には座らず、難しい顔をして立っています。
私は優雅にリコちゃんが用意してくれた暖かい紅茶を飲みながら答えました。
「だって、魔物と戦ったりするんでしょ?」
「戦うのは俺だ。お前はトドメだ」
「それでもこんな身体じゃついて行くことも出来ないんじゃない?」
この灰原さんの身体で動いてみて思ったことは『重い』『疲れる』です。
きっと早く走れないし、体力もすぐに尽きます。
オリオンは私の言いたいことが分かったようで更に険しい顔をしました。
「だが……鍛えることは世界を巡りながらでもすることだ。向こうだって最低限動けるように訓練はする」
「私には僅かな時間でも無駄にしている余裕はないと思うの!」
自慢じゃありませんが……いえ、自慢ですが、私の身体はそれなりに仕上がっています。
母に運動スケジュールを組んで貰い、トレーニングをしていたので体力もあります。
だから灰原さんと同じペースでは駄目なのです!
この身体で魔物退治だなんて自殺行為だと思います。
それに……それに……!!
「ダイエットしたああああいっ!」
私は叫びました。
心からの叫びです。
私の見立てでは灰原さんの身体は……身長約百六十センチくらい、体重は八十キロオーバーです。
もしかすると九十キロあるかもしれません。
本来の私は身長も周りの女の子より高く、百七十センチの五十キロ未満。
体脂肪率はアスリート並なのが自慢でした。
身長はどうにもなりませんが、体重とプロポーションは何とか出来ます。
自分の身体に戻るのが一番ですが、それまではこの身体で生きていかなければいけません。
引き締めたい……手入れしたい……!
肉体改造したくてウズウズします!
「塔の扉が開くまで一ヶ月。私……死ぬ気で動けるようになります! だから……リコちゃん! リンちゃん! お願いします、協力してください」
ダイエットにはバランスのとれた食事と、適度な運動が大事です。
ですが、私はこの世界のことはさっぱり分かりません。
日本と同じ食材なのかどうかもわかりません。
時間がないので沢山助けて貰わないと無理です。
私はリコちゃんとリンちゃんに、深々と頭を下げました。
そんな私を二人はきょとんとしながら見ていましたが、少しするとにっこりと微笑んでくれました。
「もちろんです。私達はあなたのメイドですから」
「リコちゃん!」
「死ぬ気で『動けるデブ』くらいにはなれよ」
「デブッ……グファ」
「どうしました!?」
リンちゃんの口から放たれた言葉が、胸を突き抜けていきました。
「その二文字が胸を抉るの……」
「デブ」
「グヒャア!」
クリティカルヒットです、致命傷です!
私の命は風前の灯火です!
「はあ……遊んでないで、真面目に考えるぞ」
「何を?」
私達のやりとりを見守っていたオリオンが呟いたのですが、何について考えるのでしょう。
心当たりを探っていると、深い溜息を吐いたオリオンが口を開きました。
「お前の改造プランだ」
「えっ、オリオンも協力してくれるの!?」
リコちゃんとリンちゃん、二人に頼んだつもりだったのですがオリオンも協力してくれるようです。
女神の騎士様をダイエットに参加させてもいいかは謎ですが有り難いです。
「当たり前だ。一番関連があるのは俺だからな」
……確かに。
戦闘では私と二人の予定です。
少しでも足を引っ張らないように頑張らなければ!
こうして私の異世界ダイエットブートキャンプが始まったのです!