23 試してバッテン!
※誤字にあらず
「鍋と!」
「スミスのー」
「「クッキング☆ショー」」
わー、ドンドンぱふぱふ〜。
「なあこれやる必要あるか?」
「全くないよ」
いかにも呆れた声の私に、全く動じることなく答える鍋さん。相変わらず凛々しいです。
それはさておき。
「どちらかというと、私は『ためしてバッテン!!』なノリなのだが」
「構わないよ、『鍋の三時間クッキング』は始まったばかりだ」
場所は生産ギルド・ベスの街支部。パーティーを組んで使用することになった。言う必要はないかもしれないが、三時間使う。
「俺の尸を越えてゆけ」
「生産所で死ぬわけないだろう」
まあ、街中では死にはしないだろうが。しかし私は状態異常(毒)になった経験があるのだ。決して不真面目なノリで言ったわけではなくないのだが……。気にしても仕方ないか。
「ええと、注文は各種甘味と多少の料理で良いか?」
「頼む。この素材を提供するので、差分を払う感じで」
ギーメルの街で溜め込んだ鹿肉と果物類を出す。ついでに白銀小麦という妖精達の主食になっている麦も出した。木に穂がわさわさ生える不思議植物である。
「初めて見るのだが。……あとで聞くぞ?対価に関しては承知した。きちんと値段をつけられるかはわからないが」
まあ初めて見るものなら仕方ないな。鍋さんはワクワクと臼をだして小麦を挽いていく。
さて私もやるかー。
まずは拾いまくったシー茸を焼く。七輪を出して焼く。軽く塩を振る。完成!
しかしなんで七輪があるんだ?……考えたら面倒くさそうなので放置で。ストレージからエールを一杯。シー茸を焼き焼きまた一杯。時折干し肉も混ざる。かーっ、炭火は違うな!
《熟練度が上限に達しました。【毒耐性(微)】は【毒耐性】に変化します》
ゑ?
シー茸は毒ないぞ。毒ない……?
「鍋さん、すまん、ちとこれ鑑定してくれないか?」
「んー?ジー茸」
ジー……茸?
ちらっと見ただけのおざなりな鍋さんと相反するように、ものすごい勢いで脳みそがスピンする。
『ジー茸』
シー茸と間違えやすい。火を通すと毒性を示す。刺身がオススメ。暗いところで少し光る。
【読書】さんの知識が浮かぶ。【識別】、お前さんもうちょっと頑張れ。
はあー、と一つため息をつき、【毒耐性】があるし、と手持ちのエールが消えるまでジー茸を肴に一人で飲む。焼き鳥食いてえ。しかし醤油がない。私はタレの焼き鳥が好きだ。
ちなみに、生のジー茸は瑞々しかったです。味は……察してください。
うん、食った食った。次は緑寒天を使う。青寒天と同じく食えるだろう。
先日と同様に、水でふやかしたんだが……。なんだろう、既にこう、固まりかけた抹茶味のういろう……的な何か?あれほど濃くはないが緑だしな。
とりあえずひと匙掬って口に放り込む。
……【毒耐性】のせいで結構考え無しに口にしている気がする。多少は反省しよう。
しかし味がない。
しいて言えば噛みすぎた白米を水で薄めて雑草で青っぽさを出したような味。見た目よりねばねばしている。
何が言いたいのかというと、美味しくない。これに尽きる。
味を調えていないのだから当然と言えば当ぜn……。
「!?」
息ができない!喉に詰まった!?餅かっ!?
助けを求めようにも鍋さんはこっちをちらりとも見ないし、手についた餅(?)が床と私を接続してしまって身動きが半径1メートルレベルに制限されている。
ビクンビクンと体が跳ねているのは分かる。だんだん意識も朦朧としてきた。
お久しぶりです、ベスの神殿からお送りします。まさかこの世界でも餅による窒息死があるとは……、笑うほかない。
スプリングスライムとの戦闘でも窒息しかけたことを思い出しつつ、あれよりは苦しくなかった気がすると、記憶の中のものと比較してみる。
……とてもくだらなことを考えていることに気づいてなんだか虚しくなることってあるよな。
途中で油を買い足し、生産所に戻り鍋さんがいる赤い扉を開ける。
……めっちゃ良い匂いがする!
「おー、帰ってきたね。何か足りなかったのかい?」
「あー、まあ、うん」
私が死んだことにすら気づいていない、だと……!?もうちょっと私を見てくれてもいいんですよ?
「なんだその煮えきらない返事は。あ、いくつかできたからしまってくれ」
うん、私が差し出したのは全く使われていない。フェアリーたちに与えることを考えれば適当な判断ではあるのだが。
ギーメルではバターや卵、牛乳、砂糖は高級品だしな。
私は示されたプリンを一つ残して他のものは全てストレージに収めた。ふふ、早速食べよう。
すっと匙を差しこみ、そっと持ち上げると、とろっとその身を揺らす。素晴らしい、ゼラチンを使ってないヤツだ!
高まる期待感のままに口に含む。広がるバニラの香り、滑らかな舌触り、濃厚な卵と牛乳の味。スーパーで買う安売りのやつとは全然違う。うまい。
あっという間に底のカラメルに辿りつき、ほろ苦さがプリンの甘さを引き立てつつ引き締め、あとを引く。
もう一個食べたい。
「卵と牛乳はアレフの街のものか?バニラはどこで手に入れるんだ?」
アレフの街の南には牧場があったはず。
「卵と牛乳はお察しの通りだよ。バニラはヘエの街のモンスター倒したらドロップしたんだ。思わずスキップしたよ」
ヘエの街かー。まだ行ったことないな。早めに行くべきだろうか。
皿を片し、もう一度緑寒天を同じようにふやかし、また乾燥させてみる。お、カピカピになったな。やはりスライムは謎の性質を持っている。
「ヘエの街はどんな感じだ?」
「一言で表すなら港町」
行こう。
今決めた。絶対に刺身を食べる。
カピカピになったものを適当な大きさに割る。よしっ、手につかない!
「私はヘエの街を拠点にしようかと思ったのだけど、醤油が見つかるまでは、と思っていてね」
私の作業がぴたっと止まった。刺身、塩で食べるか?ワサビ、たこわさ……。
じゃなかった、……どうしよう、今から作るスライム菓子、醤油が欲しかったんだが。あー、これも塩味でいいか……、無念。
「豆から作れないか?」
「麹がね……。大豆もないし……豆腐も油揚げも作れないんだよ!海はあるのに!なんでエンドウ豆とか空豆が先に出るんだ!」
買った油を温めて、割ったものを投入。カラカラと良い音がする。適当なところで引きあげ、油をきり塩をかける。
「んー、豆ならちょっとあるぞ。あと別種の兎もあったんだった。出しとく」
あっつ!揚げたてのあられ煎餅はなかなかに熱くて味がわからない。
粗熱が取れるのを待ちつつ、ギーメルの街で売ってたヒナ豆を出してみる。豆料理はあまり好きではないから、たいして仕入れてないのだ。
例外は餡子と豆腐、最後に赤飯。
うむ、まああられ?ちょっと草っぽ……もとい海苔味だと思えばなかなか食えなくはない……と思う。
ボリボリ味見していると、両肩を後ろから掴まれた。痛い!短めの爪すら刺さってますよ!
「どこで手に入れた。吐け」
ひっくーい声が恐ろしい。本当に鍋さんか?
「そのあられもだ。いいな?」
のどにめっちゃ包丁突きつけられてるー!
嘘です。でもそんな一触即発な雰囲気でござる。
あっ、指っ!更に食い込んでるぅ!ミシミシ鳴り始めてるぅ!
「落ち着け?話すから!話すから手を離せ!?」
涙目のまま洗いざらい話して、鍋さんの鬼鬼とした雰囲気は収まったものの、難しい顔をしている。
「話からすると、私ではギーメルの街の住人宛の依頼がないから無理だろう。残念だが」
鍋さん作の鹿肉のブラウンシチューを頂きつつ、豆とスライムの仕入れなどを請け負う。なんでも、ヒナ豆は現実世界のひよこ豆のような豆らしく、豆腐モドキが作れるとのこと。
「このシチューもうまいな。パイに詰めても美味しそうだ」
濃厚で、リッチ系のパンとよく合う。肉がゴロゴロとしていて、野菜類はにんじん以外溶けきっているのか姿がない。あとは彩にブロッコリーが添えてあるくらいだ。肉好きには堪らないな。
無論これも確保済み。
頂いた各種魚介のフライも楽しみです。タルタルソースとウスターソースもオマケでもらってしまった!ラッキー。
「今度作っておくよ。交易品はほとんどダレスに流れているとはいえ、ヘエの街は香辛料を多少扱っているし、カレーもできそうなんだ。緑寒天も、もう少し工夫すれば草っぽさも抜けると思うから、期待していてくれ」
それは楽しみだ。それにしても乾燥の魔法陣の消費が激しい。また内職しないと。
残りの時間は魔法陣の作成に当てよう。
ストレージにうなる美味しそうな食品類に気分を上向かせて、魔法紙とインクを取り出した。
……冷蔵の魔法陣、あんまり使わないし数枚残して鍋さんに売ってしまおう。我ながらいい考えだな!
名前:ジャン・スミス Lv.23
種族:人間 性別:男性
HP:163
MP:177
STR:28
VIT:16
INT:15
MID:52
AGI:83
DEX:93
LUC:63
称号
【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】
スキル
戦闘
【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】
魔法
【魔法陣】【生活魔法】
生産
【細工】【採取】【料理】【木工】【解体】【伐採】【書画】
その他
【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御】【木登り】【地図】【風の心得】【金の心得】【木の心得】【水の心得】【火の心得】【効果】
特殊
【混沌】【手抜き】
備考
きのこの生食、半生は危ないので絶対に現実でやってはいけません。やるとしても、信頼できる専門家を頼りましょう。
人間は気道と食道が繋がっているため、馬などのように水を飲みながら呼吸するということができません。気をつけましょう。
作者は河村屋さんのほろ苦がオススメ。ちょくちょく近所の駅で見かけます。個人的には懐に大ダメージだが誘惑に抗えない魅惑のプリン。