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第二十四話

「これからは塔の中での戦闘を想定して行う。そこで塔について説明をする」


――パチパチッ


 オリオン先生の『優しい! 塔での戦闘講座』が始まりました。

 私は椅子に座って背を伸ばし、拍手を送りました。


「茶化すな」

「真面目に聞いてます」


 そんなに睨まなくても……二割くらいしか巫山戯てないもん。

 もちろん、話が始まったら全力で真面目に耳を傾けます。

 真剣な眼差しを向けて合図しました。

 さあ、どうぞ始めて下さい。


「……」


 オリオン先生は文句を言いたげな顔をしていましたが、諦めたようで解説をスタートさせました。


「塔は見たな?」

「うん」


 この世界に初めて来た時は間近で見ました。

 空高くそびえる巨大な塔は城からも見ることは出来るし、目にしない日はないくらいです。


 二つの塔は円柱で横幅はパッと見たところの印象で言うと、野球場くらいでしょうか。

 煉瓦積みの外壁に、蔦のような植物が巻き付いています。

 近くで見たときは棘が見えたので、『茨』でしょうか。


 二つの塔は少し離れて立っていて、その間は豪華客船が通り抜けられそうな程度開いています。

 見た目はほぼ同じなのですが、少しだけ違うところがあります。

 それは『色』です。

 右が鉄が錆たような暗い赤銅色、左が紫がかった黒です。


「右が『暁闇の塔』、左が『宵闇の塔』と呼ばれている」

「なんで?」

「明け方に建ったのが暁闇、日暮れに建ったのが宵闇、と言われているが諸説ある。まあ、気にするな」


 確かに、名前なんて何でもいいか。

 気になったからつい言葉にしてしまったけれど、大人しく話を聞きましょう。


「見た目は差異無いが、宵闇の塔の方が難易度が高い。向こうは恐らく、宵闇の塔に行くだろう。だから俺達は暁闇の塔を進む」


 『なんで宵闇の塔の方が難易度が高いの?』と、またすぐ思ったことを口にしそうになりましたが黙りました。

 大事なことはオリオン先生の説明があるはずです……ほら。


「宵闇の塔の敵は、麻痺や毒、状態悪化を使う厄介な敵が多い上、弱い敵でも、複数現れた場合は、弱点が正反対な組み合わせで現れることも多い。全体に火の攻撃をすると片方が回復したり、強化・凶暴化することもある。正直面倒だ」

「弱っちい奴らはパパッと纏めて始末したいよなあ」


 リンちゃんが、オリオンの説明に深く頷いています。

 私は説明を理解していくことで精一杯で、頷くどころではありませんが。


 RPGのゲームをしたことがあるので、それに似てる事象だろうと予想を立てながら話を聞いています。

 暁闇の塔はシンプルに、『火属性弱点の小物が三匹』現れた! だから、火の魔法で一掃! が出来る。


 一方宵闇の塔の方は、『火属性弱点で毒攻撃が出来る小物一匹』と、『水属性弱点で麻痺攻撃が出来る小物二匹』が現れた!

 火の魔法で全体を攻撃したら一匹倒せたけど、他二匹には火は得意な属性だったため強くなったし麻痺の攻撃してきた、動けない! ……なんてことになる。

 恐らくこういう話でしょう。

 絶対嫌だな、宵闇の塔。


「あと、宵闇の塔の方が難しいと言われる最大の理由は『巡礼者』だ」

「巡礼者?」

「そう呼ばれている魔物だ。こいつは『倒せない』と思った方がいい」

「どうして?」


 あ、聞いちゃった。

 でも、オリオンも聞いた内容を話すつもりだったようなので邪魔はしていないはず!


「こいつは、弱点属性で攻撃を加えなければダメージが通らない。その上、弱点がころころ変わるし、変化に規則性も無い。しかも、弱点じゃない属性で攻撃すると瞬時に全回復する」

「え、それって、例えば『火』が弱点の時に、普通に斬ったりしたらどうなるの?」

「単純な物理攻撃は属性無しで『弱点ではない』と判定され、全回復する。斬るなら魔法を纏わせて、属性をつけてやらなきゃならない」

「超面倒臭い!」


 一々攻撃に属性をつけるなんて、魔力がすぐに無くなりそうです。

 属性がついた武器もあるそうですが、それだと弱点属性の時にしか攻撃できません。


「属性なんてどうやって分かるの」

「道具か魔法で解析するしかないが、この解析にも苦労する。攻撃する度にしなければならないからな」


 またもや魔力を消費しますね……。


「それと基本的に塔の下層から上層に向けて、魔物の強さは上がっていくようになっているのだが……巡礼者は動き回っている。何処に現れるか分からない。塔に入った瞬間遭遇なんてこともありえるし、かなり進んだところでこいつと戦い、戻る余力がなくなるなんてことも起きうる。だから、こいつは遭遇しても戦わない方が得策なんだ。幸い、逃げることは容易いが……厄介だろ?」

「厄介すぎます」


 やっぱり絶対嫌だな、宵闇の塔。

 頑張れ、灰原さんと愉快な仲間達。


「アーク達も『巡礼者』を知ってるだろ? だったら向こうも暁闇の塔から始めないか?」


 黙って聞いていたリンちゃんが難しい顔をして口を開きました。


「いや、あいつらはプライドが高い。自分達が難しい方を行くと言うはずだ」

「同じ塔を進んじゃだめなの?」


 一緒の所を勧めた方が、早く終わりそうな気がします。


「奴らとは連携が取れそうにない。同じ場所を進むのは危険だし、効率も悪い」


 そう言われれば……確かに。

 灰原さんとセイロン辺りは、こっそりとこちらの邪魔をしてきそうです。


「万が一向こうが暁闇を攻略するって言い出したら?」


 リンちゃんの質問に、思案している様子のオリオンが私を見ました。


「……お前は早く帰りたいんだな?」


 急に自分のことを聞かれたのでドギマギしてしまいました。

 もちろん、私は早く帰りたいです。

 自分の体にも戻りたいです。

 オリオンの目を見て首を縦に振りました。 


「だったらその時は宵闇の塔に行こう。こいつらもいるし、なんとかなるだろう」

「まあ宵闇の方が、貴重なものがありそうだな」


 二人がとても頼もしいです!

 どっちの塔だろうとドンと来い、そんな気になります。


「それに宵闇に行くことになって巡礼者が出たら、脂肪が多くて食べ応えのある奴を齧らせているいる間に逃げよう」


 ……灰原さん。お願いだから、宵闇の塔をお願いします。




※※※




「ステラ様、微力ながらお手伝いさせて頂きます」


 今まではリコちゃんは戦闘に参加していませんでしたが、これからは加わってくれることになりました。


「何が『微力』だ。ボクより強いくせに」

「そうなの!!?」


 心底吃驚して、大声で叫んでしまいました。

 そんなに驚くことか? と、皆を吃驚させてしまっているくらいです。

 失礼かもしれないけれど、リンちゃんの方が断然強いのだと思っていました。

 それはリンちゃんが凄く強いということもありますが、リコちゃんの方がほんわかしているので『強い』というイメージに結びつかないのです。


「ふふ。素早さではリンに負けてしまいますが、魔法の威力では負けませんよ?」


 リコちゃんは魔法使いタイプのようです。

 素早さや物理攻撃力も低いわけではないけれど、魔力に関しては飛び抜けて秀でているとオリオンも絶賛でした。

 もしかすると、ポン汁にも何か魔法が使われているんじゃ……。


「リコちゃんの武器は何?」


 そういえばリンちゃんは剣を持っていますが、リコちゃんは武器と思われるものは何も持っていません。

 服もメイド服のままです。


「私の武器はこれです」

「え……本?」


 辞書のような分厚い本を持っているのは何故だろうとは思っていたのですが……武器?


「……角で殴るの?」

「ぶっ、あはは! あはははは!!」


 リンちゃんが漫画のように爆笑し始めました。

 オリオンも背中を見せていますが、こっそり笑っていますね?

 小刻みに震えています。

 いや、私だって真剣に思ってるわけではありませんよ?

 魔物に本の角でドーン! と攻撃してくとは思っていません。

 でもそれくらいしか思い浮かばないくらい分からない、ということを言いたかったのです。

 そんなに笑うな!


「いや、悪い。実際にリコがそうやって攻撃してるところを想像したら我慢出来なくて……痛っ」

「流石ステラ様、新しい攻撃方法を編み出してくださいました」


 リコちゃんが本の角で容赦なくリンちゃんの頭をドーン! しました。

 全く躊躇してませんでした、絶対痛いよ、あれ……。

 私とオリオンは、リコちゃんの笑顔に凍り付きました。

 

「これは魔法書。物理的な攻撃はステラ様が編み出してくださった方法しか出来ませんが、その分魔力行使を補助する機能に長けています。あと、印を刻んだページもありますので、千切って使うアイテム的な利用も出来ます。勿体無いので、余程のことがない限りしませんが」

「へえ、便利! ……でもお値段が……お高そう」

「おう、高いぞ。お前のその貴重な装備に近いんじゃないかなー」

「ええ!?」


 この装備、セットで揃っているとかなり高いと言ってましたよね?

 具体的な値段は聞いていませんが、いや、怖くて聞けませんでしたが……本一冊でそれに近い!?


「魔法書を作るのは難しい上に時間がかかる。だから値段が高騰する。……まあ、使う奴はあまりいないがな」

「そうなの?」

「物理攻撃が出来ない、魔法に特化してしまうからな。よっぽど魔法の才が有り、使いこなせる奴でないと使わない」


 そっか……全てが魔力頼りになるから、魔力が少ない人なんて無理だし、宝の持ち腐れになっちゃうのか。


「リコちゃん凄いねー」

「いえ。私の場合はリンが一緒なので、安心して魔法一本で集中出来るだけです」


 ふむ、つまりこの双子は凄い、そういうことですね。

 オリオンも凄いし心強い仲間です。

 頼ってばかりにならないよう、私も精進しなきゃ。

 良い装備も貰ったし、頑張るぞ!

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