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109 まさかのときの友こそ真の友

先週、火曜日投稿って言い忘れたので、悩んだんですけどすこし遅刻して月曜投稿にしました。急いだけど間に合わなかった……。

0時ぴったりに待ち構えてくださっている読者さん方には申し訳ないッス。


 目を開けると、そこには大勢の人が満員電車のように詰まっていた。立った体勢での復活は初めての経験だ。珍しい。

 プレイヤー復活用の天幕内なのだろう、見上げると、布の天井には創造神と破壊神が仲良く並んで刺繍されている。非常に見えにくいが、二柱をも巻きこんで細い魔力を含んだ糸か極細に()りあげられた魔力そのものが魔法陣を構成している。たぶんこれが復活用の魔法陣だと思う。

 これは誰が縫い上げたんだろう、イベントが決まってから急いで縫い上げたのかな? それとも創造神が下賜したのだろうか? でもこのゲームだと、こういったものは手作りなんだよなあ。神に何かをもらうなんてほぼないはずだ。

 もう少し魔法陣を観察したいが、他の人が復活するスペースを空けないといけない。なんとか人の波に乗って天幕を抜け出す。


「ってああ!?」


 なんか目線が低いなー、動きやすいなー、と思っていたら、私は人型に戻っていた。手が肌色だ!!! 胴長でも全身鱗でもない!!!


「短い龍生活だった……」


 見慣れた手に目を落として溜息をついた。安堵もあるにはあるが、戻ってしまうとそれはそれで残念なのだ。

 しかもしばらく龍化できなさそう。身にまとわせようとしても、魔力が手をすり抜けるような感覚がある。デスぺナはしっかりあるようだ。イベント期間中くらいおまけしてくれてもいいのにな。

 周りをみると、さっきまで一緒にいた……というか私を巻きこんで死んだ面々が話しこんでいた。


「いやあ、えらい目にあったな……」

「龍のやつがおらへんけど、流石に龍だけあって生き残ったんやろか?」

「いや、死んでる」


 班長さんと八瀬氏は死後直後にも関わらず和やかに話していた。たぶん、他のメンバーが天幕から出てくるのを待っているのだろう。実際、何人かは静かに集まってきていた。すごく死に戻りに手慣れていそうな気配がする。

 ちょうど私の話題だったので、お邪魔させてもらった。

 え? なんで八瀬氏は驚いたような目で、班長はそんな怪訝そうな目で私を見るんだ? さっきまで一緒にいたじゃないか。君たち薄情過ぎないか? もしや若年性痴ほう症か? かわいそうに……。 


「お前は……、あのときの杖職人か!?」

「おう。つーかよく覚えてたな?」

「そらええ職人と知り()うたら覚えな損やし。で、なんで龍が死んだってわかるん」

「そりゃあ……」


 と思ったのだが、龍と私がイコールで繋がっていないだけだった。八瀬氏は有り金全部と交換した杖を渡したことは覚えていたようだし。

 もしや、龍状態の私は鑑定できないのか? フレンドだけはわかるとかそんな感じなのだろうか。これでは私がさっきまで君たちを乗せていた龍だと言っても信じてもらえなさそうだ。誤魔化そう。


「……なんか周りで言っているから」

「ああ、掲示板経由やな」

「それと前線で死んだプレイヤーたちだな。あの龍が一瞬で消えればそれは話題になるか」


 八瀬氏と班長さんに納得いただけたところで、メニュー画面をいろいろ弄っていたメンバーが喜色満面にはしゃぎだした。


「リーダー……、ランキング見てくださいよ! これで俺らも上位ですよ!」

「んー、派閥別の総合ポイントだといい勝負っすね。これはプレイヤー(ぼくら)が担当してる区域のスタンピードで押されているのか?」

「グレンさんから早く戻るようにメッセージがきた。デスぺナ中だから、僕たちは魔力タンクかな?」

「さて急いで戻るとしよう。俺はこれから魔法陣製作班に結果を伝えにいかねばならんが、君たちは前線の応援に行くべきだろう」


 私のところにもグレンさんからメッセージがきた。生産にせよ戦闘にせよ、こちらは物量が心許ないのだ。デスぺナ中でも、単純作業ならそこまで難しくないし失敗も少ない。


「まあ戻ろうやないか。いつまでもここにおっても、他の復帰組の邪魔やし。まだまだ爆発させ足りひんし」

「リーダー、くれぐれも爆破するのは敵だけにしてくださいよ!」

「まあまあケチケチすんなや。死んだからって減るようなもんもなし」

「そりゃあ、ポケット持ちのリーダーはそうでしょうけど! 俺らはアイテムロストするんすよ!? この人でなし!」

「鬼やしー?」


 わいわい戻る他の人達の後ろにくっついて、今のランキングを見る。私の名前はやはり乗っていなくて、見慣れた名前だけが連なっている。


「……やっぱりパッセルがランクインしてる」


 ちょっと切ない。勝てるとも思えないけど。一度の出陣でトップとか今さらながらにヤバさを感じる。あの雷雲で殲滅しているんだろうな。南無。




 復活ポイントから馬車に揺られることしばし。龍なら一瞬の距離がなんとももどかしい。

 後方のモンスターのスタンピードを順次送り出している、いつのまにか出来上がっていた簡易の前線基地につく。何人もの人が忙しなく行きかい、チャットでも肉声でも指示を飛ばしまくっている。

 グレンさんは一度交代したのか、休憩中なのか、椅子に腰かけ指揮を執っていた。指揮を執るのも似合っているけど、真っ赤な剣をぶん回しているときの方が楽しそうだ。


「グレン! アンデッドの二陣がきた! どうする!?」

「くそっ、休憩は十分とらせられていないが、しかたない。炎系が使えるやつを連れていけ! 浄化を使うやつには死ぬ気で聖水を作らせろ! それを武器にぶっかけてからモンスターを斬るように通達!」

「はい!」


 勢いよく少年のアバターが飛び出していく。そしてグレンさんは入れ替わりに現れた私に気づいて笑顔を浮かべた。


「ジャン! 戻ったか! ……また龍になれたりしないか!? 圧倒的に壁と足が足りないんだが」

「いやあ……、無理じゃね?」


 期待には応えたいが、なれないものはなれない。私は首をゆるく振った。


「そうか……、まあないものねだりしても仕方ないしな。龍の力を当てにしてほかのメンツが騒ぐかもしれないから気をつけろよ?」

「大丈夫だ。まず龍だと思われないから」


 がっかりされるかと思いきや、私が他の参加者に非難されるのを心配された。グレンさんはいい人だな。全くもって杞憂なのだが。

 まあ酒でも一杯しばこうとストレージに手をのばすと、ダダダダダダダッとなかなかの速度で血や土埃に汚れた鎧を身にまとった巨漢が駆けこんで急停止した。


「今度は西からスタンピードだ! 今度はトレントの群!! 火系魔法が使えるやつはいるか! 至急応援頼む! めっちゃ足が早いんだよ! 到達まで、目測五分!」

「トレントだって!?」


 私にはまったく目もくれられていなかったが、思わず声をあげてしまった。トレントと言われたらもう部外者ではない。彼らは私の素材兼友人なのだ。燃やそうなど許すまじ。万死に値する。


「トレントとはまったく厄介な……! 火系の魔法使いは今ちょうど出払ってる!」

「グレンさん、私に行かせてくれ。他の人達には手を出させないように」


 グレンさんまで燃やす気なのか!? あんなに気の良いやつらなんて、人間でもそうそういないのに。なんとしてもここは穏便に済ませたい。


「トレントは火に弱いが、物理攻撃はあまり効かないぞ? 効くとすれば燃やすか枯らすか斧系統の重量武器で縦に割るかだ。ジャンには向いていないんじゃないか?」

「トレントに手をかけるだなんて、そんな可哀想なこと、許せるわけがないだろう! 絶対に説得してみせる」

「いや……、話し合えるとは思えないが。モンスターだぞ?」

「でもトレントだぞ?」


 戸惑うグレンさんと口論するが埒が明かない。そうこうしているうちに他のプレイヤーとトレントたちが戦端を開いてしまうだろう。

 平行線を辿りそうだが時間がないことを、私たちはお互いに理解していた。グレンさんの決断は一瞬だった。


「……よし。一応オレもついていく。いいよな?」

「止めても来るだろ? 私が死ぬまで手出しは無用だ」

「了解。安心しろ、俺は約束は守るタイプだ」


 グレンさんにひょいと担がれて、私はトレントとプレイヤーが睨みあう中間地帯についた。グレンさん力持ち。

 トレントの群の先頭には、最近別れの挨拶をしたはずのハニートレントたちがいた。


「おお、ハニートレントじゃないか! こないだぶり!」

「あ、こら! 正気か!?」


 こんなところで再会できるとは。てっきり初対面のトレントたちを説得する形になると思っていたんだが、これなら話が早そうだ。

 グレンさんに止められた気がするけど、私は両手を広げて枝を振るトレントたちに駆け寄った。


「蜂も、メープルトレントも、ヒノキトレントも、スギトレントもいる! みんなわざわざ助けに来てくれてありがとうな。陣営とかも、本当なら混沌神側じゃないのか? それに生態系は大丈夫なのか?」


 よく見れば、一度は素材として剪定した樹種のトレントたちばかりだった。さすがに異界のトレントたちはいなかったが。こんなに大移動したら色々と不都合が出そうだ。

 尋ねてみると、揃って笑うように上下に微振動して枝を振る。


「ダメなんかい……」

「うわ、本当に話せるのかよ……」


 微妙に楽し気な彼らの様子に呆れていると、いつの間にかグレンさんも隣で呆れていた。

 トレント達は二つに分かれて、同士討ちをするように演技する。そしてトレントの多い片方が勝ち誇ったように枝を振り上げた。どうやら私達とともに戦ってくれるようだ。


「援軍は嬉しいし助かるが……。でもお前ら、戦えるのか? 痛いぞ? それに燃やされるし」


 無事では済まないぞ、と念を押したが、覚悟の上だったようだ。モンスターは復活するのかどうかよくわからないが、今日まで倒したモンスターたちがアンデッド化しているのを見るかぎり、おそらく復活しないだろう。

 それでもトレントたちは皆、任せろ、とでも言うように、ポンと幹の上部を枝で叩いた。なんとも胸が熱くなる光景だ。


「そうか……。決意は固いんだな。ありがとうな「うぉあッ!?」」


 礼を言うと、私とグレンさんを逞しい枝に載せて動き出す。他のプレイヤーを刺激しないためか、のそのそと遅めだ。

 メニュー画面をタップしているのだろう、軽快に指を走らせながらグレンさんが話しかけてきた。その唇はゆるく弧を描いている。


「本当に話し合いで解決するとはな……。このトレント達はオレ達が前線に突撃するときに足や壁になってくれるってことでいいんだよな?」

「おう、任せろだってさ」


 私たちを乗せているトレントが、私たちに見えるように枝で力こぶのように曲げた。こいつら本当にわかりやすいよなー。他の人達とも上手くやってくれると思う。


「もう日が暮れるから、突撃は明日として。トレント達を組み込んだ作戦を立てるぞ」


 ニヤリと笑ったグレンさんはずいぶんとあくどい顔だった。




 イベントの二日目が終了した。あと三日残っているというのに、多くのプレイヤーが疲労困憊だ。そんな中、粛々と現状の確認と明日の作戦が決められていく。


「目下、混沌・冥界最大戦力はあの雀だ。今日付けのランキングの一位はあの雀だな。無差別の雷であちらの陣営もだいぶ死んでいるせいか、陣営同士のポイントはそこまで差が無い。ややこちらが劣勢といったところか」


 なんとはなしに隅っこで話を聞いていると、夕飯の唐揚げ、酒を注いで持ってきてくれた。熱気を放つ料理と、キンキンに冷やしてある酒。相変わらずおいしそうである。

 さあ食べようと箸を持つと、鍋さんがこそこそとパッセルについて尋ねてきた。


「ジャンくん、なんでパッセルちゃんはこっち側じゃないんだい?」

「以心伝心に期待していたんだ。あとゲームだしいい感じに調整される気がしていた」

「そんなものこのゲームでは幻想なんだから、ちゃんと連絡しておこうよ。今から誘ったらこっち来たりしないかい?」

「え~、連絡手段がない……。召喚してもいが、みんなを巻きこんで死ぬのも申し訳ないし」

「殺される前提なのか」

「当然だろ?」


 今は敵だし。お互いに死なない状態なのだ、パッセルが遠慮する意味がない。向こうの陣営の偉い人にお願いされるのに飽きて、サボりにはくるかもしれないが。

 唐揚げを噛むとじゅわあっと胡椒のきいた脂が口を焼く。あっつ、あっつ! 慌ててエールを流しこむ。くぅーっ! 美味いッ!


「ってわけで、ジャンとカローナはトレント移動部隊を率いて相手を奇襲な~」

「よろしくねって、ちょっと。ジャンさん、聞いていなかったの?」


 自分の名前を呼ばれたので意識をグレンさんに戻すと、すぐそばにカローナさんが来ていた。気配を消すのが上手すぎないですか? 魔法使いじゃなくて暗殺者なのかね?


「すまんなカローナ隊長。まったく話の流れがわからない」

「あら、ジャンさんが隊長よ。トレントと意思疎通ができるの、あなただけだし」

「うっそだー! トレント達の肉体言語(ボディーランゲージ)あんなにわかりやすいのに!?」

「わからないわね。わかる気もしないけど。通訳よろしくね、ジャン隊長!」


 トレントたちとの連携は私にかかっているそうだ。責任重大だな。なんて嫌な立ち回り。

 まあ作戦自体はそんなに難しくはない。夜陰に乗じトレントの擬態性を活かして敵陣のすぐ横に潜伏、明日は人との戦争に入るプレイヤー本隊の合図で挟撃。たったこれだけだ。

 でも、生還率はまた低くなりそうだなー。トレントの生還率だけは高くしたいが。難しいかな……。


「まあ一丁、ぶちかましてやろうか?」

「そこで疑問形なのがいただけないけど、やってやりましょう!」


 私はすこし自信なさげに、カローナさんは楽し気に、お互いの拳を打ち合わせた。



最終話まであと三話前後ですかねー?

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