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50 ニアミス



 完全に遭難した。


 しかぁし!

 マップがあるから問題ない。

 ドワーフたちには恐らくまた死んだとか思われていると思われる。


 まあいいか。進もう。


 ふんふんとご機嫌気味に適当にツルハシの先端を打ちつける。星幽鉱石は見かけなくなって、普通の鉄鉱石っぽいのに混じって青緑色の石やらドス紫色の石が出てくる。

 後で鑑定してもらおう。


「およ?」


 グチャッという音と感触に驚いてツルハシの先を見ると、ハンカチサイズの毛皮がある。


「何だこれ?」


「キィーーーッ!!」


 足元から土が陥没する音とともに奇声が上がる。どうやらモグラ型のモンスターらしい。


「ふん」


 ゴルフのようにスイングして切っ先で貫く。

 雑魚め、一撃で倒されよったわ。ふはは。


 手品のように死体が消え、爪に変わった。

 ん?


「もしかしなくてもここはダンジョンか……」


 ウッカリ迷いこんだようだ。流石私と言うほかない。


「これは……深部を目指すべきか?」


 ただもうそろそろログアウト予定時刻が迫っている。残りの半分で行けるとこまで行って、その後戻るか。

 最悪死に戻ればいいだろう。


 そうと決まればあとは早い。サクサクと行き当たりバッタリに進んでいく。

 時折出てくるモンスターはツルハシで大体倒せる。たとえモグラだろうとミミズだろうとコウモリだろうとゴーレムだろうと問題ない。


 分かれ道では棒倒し。

 棒はストレージに入っていた枝である。今回はハニートレントのもの。懐かしいなぁ、あいつら今も元気に歌って踊っているかな。


「お、次は右か」


「きゃぁぁぁあ!!」


 右に進むべく足を踏み出したところ、左の通路から悲鳴が伝わってきた。

 え、どうしよう。行かなきゃダメかなあ。


 チラッと仕舞いかけた枝を見やり、左の通路を進むことにする。


「ミーミーズー!!」


 なんだか見覚えのある美女が栗毛を振り乱し錯乱していた。


「落ち着かんかい、カローナ!ただのデカイワームやろ!ユリウス、牽制!」


「やってるよー。小さいのは平気そうだったから油断したねー」


「姐さん、カローナマジで虫系ダメっすよ!!聞こえてないッス!ぎゃぁぁあ、ヨハネ回復(ヒール)!!」


「此方にも」


「わーっ、うりボーに*****!!佐倉さんに*****!!」


 なんだかアタフタしすぎでは?

 たしかトッププレイヤーじゃなかったっけ、佐倉さんが所属してるパーティーって。うーん。


 物陰から伺っているが、いつぞやの魔女さんの状態異常ではない混乱さえどうにかすればどうとでも出来そうだ。

 私が一撃で死んだ(とおぼしき)巨大ミミズに、割と余裕そうだし。


「キェェェ!*****ァァァア!!」


 一応助太刀するべく声を掛けようとした時、カローナさんが奇声をあげた。

 かざした腕には見覚えのある蜜色に白い石の散った腕輪が。

 そして急激に集まる周囲の魔力。


「アッ」


「アホっ!!」


「それまだ慣れてなかった杖だよねー!!」


 灼熱の火球は、薄暗い通路を真昼のように照らし出す。

 膨大な熱量が標的にぶつかり、大爆発。


 うーん、枝の言うこと聞いておけば良かった。熱い……!




 本日二度目の御堂前。


 私より早く目が覚めたのだろう、先程のパーティーの面子が、美女に正座させて懇々と説教している。みんな死んだしね、盛大な自爆というかフレンドリーファイアというか、何というか。


 私も被害者ではあるんだが、追加で文句を言うのも可哀想である。

 美女の涙目に微かな憤りもスッカリ綺麗になったことだし、見逃すとしよう。この世界(ゲーム)限定とはいえ、事故死には慣れている。

 そもそも気づかれていなかったし、恐らく現在も気づかれていないという影の薄さ加減。本格的に隠密になろうかな。


 何にせよ、見なかったフリしてこのまま酒場へ繰り出すのか、それとも軽く挨拶してから行くべきか、それが問題だ。

 街中でデート中の友人に声を掛けるような気分とでも言えばいいだろうか、そんな気まずさを感じる。


 よし、見なかったことにしよう。




 酒場なう。

 今日はプレイヤーで賑わう上層の酒場に来ていた。エダマメモドキはメニューに載っておらず、代わりにピザがあったのでそれを頼んだ。

 そう、アメリカ製猫型ロボットの好物、ピザである。

 もっともこの街で供されるのはジャーマンポテトピザ。魔改造されたてんこ盛り日本風ピザかもしれない。美味しい。


 冷めて固まったチーズはどうも苦手なので、心持ち急いで食べる。効きすぎた胡椒と諸々の油分をラガーで飲み下す。

 くぅーっ、このために生きてる!今日は二回も死んだけど!

 【六文銭】による臨時収入もあったことだし、酒がうまい。


 酔っ払い音頭の響く店内に、時折ささやかにベルが揺れる。

 何となく入り口を眺めやると、サカイくんだった。よく組む女性陣はおらず、何名かのフードを被ったガタイの良さそうな男たちが後ろについていた。


 不審者感のある人たちを従えたサカイくんは、私がいる場所から数テーブル離れた隅っこに陣取り、給仕さんに何やら注文した。

 行儀悪く盗み聞きする。頼んだのはエールとピザとほかにツマミらしい。


 そこから料理が運ばれて来るまで、何故かダンマリしているテーブル。賑やかな店内で雨雲を背負ったような陰鬱さが浮く浮く。

 私以外に気にしている人間は居なそうだが。


 ホカホカと湯気立つ皿と汗をかきそうなエールが運ばれて来て、ようやっとサカイくんが口を開いた。


「……よ…は?」


「実は……ダーが……」


 皮付きのフライドポテトを食べつつ、耳を傾ける。やばい、コーラ飲みたくなってきた。


「楽器…だ……なく…申し……せん」


 サカイくんの取り扱いにない商品が欲しいらしい。拾った言葉の端から何かの楽器が欲しいようだが、それならば何故ああも胡散臭い格好をする必要があるのか。

 絶対に衛兵に職務質問されると思うのだが。


「……問い…す」


 ぴろん、と脳内に電子音が鳴る。

 ……サカイくんからのメールだ。


 え、リコーダー?

 つい最近作ったばかりだが、タイミングからしてあの不審者ズの依頼がリコーダーなんだよな?

 中身といい、私に斡旋されることといい、怪しげでも後ろ暗くもない依頼だと思う、んだが……。


 首を捻ったところで正解が転がり出るわけもなく。

 まあいいや、自分ではほぼ確実に使わないし、既に完成しているはずだから明日にでも取りに行くか。

 そうと決まれば数日後には渡せると返信。


 ギーメルに戻るなら甘味類を補給しないと。サカイくんがいるってことは鍋さんも居るかな?

 でもこの街、ジャガイモとソーセージくらいしかないから居ないかもしれないな……。





「キャー」という叫び声は、腹筋を鍛えていないと出ないらしいです

主人公は故意ではないのでPKされた扱いにならないはずです

システム周り、設定が目の粗いざるなので作者にもよくわからない

(実は作者、たぶんMMO系のゲームやったことない。落ちゲーが好きです)

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