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41 さめたん




 パスピールじいさんの工房で紙を回収し、魔法紙の安いやつを束で買った。多用する魔法陣が大した紙質を要しないので、これで十分である。


 その足でディオディオの工房に寄り、自作のリュートもどきの弦を弾く。


 びゃぃぃぃん

 べぇぇん


 音はイマイチだ。

 これはひとえに私の演奏が下手なのである。……であったら良かったのだが、リュートの出来が良くなかったらしい。


「魔力が弱いな。初めてだから仕方ないとはいえ……。楽器としては俺が見ていたから音は出せるが、魔道楽器としては使えんな」


 つらつらと至らない点を挙げられる。前回のとき言って欲しかったっ……!

 え?言った?私が飽きて投げ出した?

 うっ、反論できない……。


 魔力が弱いというのは、音による魔法が平均以下、売り物にならない、だそう。


 悔しい。

 ので、もう一度作ろう。

 前回は大してデザインを凝らなかったので、今回は演奏の邪魔にならずかつ私が飽きない程度に飾りたい。


 捨てるのももったいないので、ディオディオに相談の上、使える部分は糊を丁寧に剥がして流用する。

 リュートもどきの腹には唐草模様を透かしていたが、今回は表の板を張り替え、妖精をモチーフにする。 この柄はあまり採用されないらしいが、おしゃれなので良しとした。

 また首の先は枝葉を広げる植物を象ってみた。めちゃくちゃ堅くて、彫刻に挫けそうになったが頑張った!

 弦を調整するネジみたいなやつは葉の形にする。緑がかったような骨を分けてもらい、細工してみた。


「なかなかじゃないか?」


 私は上機嫌にディオディオに尋ねる。


「ココとココ、やり直せ」


 マジか。

 指摘されては直す、を繰り返し、ようやっと乾燥に漕ぎ着けた。


「今回はそこそこの出来だろう。今日は笛も作るか?」


「ぜひ!」


 教えるのに乗り気なディオディオは珍しい。その冴えわたる技術を余すことなく私に見せてくれ!

 ディオディオは勘が良いのか、若干ひいた様子を見せたものの、笛に使うであろう材を取り出した。芯を含まない角材だ。芯は割れやすいため使えないそうだ。


「これは王木。笛は空気が漏れないよう、詰まった重い材を使う」


 ディオディオは短いものを二つ、長いものを一つに切り分け、機械も真っ青な速度で笛の口、胴、足を削り出していく。いくつもの(のみ)が適所に使われ、すぐにその形を意味あるものへと変えていく。バラバラな三パーツと別途用意した木片を組み上げてあっという間に縦笛に変身させた。

 すごく芸術的に彫り込まれ装飾されているのだが、これリコーダーじゃね?


「すまん、見えなかったからスロー再生してくれないか?」


「ふん、見て覚えろバカ弟子」


「だから見えねーって言ってんだろダメエルフ」


 ちょちょいと作っていたが、それものすごーく複雑な楽器ですよね?私にできるか?

 むー、とりあえず挑戦しよう、ディオディオが睨んでいるし。

 芯のない、広葉樹材なんぞあったかな?ハニートレントでいいか、柳っぽいし。私の胴ほどはある太い枝の端を使えばいいだろ。

 ディオディオにお伺いを立てると溜息を吐きつつ許可が出た。あんまりハニートレントの枝は取らないんだと。


「柾目面に穴を開けろよ。他の面は割れやすい」


 柾目面とは木の繊維が縦に平行に並んだ面である。言われなければ気にせず削るところだった、危ない。

 どうにかこうにか、ディオディオにダメだしされながらディオディオの作った見本に近づけていく。まあ月と(すっぽん)ですけども。

 とりあえず吹き口付近が難しい。恐る恐る削っていく。削りすぎては作りなおし、結構な量のトレント材を無駄にした。ごめんな。

 砕いてチップにしたら燻製に使えるだろうか?この世界じゃバイオマス発電なんてないだろうし、それくらいしか使い道が思い浮かばない。


 ごくごくシンプルなリコーダーもどきはなんとか及第点に達したらしい。最後に笛の足元に星幽石を埋め込み、全体に薄く魔法陣を刻んだ。こうすると魔道具になる。

 別に魔道具でなくてもよかったのだが、ディオディオが「見た目がつまらん」って言うからムキになってやった。すごく面倒くさかったので後悔している。途中でやめようとしたら烈火のごとく怒られました。gkbr(ガクブル)です。

 天丹油(あまにゆ)とかいう油を内部に、ニスを外側の保護のために塗る。また一週間ほどお預けである。


 久方ぶりに纏まった作業時間を取れるので、ディオディオに魚介ラーメンの貢物をして工房の隅に陣取り、無限収納(インベントリ)のなかから適当に取りだした枝を削る。

 匂いにつられてチラッとディオディオを見ると器用に箸を使っていた。器用(DEX高い)だもんな……。


 取りだしたのはトレントの枝。種類はよく分からないが、シナノキに似ているかもしれない。やや軟らかく、撫でると毛羽立つ。

 材鑑を借りて比べると、ライムトレントというもののようだ、多分。

 白い材を最近あった修行中フェアリーに加工していく。のほほんとしたジンベイザメっぽくなるよう、調子よく丸みをつけていく。おお、こんな感じこんな感じ!


 ガッ!


「あ、あ~~っ……」


 油断した。

 鮫の背中に不自然な傷が。そんなに大きくはないが。

 誤魔化すべく傷を丸く加工する。


「円形脱毛症……?」


 ポカリとパンチで開けたくらいの穴が一つ。

 目立つ。む、いっぱいハゲさせれば埋没するか……。

 チマチマと背中全体を穴だらけにする。


 粘土にプチプチを押しつけて剥がしたみたいな……。いやモグラ叩きの台?


 おが屑で埋めるのは個人的にムカつくので、いつぞやも使った三日月鹿(クレセントディア)の角の破片を少しずつ削って嵌めていく。面倒臭さに心が折れそうになりつつも、全ての穴を埋め立てた。


「水玉っぽい!」


 怪我の功名感ぱない。あと【細工】が静かに進化した。

 拳よりやや大きい、笑う白いジンベイザメ。背中には硬質な白の斑点が散らばっている。

 ちょっとばかり色味が寂しいので、フェアリーがくれた屑星幽石の形を整えいくつか交換する。曇ったようなパステルカラーの斑点が混じり、ファンシーな作品に大変身!


 ここでお馴染みの【混沌】!

 ……何も起こらない。ただの彫刻のようだ。


 ん?

 糊で固定すべくハゲを埋めている欠片を取り出そうとしたら抜けない。ひっくり返してもポロポロしない。


 【混沌】、君やるじゃないか!

 接着剤は、雑な性格が災いして大抵はみ出して拭うハメになるから嬉しい!

 これまたやろう!


「また変わった杖か?前ほどではないが……」


「え?」


 ため息をつかれた、解せぬ。普通に可愛いデフォルメされた鮫じゃん?よく見ると空中の魔力を吸って淡く光ってはいるが。


「今回は星幽石の順序から見て、五行を上手く循環させると威力が増幅していく杖、だな」


 ディオディオが手にとって目を眇めておそらく【識別】していく。


「持ちにくいぞ」


「置物だしな」


 理不尽な感想だな、おい。

 いいもん、根付にジョブチェンジさせるもん……。


 適当に紐を括りつける。前ビレの手前に赤い紐が映える。


「首吊りザメか?」


 映、える……。

 ディオディオ、その通りだけど口にするな、心が痛むから。


 他に結べそうなところは、む、尾ビレの付け根か?

 ぶらーんと振り子のようだ……。


「出荷用に干されているな」


 うん、だから言うなって。


 本体を貫通することも考えたが、ディオディオに止められた。星幽石の配置効果が消えてしまうそう。

 諦めてジンベイザメ干物ver.を完成品とする。


 これはこれで現実の土産物に有るかも知れない。

 少し寂しいので、ほじくり返した角たちに穴を開け、そこに同色の糸を通してぶらぶらとした付属品を作り、括りつけてみる。

 完全に土産物と化した。素晴らしい!


 暫くぶらぶらさせて悦に浸る。


「紐を編んだらどうだ?お守りくらいにはなるだろう」


「……結び方がわからん」


 ディオディオは積みあがっていた本から一冊、無造作に取りだした。

 『組紐上級者』


 上級者。

 上級者……。


 半眼になる私。

 あ、でも昔興味があって結んだことのあるやつが載ってら。

 今ならスキル補正てきな何かがきっとあるはず!つまりできるかもしれない。


 やや太めの紐を、花の外周をなぞるように絡めて、引っ張る。む、輪の大きさが揃わない……。

 解いてもう一度。うん、上手くいった。

 (本体)とまとめると、誰が見ようとも女子の爆発したストラップ群に見え……げふんげふん。

 私が使うにはちょーっと可愛いすぎるので、サカイくんに売ろうそうしよう。高く売れるといいなぁ。

 鍋さんの料理もそろそろ補充しないと。


 しかしそれをするには懐が涼しい。

 前に作ったネタ杖、ディオディオに評価もらったら売却だな。




 杖の評価でぼこぼこにノックアウトされたが、ディオディオの蔵書が気になったので、頼んで覗かせて貰った。彼曰く、すべて行商人を通じて得た人間の書物だそうだ。

 エルフの秘伝は口伝だそうですよ、くすん。腕を磨けば身に着くかね?でもどう考えても時間足りなくないか?


「ウワァ……」


 言われた部屋に入ると、平積みにされた山、山、山。どこに何が有るのか。本棚くらい作れや、本業だろうが。

 医者の不養生、紺屋の白袴を完全に体現している。

 あ、でもジャンル別に山にはなっているようだ。この山は塗料山……。


『塗料廃棄による環境負荷』

『魔法効果付与に適した鉱物を利用した塗料の研究』

『神代の魔道具塗料の鑑定』

『特殊塗装に於ける植物材料研究』

『図解 塗装と塗料完全版』

『塗料素材便覧』

『ゴブリン・オーク素材の顔料利用』


 などなど。

 これ、ベスの街の図書館だと資格がないと読めないヤツでは?まあ読んでしまおう。

 ……論文を読んでいるみたいで、辛い。

 うう、私は山脈を攻略できるのか?がんばれ【読書】さん!



名前(ネーム):ジャン・スミス Lv.25

種族:人間 性別:男性

HP:171

MP:189

STR:30

VIT:18

INT:15

MID:59

AGI:88

DEX:96

LUC:64


称号

【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【夜目】【逃げ足(初)】


魔法

【魔法陣(初)】【生活魔法】


生産

【細工(初)】【採取】【料理】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画】【調合】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【木登り】【地図】【風の心得】【金の心得】【木の心得】【水の心得】【火の心得】【効果】【魔道具】【妖精化(初)】【指導】


特殊

【混沌】【手抜き】【六文銭】


備考

ここでプチプチとは緩衝材のことです


懐が涼しい……寒いまではいかない。ちなみにこんな慣用句はない。


シナノキはそんなに彫刻で使われない。というか、日本では朴と檜以外は滅多に使われない。くすん。でも彫ります、ゲームなので!


天丹油(あまにゆ)

油絵具を溶かすのに使うらしい。現実だと亜麻仁油。


広葉樹と針葉樹

広葉樹は針葉樹に比べ細胞の種類が多く、組織構造も複雑です。そのため一般的に針葉樹よりも堅いく重い材が多いです。あと、葉の形で針葉樹広葉樹を区別しているわけではありません。よって名称変更を要求したい今日この頃。


リコーダーの作り方はYAMAHAさんの楽器解体全書というサイト?を参考にさせていただきました。

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