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第十話

 城の中には商店エリアがあります。

 城下町の方にもお店はありますがお城の方が質が良く、安定しているそうです。

 逆に城下町には掘り出し物があるとか。


「ここだ」

「わあ!」


 天井が高いホールのような場所に出ました。

 武器屋や道具屋など、店のカウンターが二列向き合う様に並んでいます。

 これもゲームで見たことのある様な光景で、思わずテンションが高くなってしまいました。


 小豆色の下地に二重円が描かれた旗が掲げられた印屋の店主は、モノクルをつけた頑固者っぽい細身で小柄なお爺さんでした。


「何じゃ、あんたハズレ姫か!」


 店に行った途端に浴びせられた言葉がこれでした。


「左様でございます」


 ここまではっきり言われるとむしろ清々しいです。

 少し顔を顰めていたオリオンですが、私があまり気にしていないのを横目でチラリと見ると、話を進めることにしたようです。


「適性を見てやってくれ」

「断る!」


 即答でした。

 早いですね、門前払いです。

 それは私がハズレ姫だから見てくれないってことなのでしょうか。

 私ってそんなに嫌われてるの!?

 何故でしょう……何かしたのでしょうか。


「職務怠慢か? ああ!?」

「ちょっと、リンちゃん!」


 味方なのですが、小柄なお爺さんにいちゃもんをつけているヤンキーメイドにしか見えません。


「そう言うんじゃったら、こいつだって職務怠慢じゃろうが! ルナ姫様は世界を巡られているというのに、こんなところで油を売りよって!」


 油なんて売っていません。

 脂肪ならたくさんあるので売りたいですが。


 私が嫌われている理由は灰原さんの信者が増えているから、ということでしょうか。

 そうだとしたらやっていられません!

 このお爺さんだけでなく、他のお店でも同じ目にあうことが出てくるのでしょうか……。


「こいつにはこいつの理由がある。そう頭ごなしに否定しないでやってくれ。他の世界で普通に暮らしていたのに、こっちの理由で引っ張ってきて協力してくれてるんだ。もう少し敬意を持ったらどうだ」


 負のオーラを放ち始めた私を気にかけてくれたのか、オリオンが店主を諌めてくれています。

 ……オリオンってあまり気にしない素振りをしていますが、いつもさり気なくフォローしてくれている気がします。

 私の方についてきてくれたのも、放っておけなかったのかもしれません。

 優しいですね、年の功でしょうか。


「そんなことを言われてもわしゃ知らん!」

「いい歳をして……『話に耳を貸さないが、言いたいことは言う』というのはどうかと思うぞ」

「ふんっ」


 そういえばこのモノクルお爺さんとオリオン、どちらが年上なのでしょう。

 ハズレ姫だからと断られていることよりもこっちの方が気になってきました。


「まあいい。だが、仕事はちゃんとしてくれ。真っ当な理由なく断るというのなら、こちらも其れ相応の対応をしなければならなくなるが……お互い、時間の無駄じゃないか?」

「……やむを得まい。騎士殿には逆らえん」


 話はついたようです。

 半ば脅迫のようでしたが、間違ったことはしていないので何も問題ありません。

 モノクルお爺さんが店主兼印師だったようでモノクルを手に取り、ジーッと私を見ました。

 あのレンズが特殊なのでしょうか。


「うん?」


 私を見てすぐに、モノクルお爺さんが首を傾げました。


「なんじゃ。お前さん、印屋は初めてじゃなかったのかい?」

「え? 初めてですけど……」


 頭を傾げた私達でしたが、『初めて』と答えた私の言葉を聞いて、再びモノクルお爺さんが首を傾げました。


「そうは言っても、印を既に一つ持っておるぞ?」

「え?」

「……天性のものではないな」

「ええ?」


 印には普通に売り買いしている印とは別に生まれ持った天性のもの、『固有の印』もあるそうです。

 でも、そういうものじゃない印が私についているそうです。

 ……ということは、私が自分から『印をつけた』ということになるのですが……。


「知らない知らない!」


 私の方を訝しんでいるオリオンとリンちゃんに向け、頭をブンブンふりました。

 全く身に覚えはありません。


「額に既に着いてある。だが……印自体は見えないのに確かに『有る』。これは……」

「それって……」

「え? 何!? 何!?」


 朝、鏡を見ましたが、何も無いもちっとしたおでこでした。

 印なんてありませんでした。

 でも『額にある』と言っています。


 額といえば……幽霊美人が触れて暖かくなったところです。

 もしかして、あの時つけられたのでしょうか。

 なんだか嫌な予感がしてきました。


 私以外の三人が、顔を顰めて私を見ています。


「何なの!?」

「お前、呪われすぎだろ……」


 リンちゃんが呟きました。


「呪い!? 嘘!」


 白い美人幽霊に呪われてしまった!?

 まさかそんな……悪い幽霊には見えませんでした。

 きっと何かの間違いです。


「あ、もしかして……『話せない』のはこれのせい!?」

「いや、違う。別だ」


 昨日の美人幽霊の印象が強くて先にそっちを思い出しましたが、私は元々呪われていました。

 それのことかと思ったのですが、違ったようです。

 『話せない』呪いと別に、呪いがあるそうです。

 なんなのでしょう……この世界では、呪いってそんなに流行っているんですか?


「印には能力を下げたり特定の行動を縛るものがある。印を使える数が減ったり、走れなくなったりと様々だ。そういうものを『呪印』という。呪印は、印として浮かび上がらないものもあるが……」


 説明をしているオリオンの目が私のおでこに釘付けです。

 『それのこと』って言いたいんですね……泣いていいですか?


「このおでこのやつはどういう呪印なの?」


 もう『呪印』だと認めて、恐る恐るどういう影響があるか聞きました。

 オリオンに向けて聞いたのですが、答えてくれたのはモノクルお爺さんでした。


「どういうものかは分からん。お前さん、自覚はないのかい?」


 身体がまるごと違うので、自覚が有るのか無いのかも分かりません。

 でも、特に体調が悪いということはありません。

 

「もしかして、走るのが遅いのは……!」

「それはお前が単純にデブだからだろ」

「バフウッ」


 リンちゃんのツッコミはいつも容赦ないです。

 単純にデブってなんですか、複雑なデブはあるのでしょうか……。


 この呪いについては今は考えても無駄なようで、オリオンが話を進めるようにモノクルお爺さんを促しました。

 再びモノクルチェックが始まりました。


「!! わしの目も耄碌したのかの。まさかそんな……」

「?」


 モノクルお爺さんがボソボソと何か呟いています。

 私達は頭の上にハテナを浮かべながら、黙ってお爺さんの言葉を待ちます。

 話すことを躊躇っているような離したくなさそうな様子のお爺さんでしたが、三人の視線に射抜かれて渋々口を開きました。


「お前さん、そこの騎士殿と同じじゃ。全ての箇所に適正があるようじゃ」

「え……オリオンと一緒!?」


 なんと、私もフルコンプです!

 オリオンとお揃いだなんて嬉しいです!

 『やったね!と』に目を向けると、そこには目を見開いて固まる姿が……。


「ど、どうしたの?」

「全て適正有りとはな」

「お前はハズレ、だよなあ? 腐っても使者様ってことか……」


 二人はフルコンプに驚いていたようです。

 そういえば普通は二、三箇所と言っていたような。

 もしかして私って凄い?

 ねえ、凄い!?


「ルナ様でも三つだったというのに、どうしてハズレが……」

「!」


 なんですって……灰原さんに勝った!?

 それは良いことを聞きました。

 思わず頬を緩みます、にんまり。


「まあ、全箇所って言っても一つ呪われているけどな」

「水差し禁止!」


 すぐにリンちゃんは水を差してきます、そして心を刺します。

 喜んでいるのだから素直に喜ばせて欲しいものです。

 騒いでいる私達の横で、オリオンは何か考え込んでいます。


 視線はカウンターに並んだ木の札に釘付けです。

 木の札には印の種類が書かれてあります。

 字は日本語ではありません。

 見た目の印象でいうと英語に似ています。

 でも、違います。

 この世界の言葉のようですが何故か私にも読めます。

 木の札は印のメニュー表のようです。


「いくつかつけて試すか」


 オリオンは私にどの印をつけるか悩んでいたようです。 


「ボクから希望がある」


 悩んでいるオリオンにリンちゃんが口を出し、二人でなにやら相談が始まりました。

 私は蚊帳の外です。

 一応、私のことなんですよね?

 ちょっとは私にも話を振って欲しいです、寂しい!

 私には選択権は無いようです。

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