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ガタンゴトン。
ガタンゴトン。
ただただ電車に揺られる。
1時間も走った頃に、車内アナウンスが終点を知らせる。
詩子は渋々 重い腰を挙げ、ホームに降り立つ。
ホームには人っ子一人いない。駅名を見やれど覚えがない。ソレ程、遠くにやって来た。
改札口を通り抜けて見渡す駅界隈は、昔ながらの質素さを残した商店街が並んでいる。全て、初めて見る景色だ。詩子は途方に暮れる。
「こんな所で、どうしろって言うの? 何も判らないよ……」
静かな町だ。
地元であった都会ではアレ程 騒がしかった人の心の声が聞こえて来ない。
雖も、午前中のこの時分は仕事なり学校なりで皆が出払っているから当然だろう。
だからと言って、ボサッと突っ立っていられるでも無い。
挙動不審と怪しまれない為にも、詩子は歩き始める。
アッチへ行ってコッチへ行って闇雲に1時間余り歩いただろうか、最終的に迷い込むのは、専ら学校をサボった学生達が屯うゲームセター街。
普段なら柄の悪さに避ける空間だが、今に限っては居心地良くも感じるから不思議だ。
喧しいゲーム音が余計な声を掻き消しつつも、人の気配だけは残してくれる。
詩子は喫煙所前にあるベンチに腰かけ、漸く足を休ませる。
(疲れた……でも、コレからの事、ちゃんと考えなきゃ……)
コレ迄と同じような生活は出来ない。
では、どんな生活なら残されているのか、その想像を積み上げなくてはならない。
ただジッと、石仏の様にココに座っていれば救われるでも無いのだ。
1時間。
2時間。
3時間。
4時間。
(オナカ、空いた……)
やって来るのは当たり前の生理現象。
所持金は限られているが、頭が働かなくなる前に 何か口に入れておいた方が良いだろう。
(お金は余り使いたくないけど、お店が開いてる内に何か買っておかなくちゃ。
そうだ、夜はどうしよう……
この辺は街灯も少なそうだし、暗くなるのも早いだろう。
一晩 過ごせる場所を見つけなきゃ。24のファミレスか、ネットカフェ……
そう言えば、そうゆうの1つも見なかった)
ココに来る道中に見かけたのは、居酒屋の1~2軒。
制服姿の詩子が立ち入れる場所では無い。
今後の生活 云々よりも、現状すら間々ならない事に気づけば忽ち焦燥。
居てもたってもいられずに詩子は立ち上がる。
然し、来た道を戻るべきか、ソレとも先に見える二又のどちらかへ進むべきか、
足元を迷わせていると、背後から声がかかる。
「ねぇ、キミぃ」
「!?」
詩子はビクリと肩を震わせる。
(み、見つかった!!)
チェックメイトか、詩子は震え上がりながら、恐る恐る振り返る。
そこには、金髪が印象的な長身の青年。
少し大人びた雰囲気は大学生くらいだろうか、肌は人形の様に白い眉目秀麗。
男は二又の左側を指差す。
「そっちの通りはロクな店が無いからオススメしねぇよ? 特に、女の子にはね」
「……ぇ?」
「この辺 知らなそぉだね? ぁ。迷子?」
「!」
青年は身なりこそナンパだが、悪い印象は無い。
耳を済ませれば、ただ詩子を訝しんでいるのが判る。
(どうしよう、警察に連れて行かれるかも……やっぱり逃げた方が、)
後ずさった所で、グゥ~~っと腹の虫が鳴る。
「!!」
「……腹、減ってんの?」
詩子は慌てて腹を押さえるが、鳴ってしまったものは取り返しがつかない。
顔を真っ赤にして俯き、必死の弁明。
「……ま、迷子では、ありません、」
「ぁ。そ。ぢゃぁ……メシ? メシ食うトコ探してんの?」
「……丁度、そうゆうタイミングでした、」
「ぁ。ハハハ! そっか。そっか。邪魔したね。
この辺 柄ワリぃの多いから女子高生1人でいると危ねぇんじゃねぇかな? って、声をかけてみただけの善良なオジサンでした。そんぢゃ」
オジサンと言う年齢では無いだろうに、
青年は屈託ない笑みでもって詩子に手を振ると、二又は右の通りに足を向ける。




