第二十五話
私達は今まで来たことのなかった島に来ています。
寂れてはいましたが港がありました。
でも人の姿は全くありません。
今は無人島になっているようです。
廃墟となった村を通り、草木が生い茂った山肌を歩きます。
背が高くなった草を掻き分けながら進んだ先。
そこには、灰色の大きなブロック岩を積んで作った建物がありました。
二階建てくらいの高さ、日本の一軒屋によくある大きさです。
建物の前には石畳が敷かれ、両端には柱が立っています。
『神殿』のような雰囲気がします。
「久しぶりだな」
「来たことがあるの?」
「ああ。かなり昔だが。すっかり廃墟だな」
オリオンが懐かしそうに建物を見ています。
オリオンの言う『昔』とは、どれくらいなのでしょう。
というかぶっちゃけ何歳なの!?
凄く気になっています……聞けないけど!
「塔に出てくる魔物は基本的にはこの世界の魔物の変異種だ。この遺跡は塔と空間の感覚も近いし、出てくる魔物も似ている。練習には最適だ。あと、魔物の特徴と弱点なんかも言いながら行くから学習も兼ねる。体だけじゃ無く頭も使えよ?」
「うん!」
オリオンが先頭で柱の間を進み、遺跡の中に入りました。
入り口付近は大きなホールのようになっていました。
でも真っ暗です。
「光隠の印に周りを明るくする魔法があるだろう? それを使え」
「あ、うん」
姿を隠すために使っていた光隠の印ですが高位の魔物には効かないし、あまり意味がないので外すか検討したのですが、便利だから置いておけと言われていました。
こういうところで役に立つからだったのですね。
「わっ」
光で照らすと、バサバサと羽音が聞こえ……蝙蝠が飛んで来ました。
「あれも魔物だ。ポイズンバット、名前の通り毒を使う。弱いが群れて動くから数が多いことがある。これくらいなら少ない方だ」
今は六匹、こちらに目掛けて飛んで来ています。
多い時には何十匹もいるとか。
それは嫌だな……。
大体が濃い紫の蝙蝠に見えるのですが一匹だけ赤い個体がいます。
「色が違う奴がリーダーだ。大したことはないが、残してしまうと援軍を呼んだりする。面倒だから先に叩くようにしろ。翼がある魔物は、雷系の魔法に弱い。こいつらもそうだ。やってみろ、これくらいなら一気に始末出来るだろう」
宣言通り、講義付きの戦闘です。
頭を使いつつ、戦う。
忙しいです。
雷ですね、かみなりかみなり。
新しくつけた『雷鳴の印』を使いました。
初使用でドキドキしながら使うと、六匹いたポイズンバットが一斉に黒焦げになり、パラパラと落ちました。
一撃で仕留められたようです。
というか、思っていたよりも威力が大きくて吃驚しました。
「……装備凄い! こんなに違うの!?」
威力も魔力消費も、全然違います。
今減った魔力も一瞬で回復しました。
確か常時回復するし、倒しても回復すると言っていました。
「ステラ様、素晴らしいです」
「ありがとう、自分でも吃驚。装備が凄いの!」
「へえ。いいなあ」
「嫁げばリンちゃんも貰えるんじゃない? 痛あ!?」
羨ましがるリンちゃんに軽い冗談を言っただけなのに、リコちゃんの魔法書を奪い、角で殴ってきました。
「傷害事件!」
「こら、リン! 申し訳ありません、私がしっかり持っていれば」
「ふん」
「遊んでないで、進むぞ」
あ、待って、まだ痛いの。
足を止めないオリオンの後を追って、移動が始まりました。
待っててば、血が出てない!?
※※※
遺跡は地下へ伸びている構造になっていました。
地下十階まであるそうです。
塔が開くまでの期間で、ここを攻略するそうです。
『そうです』なんて、他人事のように言ってしまいましたが、もちろん私もするのです。
やってやりますよ、うん!
今は少し進んで、地下三階にいます。
一番最初に遭遇したポイズンバットがまだ良く出ます。
併せてパラライズラットという囓られると稀に麻痺になってしまう鼠、ボーンシーフという骨の盗賊が出ました。
ボーンシーフの方は、回復魔法をかけるとダメージになると学習しました。
ここまでは特に苦戦もなく来ることが出来ました。
「ここから下に行けるよ」
リンちゃんが示す所に地下四階への階段がありました。
オリオン曰く、ここから少し魔物の様子が変わるそうです。
出てくる種類も増え、難易度が上がるそうです。
気を引き締めながら階段を下りました。
「早速来ましたね」
階段を下りて四階のフロアを踏んだ瞬間、ウネウネと動く何かがこちらに近づいてきました。
「うげ」
どういう魔物か全体像が見えると思わず顔を歪めました。
「ストーンワームだな」
それは大きな灰色のミミズでした。
灰色で肉々しい色ではない分、気持ち悪さは和らいでいるような気はしますが、うねりながら動くこの動作に鳥肌が立ちます。
「石化させられると面倒だよ。弱点は水系だからステラの担当。さっさとやって」
「ええ!?」
ストーンワームに顔を顰めながらリンちゃんが背中を押してきました。
よりによってこいつの弱点が水だなんて。
というか、弱点が水でもリンちゃんがやってよ! ……なんて甘えているわけにはいきませんか。
私は水系の印、『水渦の印』をつけています。
これは回復もあれば攻撃もあります。
私が使える一番強力な攻撃魔法でストーンワームを倒しました。
「そこまでしなくても」
オリオンが魔力の無駄遣いだと言いたげな視線を向けてきますが、あれは全力を持って退けるべきです。
ああ、気持ち悪かった。
「流石です、ステラ様。さっぱりしました」
「うん!」
流石リコちゃん、良き理解者です。
リコちゃんは未だまともな戦闘はしていません。
簡単な階層では私の特訓をしようということで、ほぼ私一人で頑張りました。
なのでリコちゃんの実力ははっきりと見えないのですが、私がふいうちなどを食らい、ヘマをしそうになるとスマートに助けてくれます。
この余裕、絶対強いですね。
そしてやっぱりリンちゃんも凄いです。
戦闘面は把握していましたがそれ以外のことも凄いです。
「あ、そこに使えるものが落ちてる。あ、あそこにも。あ、そこは壁が崩れるから気をつけろ」
まるで攻略本でも見ているように落ちているものや罠を見つけます。
説明してはくれませんが、本来はアイテムや魔法を使わなければ見えないものもリンちゃんには見えているようです。
どんな目をしているのでしょう。
関心ばかりしていないで私も見習わなければ。
「あ、あったよ!」
「馬鹿、それは……」
――ボンッ
「ぎゃあああ!?」
使うと魔力が回復する『魔力球』という、野球ボールサイズの水晶玉のようなアイテムが落ちていると思い、手を伸ばしたのですが……手が当たった瞬間爆発が起きました。
び、びっくりした……心臓がはち切れそうなほどドキドキしています。
「……手が木っ端ミジンコになるところでした」
「馬鹿なこと言ってないでちゃんと見ろ!」
リンちゃんが急いで引き寄せてくれたので何とか助かりました。
有り難いです。
でも、この世界にもミジンコっているの?
「……お前、大分軽くなったな」
「うん?」
引き寄せてくれたままでいたので今も腕を掴まれています。
顔の近くでリンちゃんが何か呟いたのですが聞こえませんでした。
何かと聞こうと思ったのですが、暑苦しいと突き飛ばされました。
ヒドイ。
っていうかリンちゃん、結構力が強いですね?
あの細い腕の何処にこんな力があるのでしょう。
この体の脂肪、少し分けてあげたいです。
そんなことより『ちゃんと見ろ』と言われても、私には見分けがつきません。
「見ても分かんないよ。リンちゃん、凄いね? そういう印でもつけてるの?」
「分からないんだったら何もせずに大人しくしてろ!」
あれ、質問は無視ですか?
これも乙女の秘密なのでしょうか。
兎に角、言われた通りに大人しくしておいた方が良さそうです。
頑張ろうと思ったことが空回りしてしまいました。
でも、見分けるコツなんかを教えてくれたら勉強出来るのになあ。
「リコちゃんは分かる?」
「多少は。でもリンのように正確には分かりません」
「オリオンは?」
「分からない。トラップでも対応出来るから、欲しい時は気にせず取る。というか基本的に拾わない」
「あーあ、勿体無い。オリオンが行く所ってあまり人が出入りしてない所が多いだろうし、見逃したお宝がいっぱいありそうだなあ」
リンちゃんが残念そうに呟きました。
中身が分かっていれば、確かに勿体無いと思ってしまいますね。
それにしても、オリオンでも見分けがつかないというのは意外でした。
この後も順調に進み、地下六階まで進みました。
新たに出てきた魔物はストーンワームに続き、パーダマー。
これは見た印象、一言で言うと空飛ぶカラフルなパンダの頭でした。
パンダの白の部分が赤、黒の部分が緑というクリスマスな配色、首の辺りでは仙人の髭のような長い毛が風になびいていて魔物にしては可愛いと思ったのですが、相打ちを狙った自爆をしてくるので焦りました。
それとハサックマンという落ち葉が固まって人の形になった魔物。
これは物理攻撃をすると分裂するという特性を持っていましたが、燃やしてしまえば簡単だったので楽勝でした。
四階から六階が『中層』。
七階に下りるとまた魔物のランクが上がるということで、今日は中層で引き返すことにしました。
でも、一日で半分終わってしまいました。
ハイペースですね、明日には終わってしまいそうです。
『想定以上に戦えている』とオリオン先生にも褒めて頂きました、えっへん!




