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第二十二話

 装備を揃えた翌日。

 少し早く目覚めた私は外の空気を吸うために、近くの庭園に来ていました。

 ここは初めてファントムと会った場所です。

 夜の桜も綺麗でしたが、背景に晴天を映した桜も綺麗です。


 また会いたいな。

 神様だと分かったことを話したいし、アルのおかげで強くなれたことも話したいです。

 どこに行けば会えるのでしょう。

 やっぱり夜じゃないと駄目なのでしょうか。

 また夜に来てみようかな。


 部屋に戻り、今日も氷水で顔を洗いました。

 そしてリンパマッサージもしました。

 手をグーにして顔を全力でゴリゴリ押しているので、人には目せられない顔をしています。

 ……いつもの三人が部屋にいますが。


 三人とも今の私に対するリアクションはありません。

 ……何か言ってよ。

 全員私に興味無しですか!

 良いですよ、それなら更に顔が凄いことになる美顔体操もやりますから。

 舌を歯並びに合わせ、這わせるようにしてぐるりと一周させることを繰り返す運動なのですが顔がつりそうに成る程疲れます。

 レッツ小顔!

 ……はあ、何故か虚しい……。




「城下町はどうでしたか?」


 身支度を終えると、リコちゃんが朝ご飯を用意してくれていました。

 唯一ちゃんとした食事、お肉を食べられる時間です。


「楽しかった!」


 皆と一緒に食べたいのですが、一応『メイド』な二人にはそれは出来ないと断られます。

 リンちゃんは『どっちでもいい』という感じですが、リコちゃんに止められているようです。

 オリオンは食べてから来るのでいつも一人です。

 一人だけ食べているのは嫌なのですが、貴重な食事タイムなので遠慮せずに食べながら話します。


「二人もゆっくり出来た?」

「ええ」


 昨日は私が出かけていないのでリンちゃんとリコちゃんもお休みにしていました。

 私がこちらの世界に来て、二人に『休日』というものはありませんでした。

 いつも助けて貰ってばかりで頭が上がりません。


「リンちゃん、どうしたの?」


 今日は妙にリンちゃんが静かです。

 壁に凭れて腕を組み、窓の外を見ています。

 いつもなら朝からブーブー鳴くなとか、餌の時間とか、一弄りされるのですが……。


「別に? どうもしない」


 視線をこちらに向けることなく短い返事が来ました。

 何か機嫌が悪い?

 もしくは体調が悪い、とか。

 リコちゃんにこっそり聞くと、『大丈夫です、なんでもないですよ』と微笑んでくれました。

 黄昏れたいお年頃なのでしょうか。


「ボク、家畜の世話はしっかりするタイプなんだよね-!」

「……!」


 リンちゃんが急に、部屋に響く大きさの声で呟きました。

 オリオンがピクリと動きましたが、突然大きな声がしたから吃驚しちゃったのでしょうか。


「リンちゃん、何の話? 牛でも飼ってるの?」

「牛っていうより豚かな」

「え!? リンちゃんが豚のお世話しているところなんて見たことないよ!? 大事にしてる!?」

「してる」


 そう言い切った横顔はキリッとしていて綺麗で……。

 女の子なのに格好良くてドキリとしてしまいました。


「そ、そう? ならいいけど……」


 でもいったいどうしたのでしょう?

 部屋の中がなんだかおかしな空気になっているのですが……皆の間に何かあったのでしょうか。


「……ふふっ」


 ……リコちゃんだけは何故か楽しそうですけど。


 オリオンはというといつもよりも更に静かです。

 昨日のことで疲れているのでしょうか。

 確かに昨日は色々ありました。


――コンコン


 重い空気が漂う部屋にノックの音が響きました。


「オリオン殿、議長がお呼びです」


 リコちゃんが開けた扉から現れたのは城のメイドさんで、オリオンを呼びに来たようです。


「ああ」


 『分かっている』とでもいうような素振りでオリオンは出ていきました。


「ふんっ」


 部屋を出るオリオンに冷たい視線を送り、鼻を鳴らしているリンちゃん。

 あれ、もしかして二人が喧嘩でもしてるんでしょうか?

 リコちゃんを見てもやはりニコニコと微笑んでいるばかりです。

 あんまり詮索しない方がいいのでしょうか。

 何かあったら、きっと話してくれるはず! ……多分。


「しっかしよく揃えられたな、そんな装備」


 いつの間にか壁際から動いていたリンちゃんが、テーブルの上に揃えて置いていたスワロウセットをまじまじと見ています。

 さっきまでと様子が違う明るい声です。

 良かった、機嫌は治ったようです。


「良いでしょ!」


 自慢しようとしたところで、ロロ様とした約束を思い出しました。

 ポン汁献上です。

 早速今日、ロロ様に渡す約束をしています。


「あ、あのねリコちゃん、ポン汁をあげて欲しいの」

「どなた様に?」

「ロロ様……沼の神様に」

「神様!?」


 大きな声を上げたリコちゃんの後ろで、リンちゃんも目を見開いています。

 私は二人に昨日あったことと事情を説明しました。


「な、なるほど……」

「お前は、また妙なもんに出会って」


 リコちゃんは話を聞いても落ち着かないような様子です。

 リンちゃんはソファにどかっと腰を下ろし、呆れたように呟きました。


「妙なもんとは失礼な」

「あ!」


 突如声が増えたと思ったら……いました!


「ロロ様!」


 いつの間にかソファに腰掛けたリンちゃんの隣で優雅に寛いでいます。


「なんだこのガキ!」

「リンちゃん、神様だよ!」


 流石に神様相手にその話し方は……! と私とリコちゃんは焦りました。

 神様に『ガキ』は駄目!


「む?」


 あ、まずい……ロロ様の機嫌を損ねたかも!?

 ロロ様は顔を顰め、グイグイとリンちゃんに詰め寄っています。


「うむむむむ、お主っ!!」

「ロロ様ごめんなさい! リンちゃん、口は悪いけど良い子なんです!」

「よく言って言い聞かせますので、ご容赦を……!」


 慌てふためく私達は無視で、どんどんリンちゃんに近づいていきます。

 リンちゃんも気圧されてソファの端に追い込まれました。


「んー……お主、良いのう! そのような格好をして……趣味か? 面白い! 好みじゃ!」

「「は?」」


 私とリコちゃんの声が重なりました。

 リンちゃんはポカンと口を開けています。


「お主、妾に使えぬか? いや、つがいにしてやろう! それが良い、さあいこう!」

「番!? なんだんだよ、こいつ!」


 私達に助けを求めるような視線を寄越してきていますが……ごめんなさい。

 私、対応出来ません。

 リコちゃんも真顔で立っています。


「可愛がってやるぞお」


 ロロ様が怪しい笑みを浮かべました。

 リコちゃん、私達逃げます?

 リンちゃんは怯えているのか、顔が引きつっています。


 ロロ様は女の子に見えますが、女の子が好きなタイプなのでしょうか。

 もしかしておたまさんたちの主だから、正体は蛙で……両生類。

 両生類の中には、雌雄同体のものもあったような……だから、とか?

 そうだ、きっと!


 でもリンちゃんもリコちゃんも見た目はほぼ一緒なのに、リンちゃんが気に入ったのですね?

 髪型が好みだったのかな。


「リンちゃん……お幸せに……」

「神様の仰せのままに。リン、粗相のないようね」

「馬鹿言うな!」

「そう照れるでない」

「照れてないし!」


 リンちゃんとロロ様の攻防は、暫く続きました。

 私とリンちゃんは、逃げまわるリンちゃんと追いかけるロロ様を視界から消し、二人で優雅にお茶を楽しむことにしました。


 最近はお茶のお許しも出たのですよ。

 ああ、美味しい。


「来るな! ひっ」

「追いかけて来いと言っておるのか? そういう戯れなのだな?」

「違う!」


 このペースでいくともうすぐおやつも貰えるそうです。

 おやつ……こんな素敵な三文字、他に存在しませんよね。


「捕まえることが出来たら妾の好きにしてよいのだな!?」

「なっ……そんなわけあるか!!」


 ダイエット、頑張るぞ-!


「ほら、捕まえてしまうぞっ!」

「来るなああああ!!」

「……」


 ……そろそろ、追いかけっこ止めて貰えません?




 追いかけっこは私がお茶を飲み終わるまで続きました。

 リコちゃん特製のポン汁を渡すと『また来る』と言って、ロロ様は去って行きました。

 リンちゃんが逃げ回って疲れたのか、座り込んでいます。


「やっと帰りやがった、厄神め……」

「そんなこと言ってると祟られて気づいたら番になってるかもよ」

「神様が親戚になるなんて、私は面白いですけどね」

「お前ら、他人事だと思って!」


 リンちゃんをここまで弱らせることが出来るなんて、流石神様。

 凄いです。

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