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74 VSミノタウロス



 ヤバい。これはヤバい。ここは既に精霊界ではなく、時間が経とうともミニマムにはもうなれないのだ。覚悟を決めるしかないだろう。

 ……武器がないという悲惨な現実から目を逸らして。


「モオオオオオオオ!!」


 意を決してドアを開ければ、即行で気づかれた。くそう、こいつは馬並みの視野を持っているとでもいうのか!石畳の床を蹴りながら恥も外聞もなく叫ぶ。


「パッセル、フェアリーズ、ヘルプ!!」


 ストレージから杖を取り出し、至近距離で火の玉を炸裂させるが、全然効いてなさそうだ。私もすごい勢いでぶっ飛ばされるし。


「なっさけなーい」


「まあ、じゃんじゃんだもんね~」


「トモダチのヨシミで助けてやろう~」


 幸い、物理攻撃ダメージは半減しているから、そこまで痛くはないのだが。


「「「がんばれー、ごま!!!」」」


 うおおおい!?それただの応援じゃないか!?

 一瞬そんなボヤキが頭をかすめたが、すぐに晴れる。真っ白な魔力が、ミノタウロスの懐に飛びこむ私を包み込んだ。


「さんきゅー!!」


 何が上がったのか知らないが!ポケット(インベントリ)から売れ残っていたパチプチの実を取り出し、咆哮のために空気を吸い込むミノタウロスの口に突っ込む。

 完全に遮断していた魔力を解放。即座に顎を膝で蹴り上げて口を閉じさせる。


 ぼんっ!


 いい感じに爆発した。間髪入れず、持っていた杖で眼球を貫き、すぐに退避した。反撃(カウンター)コワイ。


「ブモオオオオオオ!!」


 悲痛な叫び声が広い部屋に反響する。と、同時に、無作為に全方位におびただしいほどの火の玉が放たれる。壊れた蛇口のように、ミノタウロスは火球を生みだし続ける。避けようがない。

 熱気の中、背中を寒気が襲う。え、これ逃げ場無くね???


「『水』!!……は!?」


 半径1メートルくらい水のヴェールが立ち上がる。襲い来る火球は、次々と波紋を描いて消えていった。想像していたよりも頑丈だな……、二、三発でおじゃんかと思っていたが、フェアリーズのバフは案外弱くないらしい。

 しかし信用もできない。なぜなら……、元が私の魔法だからだ!!

 フェアリーズのバフによる白い魔力は、段々と剥離していく。早く決着をつけなければ。

 太めの長い、ナナカマドの枝を杖代わりに、火の海を最短距離で突き進む。被弾は避けるべく、比較的火の玉が来ない空中を踏み抜き、肉薄。

 ついに水の膜は破れて、あとかたもなく蒸発。熱が一気に身体を侵す。


「くっそおおお!」


 眼下を見据え、身体に残っていたフェアリーズのバフを無理矢理枝にねじこみ。焼けながら、枝先を目から血を流すミノタウロスに向けて。


「ぴっ!!」


 だんまりだったパッセルの一声。え、私は氷を出そうと思っていたんだが!?

 私の意図に関係なく紫電が奔る。轟音と閃光。続く衝撃に、空中で不安定な私は上方へ投げ出される。

 地面で何度かバウンドし、ごろごろと転がって壁に激突。痛い。

 フェアリーズが集ってくるので賑やかなはずなのだが、耳もバカになったように、聞こえるはずの音がくぐもっっている。

 奥にはぷすぷすと煙を上げるミノタウロスがいた。


「よし……!」


 勝った!!起き上がって思わずガッツポーズする。


《テスダンジョン9-1/1・礼拝堂のエリアボスをクリアしました》

《称号【逆走の探索者】を得ました》


 うう、焼けただれた肌が痛い気がする。初期装備は焦げてすらいないのに、その下の肌は火傷しているのか、ちりちりするし、なんか傷口と服とくっついてないか……?水をだばだばーっとかけて、インベントリの奥底に眠っていたポーションもぶっかければ元通り。腕を振れば、ちゃんと袖がずれた。


 ドロップが荷物(インベントリ)に収まったのを確認して、立ち上がる。

 さて、礼拝堂とは真逆の位置に大きな木の扉が目の前にある。黒く塗装された金具のついた、物々しい感じの扉である。


 軽く押してみる。開かない。強く押してみる。……開かない。


「ふんぬうううう!」


 よく磨かれた木の扉に両手をつけ、足を踏ん張るが、びくともしない。

 引いてみる。ダメだこれ。どうすっかなー、と思ったらドアが横にスライドした。


「あれ、ジャンさんだ」


「お久しぶりです」


「あ、雀ちゃん!」


 おお、いつぞやの少年少女たち。アホっぽいパースくんと、エルフのシュンくん、あと名前なんだっけ、パースくんの幼馴染の少女……。魔法使いだったか?


「よう、久しぶりだな。全員そろって、というわけではなさそうだが、ボスに挑戦か?」


「まあな!ミノタウロスだろ?オレらにかかれば余裕だぜ!」


 相変わらず元気いっぱいだ。情報源について尋ねれば、既にクリアした人が掲示板に上げているのだとか。礼拝堂からの転移についても知っているのだろうか。サカイ君に聞いてみよう。


「……というかジャンさん、一人で戦って、しかも勝ったんですか?」


 凝視してくるシュンくんがちょっと面白いが、一応訂正しておく。


「一人じゃないがな。パッセルとフェアリーズが……、あれ、フェアリーズは帰ったのか?さっきまでいたんだが」


「そうなんですか?……最近見かけてないし触ってないし癒されたかったなあ」


 残念そうにしているが、少女よ、たぶんいじくられるのが嫌で帰ったんだと思うぞ。いつのまにかモフられているパッセルも迷惑そうな表情だ。言わないが。


「まあ、頑張れな」


 パッセルをすくいあげて別れを告げる。お、メールの返信が来た。鍋さんもサカイ君もチェスの街にいるのか。なんだかすごく久しぶりな気がする。というか、まともなご飯が久しぶりだ。

 フェアリーズへのお礼も兼ねて、鍋さんからいろいろ買わねば……。



名前(ネーム):ジャン・スミスLv.45

種族:人間 性別:男性

職業:【気分屋】

HP:171

MP:419

STR:32

VIT:29

INT:55

MID:90

AGI:139

DEX:146

LUC:99


称号

【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】【界渡り(魔)1/1】【悪戯小僧】【変異種】【補佐官】【野菜泥棒】【逆走の探索者】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【夜目】【逃げ足(一)】【肉体言語(初)】


魔法

【魔法陣(玄)】【生活魔法】【詠唱】


生産

【細工(一)】【採取】【料理】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画(初)】【調合】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【木登り】【地図】【効果】【魔道具】【妖精化(玄)】【指導】【分解】


特殊

【混沌】【手抜き】【六文銭】



火傷

 キチンと流水で冷やしましょう。火傷用の薬を塗りましょう。やばかったら医者に行きましょう。日焼けも軽度の火傷ですよ!


【逆走の探索者】

礼拝堂からボス部屋に突入し、ミノタウロスを討伐した者に与えられる。少年少女たちのように通常クリアの場合、【祈願の探索者】を得ることができる。なお、【祈願の探索者】には界渡り性能はない。

どちらの称号でも、異界でステータスの最も低い値が+1%になる。


ミノタウロスのドロップ

番人の合い挽き肉(ミノミンチ)……とってもジューシー。血沸き肉躍る味がする。

番人の縄(迷子紐)……迷子にならないお守り。精神系の素材。

番人の囚人服……初期装備(万能)。各世界の初期装備を統合した一張羅。異界に行くための称号やスキルは手に入らないので、別途用意しましょう。ちなみに、牛柄で一つとして同じ柄の服はない。


パースくんの幼馴染の少女

 まじで名前思い出せなかった。「ナツだっけ……?」、と調べなおしたらツナちゃんだったよ!


パースくんたちのその後

 本作主人公・ジャンが去った後、ミノタウロスがリポップ。健闘虚しくミノタウロスに負ける。まあ、弓使い、剣士、魔法使い、で回復役いないからね、仕方ないね!

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