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「ぅぅッッ、ぅぅぁ、ぅぅッッ……ぅぅぅぅ、」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、……泣いてんじゃないわよ、小娘!!
サトリごときがッ、人間様 相手に勝てると思ってんのか!? 小ざかしいんだよ!!」
ガツッ!!
「ぅあぁッ、」
腹を蹴り上げられれば、詩子は溜まらずに蹲る。
木曽川の痛みと自分の痛みの猛襲に、今に意識が飛んでしまいそうだ。
然し、ココで諦めてはコレまで逃げ延びた意味が無くなってしまう。
(龍……)
詩子はサバイバルナイフに手を伸ばす。
まだ戦意は失っていない。その様子に、木曽川は細く小さな手を踏みつける。
「ぅ、ッッ!!」
「殺してしまえないのが口惜しくなる程にクソ生意気なガキだわねッ……」
木曽川は懐からスタンガンを取り出し、詩子の首に押し付ける。
バチン!!
「!!」
強い火花が散る程の電力に詩子の首筋は赤く爛れ、グッタリと頭を寝かす。
「…ぁ、ぁぁ、」
「最高出力をくらわせたって言うのに まだ意識を保っている何て……
大した化け物だわよ。でも、流石に動けはしないでしょう?
暫くそうしてなさいな」
詩子の動きを封じている間に牧田と合流したい。
木曽川が携帯電話に手を伸ばすと同時、倉庫のドアが勢い良く開け放たれる。
「先生!!」
牧田だ。
普段は間抜けているも、たまには役に立つ動きを見せる様だ。
木曽川は肩を撫で下ろす。
「珍しく機転を利かせたわね、牧田」
「はい! 先生が電話に出なかったのでGPSを使えば良いと勧められ……
し、然し 先生、血が、」
「大丈夫よ。ガキを躾けるのに手古摺っただけ」
苛立たしげな木曽川の足元を見やれば、詩子が蹲って倒れている。
予想通り木曽川が短気を発動させた事に、牧田は顔色を変えて大きく息を吸う。
「ぁあ!! せ、先生!! 彼女は、彼女はサトリではありません!!」
「何を言っているの? 牧田、アンタは本当に馬鹿だわね」
「いいえ! 彼女は病気なんです! 我々の勘違いだったんです!
宮原さん、早く薬を――」
……ザッ!!
牧田の首から血が吹き出す。
木曽川の目の前で牧田の巨体はグラリと揺らぎ、膝から倒れる。
ドサ……
「牧、田……?」
「クソババァ、俺の詩子を随分と痛めつけてくれたなぁ? こりゃ高くつくぜ?」
「宮原龍司……」
牧田の巨体が倒れると同時に姿を現す龍司の手には包丁。
刃にこびり付いた牧田の血を一振りで払うと、次の瞬間には詩子を抱きかかえている。
龍司の韋駄天のスピードに、木曽川は表情を変える。
「お前が、青頭巾……」
木曽川も、この町に潜む青頭巾の正体が龍司と迄は想像していなかっただろう。
「詩子、大丈夫かっ? シッカリしろっ、」
「……うぅ、ぁぁ、」
詩子は顔面蒼白。倒れた体を起こしてやれど、グッタリと首を寝かせてしまう。
やはり、サトリに人を攻撃する事は適わないのだ。
少なくとも、そのダメージに耐えうる力を詩子は備えていない。
龍司はギリギリと奥歯を噛み鳴らし、木曽川を斜視する。
「どうして そっとしておいてくれない……?」
「そっと?
アンタ達みたいな化け物が、どうしたら そっと生きられるって言うの?
そもそも人様の領分を侵略してんのは、アンタ達の方でしょぉが!
青頭巾! 特にアンタは酷いもんだわよ!!
人を喰って生き長らえる、アノマリーの中で最も下衆で穢れた化け物が!」
「ッッ、……何が、人様の領分だッ、」
話しにならない。違いすぎる立場は永久に平行線を辿るのだろう。
今一度 詩子を横たわらせ、陽炎の様にユラリと立ち上がる。




