7 パチプチリベンジと共闘の約束
《お知らせします。ベスの街に到達したプレイヤーが現れました》
《これより転移システムが稼働します》
《詳細はメニューよりご確認ください》
色々本を物色していると、唐突にアナウンスが入った。
もう次の街か〜、早いな。サービス開始が土曜日だったし、廃人たちならあり得なくもないのだろうか?
さて情報収集も上々。
ちなみにギルドの資料室は魔物情報が図書館の本より戦闘用に特化した詳しい情報が掲示されていた。
多分本の形態だと読まれないからか?
本とか統計資料、なんかもあったけど、凄く所在無さげに佇む本棚に置いてあった。
資料編纂室というのが隣にあったから、そちらに大部分あるのかもしれない。
仕入れも万端!
というわけで北の山にいます。
パチプチの枝にリベンジし隊所属ジャン・スミス軍曹です。
一人だけども、気にしなーい。
軍曹とかも適当。
……なんでジョンじゃないんだろう?
ジョンだったら諜報部隊所属だろうけど。
いざ、突撃ー!
「おっかしいな」
現在猿と数度目の交戦後。
以前は蛾しか出なかったんだが。
木から唐突に現れるので結構めんどくさかったけど、【会心の一撃】の効果なのか大体一撃で屠れる。
一撃で倒れない時は、なんか気合い入れてないときだ。
……これもしかして私無敵?
いや、流石にそれは無いな。多分穴があるはずだ。
そしてまた一匹猿を倒し、死体をストレージに収納する。
《レベルが15になりました。これより空腹度システム、死亡時のアイテムロスト及び倉庫システムが解放されます》
《詳しくはメニューにてご確認ください》
んん?
なんかとっても重要そう。まあ、想像できるけど一応見てやろうではないか。
パッとメニューを開くと、空腹度が表示されるようになっている。現在0パーセント。
アイテムロストは死亡時にランダムで装備品や鞄、ストレージから所持品が放棄される。ストレージの中身が一番落としにくくはあるようだ。
倉庫システムはギルドでのアイテム込みの銀行と考えて間違いないっぽい。デスペナルティーの影響を受けないのか、便利。
うん、当たり障りない。
さ、中腹に向かおう。
……ふと目の前を見直して思ったんだが、私木の上飛べるんじゃないか?
思い立ったが吉日!
スルスルと木を登り、隣の枝にジャンプ。
ズルッ。
「わ、わ、わ、」
慌てて飛び移った先の幹に掴まる。
あ、危なかった……。墜落死とか嫌だぞ?
でも止めない私。
一回目より二回目、二回目より三回目、と枝と葉などにときどき突っ込みつつ足を滑らせつつ、徐々に安定して木の上を移動できるようになってきた。
現実ではあり得ない習熟度……ではないな、身体能力がこちらの世界では高いことが原因か?
最初の方は大分危なっかしかったが、すれ違う猿を排除しつつ飛び移れるようになった。
結構楽しいな!
《二メートル以上の場所で五キロメートル移動したことにより、スキル【空駆け】を得ました》
《不安定な場所で三十分間活動したことにより、スキル【バランス感覚】を得ました》
うおっ!
驚いて踏み外した!
と思ったら空気踏んだ!
えっ!?
……うん、一瞬だけ空気踏めるらしいよ私。
ちょっと実験した。三歩が今は限界っぽいが、十分だ。
私、NINJAだったのか……、知らなかった。
それにしてもお知らせ危険だな。でも消音設定したら自分が何かスキルゲットしても気づかないだろうし……。
文字で表示されてもやっぱり気づかない気がする。
やっぱり現状維持が一番だな。
そんなこんなでパチプチの木の群生地に着きました。
ふっふっふっ、今回の私は一味も二味も違うのだよ?
パチプチの木に登り、魔力抑えろーと念じつつ気に入った枝を伐採!
ボフッ
……ちょっと爆発した。仕方ない、次の枝だ!まだまだいっぱいいい感じの枝は生えているからな!
爆発しなかった枝を十数本頂いたところで満足し、私は一旦地面に降り立った。
さて、どうしようかな。このまま山頂方向に登るか?
でも冒険者ギルドの情報だと、頂上付近の推奨レベルは40だったんだよな……。
と言うことでここでパチプチの枝を加工しよう!
私が死んでパチプチの枝が落ちたら泣く!
取り出しますは乾燥の魔法陣と定着の魔法陣。住人向けの雑貨屋で買ったやつ。
……これ、他のプレイヤー見つけられんのかな?甚だ疑問だ。
ペタっと貼ってみる。で、魔力を通す。
一瞬赤と白に輝いて紙ごと魔法陣が消える。
どうやら上手く行ったらしい。本に書いてあったとおりだし。
失敗すると紙が残って書いてある魔法陣だけが消えるそうだ。再利用可能でとってもエコ。
よし、彫るか!
今日は猿をいっぱい見たし、猿にしよう。
確かこんな見た目〜と下書きをサクッとして、取り出したノミを突き立てる。
パァン!
「知ってる天井だ……」
目を開けば、毎度お馴染みの復活地点、旧聖堂の天井が映る。
パチプチの木よ、まさか作業中も魔力抑えないといけないとは思わなかったぞ。
先に言え。
「ハッ、アイテムロストは!?」
確認すると、これといって無くなった物はな……っっっ!?
選りに選ってノミかッ!
急いで回収しに行かねばっっ!
「うむ、美味い」
現在ギルドの酒場で飯を食っている。
クリームシチューとなんか酸味のあるパン、それと温野菜のサラダ、ホップのきいたエール。
きのこたっぷりのシチューが最高です。
無論、デスペナを物ともせずノミを回収した後です。
私すげー。
マジきつくて、【マゾ】っていう称号ゲットしてしまった。
要らねえ……。【被虐趣味】がもし仮に存在した場合を考えるとどっちがマシかな……。
うむ、シチュー美味い。他人の作った飯は五割増しで美味いという事実に脱帽。
今度キノコ狩りに行こう。
【読書】さまもいるしなんとかなるだろう。
「ここ、隣よろしいですか?」
「どうぞ」
そう言って座ってきたのはサカイくんと……誰だ。
「……そちらさんは?」
「クーゼ、裁縫師です〜。よろしくお願いします〜」
「ジャンだ、こちらこそよろしく」
なんで商人と裁縫師が冒険者ギルドに?
疑問が顔に出ていたらしく、サカイくんが説明してくれた。
「僕たち、現実リアルで知り合いなんですよ」
「腐れ縁でして〜」
ポッと頬を染めるエルフ美少女クーゼさん。
成る程、恋人か。許さん。
「まあ、冒険者ギルドに来たのは次の街にそろそろ行こうと思いまして。それで戦闘職を探しているんです」
「成る程」
「一緒に行きません?」
何故そうなる?
「私も木工師で生産職なんだが……?」
「確かに【木工】の熟練度は高いですけど、【刀】【奇襲】の熟練度も現在のプレイヤーの中ではかなり高い。そして【会心の一撃】なんて、僕は初めて見ましたよ」
【鑑定】か。羨ましいな……。
「勝手に人の個人情報を見るのはどうなんだ?」
「人を見る目はあるつもりです。ですが、確かに失礼でした。すみません」
「ふうん?構わないが」
肩を竦める動作がやけに似合う。まあ、もとから怒っていたわけではないし、おそらく他の【鑑定】持ちは熟練度稼ぎに、普通に他者のステータスを見るだろう。
しかし、私のステータスは他とそんな変わらないんじゃないか?下手すれば平均以下だと思っていた。
私の頷きを了承と受けとったのだろう、疑問を重ねてきた。
「というか、【会心の一撃】なんてどうやってとるんです?クリティカル時のダメージ量2倍っておかしいですよね?秘密なら秘密でいいのですが」
そんな効果だったのか。
『技能大図鑑』に載ってなかったから、効果わかんないままだったんだよな。
「確かクリティカル攻撃連続百回だったかな……」
「えっ」
「それは……無理じゃないですか〜?」
そんなこと言われても……。できちゃったし。
仕方ないだろう?
「LUC高いしな。あー、称号効果でクリティカル出易いから、か?」
「失礼でなければ聞いても?」
サカイくんが食い気味に問う。鑑定で称号は見られないのか?
「……【運命神の憐憫】だな」
二人がなんだか私を可哀想なものを見る目で見ている。ヤメロ。
「な、名前はちょっとアレですけど、効果は破格ですねっっ!」
クーゼさん、のんびりした口調が崩れるほど無理に盛り上げんでええんよ?
「まあ、それは置いておこうか。それでジャンさん、一緒に来てくれますか?」
「構わないが……、他にいるのか?」
「いないんですよ〜」
「だから生産職でつるんでいるんです。他の奴ら足元みてまして」
それはムカつくな。うむ、見返してやろうではないか。
「理解した。私は夜なら大抵大丈夫だが。今夜はもう落ちるがな」
「助かります、僕たちもそうですし」
「明後日の夜はどうですか〜?」
「了解」
……他のプレイヤーと行動するの、私初じゃないか?
大丈夫かねえ?
名前:ジャン・スミス Lv.16
種族:人間 性別:男性
HP:139
MP:131
STR:18
VIT:9
INT:14
MID:43
AGI:62
DEX:84
LUC:50
称号
【混沌神の玩具】
【運命神の憐憫】
【怠惰神の親愛】
【無謀】【マゾ】
スキル
戦闘
【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】
魔法
【魔法陣】
生産
【細工】【採取】【料理】【木工】【解体】【伐採】
その他
【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御】【木登り】【地図】
特殊
【混沌】【手抜き】
備考
10レベル上がるごとにHPMP、ステータス値合計それぞれ+10
【マゾ】
デスペナルティー中に30分以上推奨レベル帯の戦闘エリアを彷徨い、かつその間戦闘をした者に与えられる。
被ダメージ軽減(小)
墜落しは既にしているというw