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第十一話


 リンちゃんに勧められ、右手につけた印は『水護の印』というものでした。

 これは単純にいうと、お魚さんになれる印でした。

 といってもお魚さんに変身するわけではありません。

 お魚のように水中でも呼吸が出来るようになり、泳げるようになるのです。


 泳ぐのは魔法が無くても足に負担がかからないし、全身運動だ出来るのでとても良いダイエットになります。

 それに海で人魚のように泳げるのです!

 素敵です!


「人魚姫みたい!」

「人魚豚だろ。人なのか魚なのか豚なのか。1:1:8くらいの割合か?」

「ゴブッァ! 割合! バランス!」


 リンちゃんは人の心を抉る天才です。

 せめてもう少し人であると認めて欲しいです。


 左手にも『光隠の印』というのをつけて貰いました。

 これは海で魔物に遭遇した時のためにつけて貰ったもので、姿を隠せるそうです。

 高位の魔物には聞かないけれど、この近海にいる魔物にはこれで十分ということでした。


「あと身支度だ。装備も買うぞ」


 姿は消すけれど、念のため最低限の装備も揃えることにしました。

 『装備』だなんてゲームのようでワクワクしますが、本当に魔物と戦うんだなということを実感して恐ろしくもなりました。


 でも頑張ります。

 早く元の私に戻って帰るために!


 勇みながら辿り着いたのは城の中の防具屋です。

 モノクルおじいさんの印屋の隣でした。


「入るサイズがありませんねえ……くくっ」


 防具屋店主の第一声がこれでした。

 頭の上にタライが落ちてきたような衝撃を受けました。

 あんまりな出鼻のくじき方です。


 『サイズ』がない。

 そんなことは言われたことがありません。

 胸が割と大きくてトップとアンダーの差が大きかったため、ブラのサイズがないと言われたことはありましたがその時とは違います。


 店主はひげ面のおじさんでした。

 日本にいたら大工さんをしてそうな雰囲気です。

 人は良さそうなのに、『サイズがない』と小馬鹿にして笑っている顔を見ているとトンカチで攻撃したくなります。

 乙女の体型をあざ笑うなんて『悪』だ!

 助けてヒーロー!


「品揃えの悪い見せだなあ! 何処の国の管轄だ?」

「リンちゃん!?」


 タライの衝撃の余韻で硬直していると、リンちゃんが店主に掴みかかっていました。

 あれ……前回も怒っていましたが、もしかして私のために怒ってくれているのでしょうか。

 そうだとしたら嬉しいです。

 こんなところにヒーローならぬメイドヒロインがいました。

 でもリンちゃんが恐喝しているようにしか見えません……。


 リンちゃんに脅され……じゃなくて、心構えを正された店主が私でも着られるものを見繕ってくれました。

 何とかなりましたが、印屋に続いて防具屋でもあまり良い対応をして貰えませんでした。

 『ハズレ姫』とは言われませんでしたが、始めから対応する気が無いような態度だったのでモノクルお爺さんと同じ感じなのでしょう。


 でも、売って貰えたので良しとします。

 良しとしますが……。


「男物とか……」


 女物では入るものがないと言われ、出されたのは全て男物でした。


「入ればなんでもいいんだよ」

「良くない!」


 オリオンは興味なさそうに呟きましたが、とても大事なことです!

 可愛くない!

 凄くダサいです!

 茶色のズボンに渋い若草色のコートなのですが、冒険というより山奥で狩猟をして暮らして良そうです。

 これじゃ女神の使者デビューではなく、冒険者デビューでもなく、『マタギデビュー』です!


「お前、急におっさんになったな……」


 リンちゃんが可哀想な子を見る目で言いました。


「言わないで!」


 思わず手で顔を覆いました。

 見ないで、私を見ないで!

 そんな目で見ないでよー!


「性能もイマイチっぽいな」

「だったらやめよ!?」

「無いよりはマシだろう」

「そうだな」

「そうですか……」


 リンちゃんが着なくても良さげな雰囲気を出してくれたのですが、オリオン先生のお許しは出ませんでした。

 でもこれで命の危険が少しでも減るなら、我慢するしかありません。

 暫くマタギでも我慢します。


「いざと言うときは俺達で別のものを調達する。サイズも変わるだろうから。とりあえずこれで良いだろう」

「うん!」


 あからさまに凹んでいると、オリオンがフォローしてくれました。

 わざわざ調達してきてくれるなんて嬉しいです。

 それに『サイズが変わる』ということは、私が痩せると期待してくれているということですね?

 凹んでいる場合じゃ無いですね、期待に応えられるよう頑張らなきゃ!


 この後、海に出るため合流したリコちゃんの私の姿を見る目で心が折れそうになったけど……。

 装備をした姿を褒めようとしているのに、褒める場所がなくて困っているリコちゃんを見て泣きそうになりました

 優しさが辛いです……。


「あ、そうだ」


 そこである物を思い出し、取り出しました。

 私は良い物を持っていました。

 少しでもお洒落を出来るようにと、時間を見つけてはチクチク縫って作りました。


「じゃーん!」


 私が手作りしたもの、それは『シュシュ』です。

 灰原さんの黒く長い髪はあまり手入れされておらず、綺麗にするのには苦労したのですが、リコちゃんに切って整えて貰ったり、こちらの世界の植物油を塗って貰ったりしていると落ち着いてきました。

 髪自体はこの調子でいくとして飾りをなんとかしようとしたのですが、こちらの世界の飾りはシンプルで……。

 というかリボンだけでした。

 もっと他にあったらいいのに思い、リコちゃんに色々な布を集めて貰って手作りしたのです。

 こちらの世界は『ムゴ』という蔦のツルをゴム代わりに使っていたのですが、それがあまり伸びなくて苦戦しましたが中々良い出来だと思います。


「それは?」


 ピンクの布にレースをつけ、堅めのムゴを骨にして作ったうさ耳シュシュで髪を一纏めにしていると、リコちゃんが不思議そうにこちらを見ていました。

 そういえば布を欲しいとは頼みましたが、何を作るかは言っていませんでした。

 

「リコちゃんがくれた生地で作った『シュシュ』っていうものだよ」

「シュシュ……」


 リコちゃんの目が輝いて見えます。

 流石女の子です。


「今度リコちゃんにも作ってあげるね! これは『うさ耳シュシュ』なんだよ。ほら、うさ耳みたいでしょ?」

「お前は獲った獲物を頭につけるのか?」

「マタギじゃないもん!」


 女の子オーラ前回で嬉しそうにしているリコちゃんの隣で、リンちゃんが喧嘩を売ってきました。

 同じ女の子なんだから、一緒にワイワイしてくれたらいいのに!


「ほら、腕につけても可愛いんだよ。いいよねー」

「可愛ですねー」


 リコちゃんは一緒に和んでくれたのですが、リンちゃんは白けています。


「興味ないな。でも、売れそうだな……」

「さっさと行くぞ」


 オリオンとリンちゃんに置いていかれました。

 いいもん、リコちゃんがいるもん……と思ったらリコちゃんも行っていました。


「うわーん、待って-!」


 おかしいな、味方が居ない気がするのは何故なのでしょう。

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