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第十四話

 ノアソフィアの各地を巡るために女神の心臓の城を出た私……『ルナ』は、今は城下町で船が到着するのを待っている。

 異世界に来て優雅に旅行だなんて最高だわ。

 何処に行っても持て囃され過ぎて笑っちゃう。


 待機場所と指定されたのは港から近い宿だった。

 宿自体は割と庶民的だったけれど、恐らく一番良い部屋なのでしょう。

 私用に取り繕ったようで、白と蒼で統一されたお姫様が過ごすような部屋だった。


 この世界に来て、実際私は『姫』と呼ばれ、そのように扱われている。

 女神が言った通りだった。


 学校泊のあの日、『鏡の魔女』を試した私は女神に囚われ、ノアソフィアに送り込まれた。

 でもそれは、私にとっては幸福なことだった。

 あんなクソみたいな世界から抜け出せて清々したし、願いが叶った。


 女神と対峙し、『願い』を聞かれたあの時……。

 隣で意識を失い、転がっている白鷺瑠奈を見て思った。

 『こいつの全部を横取りしてやりたい』と。


 元々いけすかない奴だった。

 美貌を振りかざし、明るくて優しくて、良い人ぶって……。

 一人でいるボッチで不細工な私を哀れんで、親切にして自己満足しているのが見え見えだった。

 あの目を見る度、私は腑が煮えくり返った。

 私はお前の自尊心を満たす道具ではない、と。


 だから女神が、白鷺瑠奈の体が欲しいという願いを受け入れてくれた時は狂喜乱舞した。

 嬉しいことはそれから続いた。

 不細工な私の体に放りこまれた白鷺瑠奈のあの目……。

 思い出すと吹き出しそうになる。

 名前を聞いてやった時に飛びかかられそうになったのは驚いたが、周りに白い目で見られて泣いていたのは傑作だった。

 セイロンは私にとって気持ちのいい言葉ばかり吐いてくれるし、アークは私にとっての王子様だし、楽し過ぎて吐きそうなくらいだ。

 その後、私の騎士様になったライナーも違うタイプのイケメンで私の逆ハーレムが潤って順風満帆だ。

 オリオンが向こうに行ってしまったのは心底気に入らないけれど。

 女神から聞いた情報の中では、一番気に入っていた人なのに……。

 一番強くて、レアで、本当の姿は……。


 けれど、今は我慢しておこう。

 戻ってきてからでも、回収することは出来るのだから。


「ルナ姫、どうかされましたか?」


 アークが私の髪に触れながら、顔を覗き込んだ。

 彼は私と恋人のような振る舞いをしたがる。

 彼からの好意を感じる。

 女神も言っていた。

 アークは『女神の騎士』というものに強い誇りを持ち、『女神の使者』に対しては信仰と言っていいほど強い憧れを抱いている。

 だから私の思い通りになるだろう、と。


 アークが私に触れてくると、今度はセイロンが対抗してくる。

 私の腕に掴まり、甘えたような視線を向けながら話す。


「アーク、抜け駆けしないでくれる? ルナ姫大丈夫?」


 セイロンが出てくると、次はライナーが口を出す。


「セイロン、離れろ。あまりルナ姫を困らせるな」


 セイロンを諌めているだけのように見えるが、僅かに顰めた表情に嫉妬が見える。

 私を取り合っているようなこの空間が心地良い。


「いいえ……なんでもないわ。皆、ありがとう」


 私が微笑むと周りは私に酔いしれる。

 ああ、幸せ。

 窓から見える城に目を向ける。

 暫しの別れね、不細工な私。

 さようなら。

 せいぜい頑張って頂戴。

 貴方には、まだまだ役割があるのだから……。




※※※




 母さんが~夜なべをして~


 そう心の中で歌いながら、夜な夜なシュシュ作りという内職に励みました。

 おかげで睡眠時間は短く、寝不足状態で迎えた朝。

 異世界でも小鳥はチュンチュンと元気です。


 ブートキャンプ三日目、今日はオリオンの戦闘講座です。

 自室でオリオンと膝を突き合わせて椅子に座っています。

 直接命に関わってくることなので緊張します。

 膝の上に置いた手にも力が入ります。


「海では俺が近くで戦ったが、恐怖は感じたか?」

「ええっと……正直に申しますと、そうですね。見ているのがやっとでございましたです、はい」

「そうか」


 ん?

 前回怒りを買ってしまったし、もっと『しっかりしろ』と怒られると思って構えていたのですが、オリオンは全く気にしていない様子です。


「もっと気合い入れろ-! って、怒らないの?」

「最初からは無理なことは分かっている。やる気がないのはどうしようもないが、そうじゃなければどうにか出来る。お前がまずやることは『慣れる』。そして『観察』だ」


 そう言われ、ホッとしました。

 オリオンに見捨てられなくて良かったという安心と、無理なペースで進まなくていいと分かった安心でちょっと泣きそうです。


「まず敵を見て、味方を見て学ぶんだ。敵はどう動くのか、味方はどう動くのか……そして自分に何が出来るのか。頭の中でシミュレーションして、お前が『いける』と思ったら実戦に入る」


 オリオンは私に合わせてちゃんと考えてくれているようです。

 そんな人に対しては全てを投げ出して『無理』と言いそうだったなんて、改めて反省です。

 私、生まれ変わって頑張ります!


「戦闘でのお前の立ち位置、役割について考えたんだが……」

「私、頑張って戦うよ!」

「当たり前だ」


 気合を入れていたところだったので張り切って声を上げたのですが、オリオンにジロリと睨まれてしまいました。

 当たり前なことを威張って言うな、ということですよね……視線が痛い!


「ト、トドメ役でいいんだよね? あ、でも私、女神に力を託された覚えがないよ? トドメをさせるのかな?」

「それは大丈夫だろう。今までもお前のように何も知らない女神の使者がいたが問題なかった。だからお前はトドメ役でいい。だがこっちは俺しかいないんだ。お前は自分の命を守るくらいの力はつけろ。ただ、絶対に無理はするなよ」

「うん……」


 そうか、騎士はオリオンだけなんだ。

 リンちゃんやリコちゃんは『メイド』なんだった。

 リンちゃんは平気で戦っているから忘れてしまっていました。


「あの……宜しいでしょうか」


 話し合っていたオリオンと私の間に、お茶を持ってきてくれたリコちゃんが遠慮がちに入ってきました。


「私達もお手伝いさせて頂きましょうか?」

「え?」


 今の話の流れからすると……リコちゃんとリンちゃんも塔での魔物退治に力を貸してくれる、ということでしょうか。

 それは、とても嬉しい申し出ですが……。


「で、でも……危ないよ!?」

「それについては、こいつらは平気だ」


 二人とは知り合いらしいオリオンがそう言っているのだから、そうなのかもしれませんが……。

 でも、お願いしてもいいのでしょうか。

 後ろの方で、壁に凭れていたリンちゃん目を向けました。


「それなりの報酬があれば、ボク達は手伝うよ?」


 あ、無償ではないのですね。

 それはそうか。

 ってそれではまるで傭兵のような……傭兵メイド?

 マルチメイド?

 この世界のメイドって戦闘能力も必要とされているのでしょうか。


「塔の中の魔物は特殊だ。得られる物もそれなりの値になるだろう」

「それをくれるってわけ?」


 リンちゃんの視線を受けたオリオンが私を見ました。

 魔物を倒すと戦利品を獲られるそうです。

 それをリンちゃん達に渡してもいいか、と言うことのようです。


「私はいいけど……」


 どんな『物』よりリコちゃん達の力の方が、喉から手が出るほど欲しいです。

 でも二人は女の子です。

 お願いしたいけど、してはいけないような……。


「なら手伝ってやるよ」

「でも……本当にいいの?」


 周りを見渡す、異論はない様子です。

 なら、甘えてもいいのでしょうか?

 迷っていると、リンちゃんに『お前より百倍動けるから余計な心配するな』と言われてしましました。

 確かに海で見ただけですが、リンちゃんの動きは慣れたものでした。


「じゃあ……お願いします! あ、でも、二人は女神の騎士じゃないけどいいの?」


 女神の使者を支えるのは女神の騎士の役割だと聞いていたのですが、騎士じゃ無い人も塔に入ってもいいのでしょうか。


協力者(サポーター)の許可を取れば可能だ。そっちは俺が通してある」

「え?」


 もう許可は取ってある、という言い方でしたよね?


「おい……元々ボク達にやらせるつもりだったな?」


 長い前髪で目は見えませんが、オリオンがニヤリと笑ったのが分かりました。

 分かっていて目の前で話したのでしょうか。

 確信犯ですね!


「その為のお前達だろ? 面子は揃ったところでステラの武器についてだが……弓がいいと思う」

「サラッと流したな……」


 リンちゃんがジロリとオリオンを睨んでいますが、気にすることなくオリオンは話を進めます。

 さすが年の功です。


「弓、かあ。確かに遠くからでもトドメをさせるよね」

「ああ。だがその分難しい。当たらなければどうにもならないからな」

「それは……頑張る!」


 弓なんて触ったことも無いけれど、私が通っている高校の弓道部は全国大会に出るほど優秀でした。

 だから私も出来るはず、同じ学校だから出来る気がします!


「お前は案外根性はある。だからやれるんじゃないか」

「リンちゃんが褒めてくれた-!」

「私達もお手伝い致しますので……さあ、どうぞ」

「あ、うん……」


 初めの言葉は嬉しいのですが、一緒に差し出されたポンスー入りなんか臭い汁、通称ポン汁が全てをかき消してしまいそうです。

 ポンとつくジュースは果汁百パーセントで美味しいのに、天と地程差があります。

 でも効果は絶大なので飲みます。

 ……うぷ。




※※※




 オリオンとリンちゃん、いつものお買い物メンバーで城の武器屋に行きました。

 印屋の向かいなので、モノクルお爺さんが見えます。

 モノクルお爺さんは私を見ると、一瞬驚いた顔をしていました。

 どうしたのでしょう。

 もしかして、綺麗になったと思ってくれました!?

 だとしたら嬉しいのですが……。

 話し掛けようとしましたが、あからさまに顔を背けられてしまったので止めました。


 武器屋の店主は細身の青年でした。

 ひょろひょろもやしさんです。

 私ののしかかり攻撃なら、一発でオーバーキルになりそうです。

 二十代後半くらいの眼鏡をかけた、あまり武器とは関わりのなさそうな容姿ですね。

 図書館の司書の方が似合っていそうです。

 彼は私に一瞬目を止めましたが何を言うでもなく、オリオンが指定した通りの商品をカウンターに並べました。

 いちゃもんをつけられないのはやりやすいですが、目が少し冷たく感じられました。

 最近のことで被害妄想思考になっているだけかもしれませんが。

 オリオンが購入したのは一番安い木の弓でした。


「弓はその格好に合うな……」

「!!」


 なんということでしょう……弓を持つことでマタギ感がアップしてしまいました!


「凄い腕の良い狩人に見えるぞ」

「リンちゃんうるさい!」


 装備すると見た目的には、これ以上無いくらいにしっくりきました。

 それはもう、悲しい程に……。


 護身や何かと作業などで使えそうなナイフも一つ購入し、武器屋を後にしました。


「射ってみるか」


 早速試すためにオリオンに先導され、外に出ました。

 辿り着いたのは私がよく走ったり運動をする城の裏手の広場の更に奥、草木が育ち、あまり手入れされていない感じのする茂みでした。

 ここで弓を試すようです。


 オリオンが木の一つにナイフでバッテンの傷をつけました。


「これを狙え」


 バッテンが的のようです。

 射ち方は何となくテレビで見ていて知っていたのですが、黙ってオリオンに基本から教わりました。

 リンちゃんは私達の後ろの方の木陰に座って、こちらを眺めています。


「じゃあ、射ってみろ」

「うん!」


 何となく上手くいきそうな気がします。

 私はやれば出来る子のはずです。

 自分に暗示をかけましょう……私はロビンフッド、私はロビンフッド!


――ビニョンッ


「ん?」


 思い切り引いた弦が、違和感のある音を放ちました。

 矢は勢いよく放たれた木がしたのですが、的のバッテンには刺さっていません。

 ……というか、矢……どこ?


――ストンッ


「うお!?」


 矢をキョロキョロ探していると、後ろからリンちゃんの奇声が聞こえました。

 今、おっさんの様な声でしたけど?

 振り返ると、リンちゃんの目の前の地面に矢が刺さっていました。

 どうやら空高く上がった矢が落ちてきて突き刺さったようです。


「てへっ」

「お前……ボクを殺す気か!」

「ごめんなさいー!」

「……はあ」


 オリオンが深い溜息をついています。

 大変です、がっかりさせてしまいました。


「大丈夫、死ぬ気で練習するから! 私、出来るようになるよ!」

「ああ。……せめて前に飛ぶようにしてくれ。お前に殺されそうだ」

「そ、そんなこと……絶対しないもん」


 多分……。

 まだ始めたばかりですから、練習で何とかなるはず! 

 ちゃんとトドメをさすことが出来るようにならなければ……。

 足手纏いにはなりたくありません。


「これから海に行くが、自分の武器は弓であることを想定して周りを見ろ。トドメの一撃を打てるタイミングや味方に当たらないラインを見極められるようになれ。それが課題だ」

「分かりました!」


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