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第四話

 リコちゃんに用意された服に着替え、オリオンと二人で議長の元に向かっています。

 ここは馬車から見えた城の中のようです。

 私が寝ていた部屋は、離れのような独立したところだったので長い廊下を渡って城内に入りました。


 城の中にはリンちゃん達と同じ姿のメイドさんや兵士の姿が沢山ありました。

 皆オリオンを見ると礼をしてきたので、女神の騎士というのはとても上の立場のようです。


 私に対する視線は『これはなんだ?』という感じでした。

 不思議そうで……悪意も感じられました。

 オリオンがいることで、私が『女神の使者』だと予想はするけど『本当にこんな奴が?』と思っているのでしょう。

 いい加減拗ねたくなりますが慣れてもきました。


「ここは世界中立組織『女神の心臓(ソフィアハート)』。組織名でもあり、この辺り一帯の地名でもある。女神の使者を支えるのが主な役割だ。使者がいない間は塔の監視をしている」


 歩きながら、オリオンが説明をしてくれています。

 この城は王族が住んでいるわけではなく、女神の心臓の本部なのだそうです。

 耳を傾けながら後ろをついて行きます。


「女神の加護が無ければ世界は成り立たない。その為、ここではどの国も争いを持ち込まず協力することを盟約している。代表的な国が『理事国』として取り纏め、動かしているんだ」


 地球でいうと、『国連』のような組織ということでしょうか。

 戦争をしている国もあるけれど、世界が壊れてしまったら戦争どころではないからここでは一先ず拳を納めて協力しようよ、ということのようです。


「オリオンはその理事国に『女神の騎士』として認められているんだよね?」

「ああ」


 それって凄いのではないでしょうか。

 理事国から認められているということは、『世界中に認められた』ということだと思います。

 オリオンに『凄い』と伝えると、面倒臭そうに口を開きました。


「別に凄くはないが……女神の騎士になるのは難しいことは確かだ」

「そうなの?」

「ああ。『世界中立』を謳ってはいるが、ここで発言権が大きくなれば色んな方面で役に立つ。自国から騎士が出たら都合が良くなることもあるからな。そういう面を考慮して騎士の排出国が偏らないよう、またバランスが取れるように全ての理事国の承認が必要な仕組みになったのだが……色々あるからな」


 政治の世界、というやつでしょうか。

 大人の世界は大変です。


「面倒臭そう。でも、そんな中認められたオリオンってやっぱり凄いんじゃない!?」

「凄い凄いって……よく分かっていないのに適当に褒めているだろう?」


 前を歩いていたオリオンが振り向いて、呆れた視線を向けてきました。

 バレています。


「うん。よく分かってない」

「だろうな」

「でも凄いと思ったのは本当だよ!」

「そうか」


 私に褒められてもどうでもいい、そう聞こえる『そうか』でした。

 オリオンってドライです。


「『議長』って人も理事国から承認されて決まるの?」

「いや、議長は代々、竜の血を引く一族が努めている」

「竜!? 竜がいるの!?」


 ファンタジー色が一気に増しました!

 ファンタジーは大好きです。

 竜とか妖精とかワクワクします!


「いや、今はいない」

「え? そうなの?」


 急上昇したテンションが急降下しました。

 頭の中では竜の背中に乗せて貰って空を飛ぶことを想像していたのに!


「 『竜』自体は絶滅して、今の議長は竜と人の間に生まれた竜人の子孫だ」

「竜人……格好良い……」

「……」


 竜人という言葉の響きに震えそうです。

 そんな私をドライなオリオンが半目で見ています。

 静かに興奮しているんだからいいじゃないですか。


 人が混じったことで竜の血は薄くなっているそうですが、『確かに竜はいた』というのが凄いです。

 あれ、でも地球でも恐竜はいましたね。

 そう思うと地球もファンタジーな時代があったということですね!


 長い間話していたのですが、彼は二枚扉の前で止まりました。

 他の部屋の扉とは雰囲気が違います。

 艶と光沢のある扉は、いかにも偉い人がいるぞという感じです。


「入るぞ」


 私にそう言って視線を寄越すと軽くノックし、名前を名乗りました。


「どうぞ」


 すぐに中から応答があり、扉が開きました。

 何も言わず入っていくオリオンの後に続きます。

 入室の一言が無くても良かったのかな?

 日本人としては挨拶を欠かすことは出来ないので、遠慮バージョンの『失礼します』を言って部屋に足を踏み入れました。


 部屋の中は教室くらいの広さでした。

 思っていたより狭いですが中の造りは落ち着いていて、とても高級そうでした。

 天井まである大きな窓に真っ白の長いカーテン。

 クリーム色の絨毯には、金糸で刺繍が入っています。

 部屋の中央に置かれたソファは、細かい装飾のされた木の骨組みに座り心地が良さそうなふかふかな座面です。

 窓際に置かれた机に向かって『コ』の字型に配置されていて、そこには会いたくない人達がいました。


 『私』を奪った灰原さんとアーク達です。

 セイロンと見たことの無い大柄の男性も居ました。

 逞しい身体をしています。

 髪は深い緑色、瞳はオレンジという明るい色をしているのですが、眼光が鋭いので少し怖いです。

 歳は三十歳くらいでしょうか。

 セイロンやアークとタイプは違いますが、彼も整った顔をしていました。

 恐らく女神の騎士の一人なのでしょう。

 

 そして窓際に置かれた机には、とても美人な女の人が座っていました。

 金髪を上の方に一纏めのお団子にしていて、キリッとしています。

 黒のチャイナドレスのような、体のラインが出る服を着ているのですが……素晴らしいプロポーションです。


 『出来る女』という感じです。

 ただ者ではない感が半端ないです。

 僅かですが、瞳が細長いような……有鱗目と言うのでしたっけ?

 トカゲっぽい目です。

 瞳は鮮やかな赤、ガーネットのようで素敵です。


 どうやら彼女が『議長』のようです、竜人様です!

 ああ駄目、興奮してしまう!


 彼女は立ち上がり、私の元へ歩いて来ます。


「身体の調子はどうですか?」


 話し方もキリッしたキャリアウーマンのようでした。

 美人オーラにも圧され、緊張してしまいます。


「だ、大丈夫です!」

「そうですか、それは良かった。あまり無理をなさらぬよう……。私はミラと申します。貴方のお名前をお伺いしても?」


 握手を求められ、それに応えているとあまり聞かれたくない質問をされてしまいました。

 私の名前を語っている灰原さんの目の前なら尚更です。


「忘れました」


 リンちゃん達に答えたときと同じ返事をしました。

 ミラさんの後ろ、視界の端には灰原さん達が見えていますが、特に反応はありません。


「そうですか……。お力になれることがあればなんなりと仰ってください」


 ミラさんは私の言葉をそのまま信じてくれたようで、労る声を掛けてくれました。

 優しい……というか凄くまともな人です!

 普通に不快になる事なく話が出来ます!

 この人ならちゃんと話が出来そうです。


 私の願い。

 それは『元の私に戻りたい。帰りたい』です。


「この世界のことと、私が女神の使者だということは聞きました」

「大丈夫、お前は『ハズレ』だから。関係ないよ」


 どうすれば自分の目的を達成出来るか聞きたかったのに、途中で桃色の髪のアイツが口を出してきました。

 人が喋ろうとしているのに邪魔をしないでよ!

 マナー違反です!


「セイロン。無礼は許さない」


 ミラさんが厳しい視線をセイロンに向けました。

 かっ、格好良いです……美しいです!

 『ミラお姉様』と呼ばせて頂きたいです!


 興奮してしまいましたが、今は落ち着かなければなりません。

 セイロンがつまらなそうな顔をしながら黙ったのを見て、もう一度口を開きました。


「ハズレで結構です。私は帰りたいのですが……」


 身体のことも言いたいですが、呪いで言えないので今は聞けることだけ。

 使命を果たさないと帰れないとは聞いています。

 リコちゃん達を疑うわけではありませんが改めて聞きたいです。

 ミラさんは私とオリオンを空いているソファに誘導しながら答えました。


「それは……申し訳ありませんが、すぐには無理なのです」


 私が座ったのを確認すると、ミラさんは美貌を申し訳なさそうに曇らせました。


「ルナ様と貴方を元の世界へ帰すことが出来るのは女神ソフィアだけです。ですが、今は女神ソフィアの干渉力が弱く、こちらで力を発揮することが出来ないのです。帰るためには女神の塔を浄化して頂くしかないのです」

「使命を全うするしか帰る術はないということですか」

「ええ」


 やっぱり、リコちゃんから聞いていた話と一緒です。


「じゃあこれから、どうすればいいんですか?」

「ちょうどそのことについて……ルナ様にこれからの予定を話していたところです」

「ルナ姫と僕達は一ヶ月間、世界ツアーに行ってくるから」


 またセイロンがしゃしゃり出てきました。

 お喋りな性格なのですね。

 世界ツアー?

 観光でもするのでしょうか。

 優雅ですね。


 ミラさんはセイロンに向けて厳しい線を投げた後、私を見ながら説明を始めました。


「今現在、女神の塔は封じられていて入ることは出来ません」

「入れない?」

「ええ。塔は普段、内部に侵入出来ないよう女神によって封印されています。女神の使者が現れると開くのですが、すぐにというわけではありません。今回開くとされている日は、星が並ぶ日……一ヶ月後です。それまで、女神の使者方には世界各国にある『女神の神殿』を巡ってきて頂きたいのです」

「女神の神殿?」


 そこは『女神の心臓』の支社のようなところで、世界各国にあるそうです。

 女神に祈りを捧げる場所にもなっていて、女神と人を繋ぐ教会のような役割も果たしているそうです。 


「そこで洗礼を受け、要人との面会も……。挨拶回りのようなものなのでお頼みするのは心苦しくあるのですが。国民に向けての挨拶やパレードを頼んでくるような国もありますし……」

「女神の使者が姿を見せ、民を安心させるのも大切な使命です」


 そこでアークが口を開き、灰原さんを見ました。

 灰原さんもアークを見て微笑みました。


 ……その寒い見つめ合いはやめてください。

 私の身体を使って寒い絵面を見せないでください!


「あんたは来なくていいんじゃない? あんたみたいなのが使者だってなったら民からブーイングが起こるかもよ」

「セイロン、いい加減にしなさい。改めないのなら出て行きなさい」


 またもや余計なお喋りを始めたセイロンを厳しい声で諫めました。

 お姉様、素敵です。

 うっとりしちゃいます!

 叱られたセイロンは涼しい顔で、優雅に足を組んで座っています。


「ふーん。いなくてもいいんだったら出て行くけど? メロディア出身の僕を雑に扱って良いわけ?」


 『メロディア』というのは恐らくセイロンの出身国なのでしょう。

 そういえば面倒臭そうな『政治の世界』の話を聞きましたが……そういう話を出してきているのでしょうか。

 察するに大きな力を持った国なのでしょう。

 まるで『僕を虐めたらパパに言うぞ』みたいですね。

 おこちゃまですね……白い目で見ちゃいます。


「我々の都合で来て頂いている女神の使者に無礼を働くなどあってはならないことだ。我々は頭を下げ、助力を願わなければならない。メロディアが女神の使者を軽んじる者を自国の者として容認するのなら、それ相応の場所で議題にする必要がある」


 呆れているとミラお姉様が凜と言い放ちました。

 はあぁ……格好良いです、お姉様のようになりたい!

 まずはヘアースタイルのお団子を真似していいでしょうか!


「……」


 今度はセイロンもバツが悪そうに黙りました。

 面白く無さそうに視線を逸らしています。


「……ハズレなんだから、何言ったって関係ないじゃん。まあ、どうでもいいけど!」


 そう言うとスタスタと部屋を出て行きました。

 なんなのでしょう、あのおこちゃまは。

 出て行った扉を見ていると、逞しい男の人が続いて出て行きました。

 フォローでしょうか、保護者さんも大変ですね。


「失礼しました。話を続けましょう」

「待ってください!」


 気を取り直して、話を進めようとしているミラさんを灰原さんが止めました。


「セイロンのことを許してあげてください! 悪い子じゃないんです。私が代わりに謝ります、ごめんなさい……」

「ルナ姫……」


 元の世界では無口だったのに、灰原さんはこちらに来てからよく喋りますね。

 私が話し掛けても全然話してくれなかったのに……!

 イイ子アピールかな? と思ってしまうのは私の性格が悪いのでしょうか。

 でも、何故代わりに謝るのか分かりませんし、それに感動しているっぽいアークはなんなのでしょう。


「はっくしょい!」


 寒い……寒すぎてくしゃみが出ました。


「お前な……」


 オリオンが呆れた顔で私を見ています。

 だって寒かったんだもん!


「セイロンのことは後で話しましょう。話を戻します」


 ミラさんが、あっさり話を進め始めました。

 薄ら寒い劇場をしていた二人も少し不満そうでしたが、大人しく話を聞くようです。

 仕切り直したところで私はミラさんに尋ねました。


「その世界ツアーって、絶対にやらなきゃいけないことなんですか? 洗礼とか、やらないと危ないことになったりするのでしょうか」


 私の意思を悟ったのか、ミラさんは難しい顔をしながら答えました。


「いえ、有り体に言うとパフォーマンスなので、そういうことはありません。各国巡りはルナ様が了承くださっているので、無理にとは言いませんが……」

「だったら私は行きません」


 世界ツアーの話を聞きながらすぐに思いました。

 行きたくないな、と。


「使命を放棄するということか?」


 私の言葉を聞いて、アークが鋭い目つきで私を見ました。

 ……一々苛立たせないで欲しいものです。


「いいえ! 帰るためなら頑張ります! でも私には、そんなことをやっている時間はないんです。失礼します!」


 灰原さんとアークを視界に入れておくのは、私の精神衛生上良くありません。

 二人を交えて私の話をするのも嫌ですし、この場は意思だけ伝えて早々に立ち去ることにしました。

 ミラさんと詳しい話をしたいですが、それは二人がいない時にしたいです。

 そう思い、誰の制止も聞かないまま離れの部屋に戻りました。

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