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詩子は立ち上がる。
「龍に、何する気……?」
「さぁ。ソレは牧田に聞いて貰わないと分からない事だわよ」
バスは停留所で停まれば、木曽川は躊躇い無くバスを降りる。
詩子が追わなければ、木曽川は龍司の元に牧田を送り込むだろう。
(龍……)
詩子はバスを飛び降りる。予定調和。
木曽川は詩子を眄顧し、妖笑を浮かべる。
「そうね。良い子だわよ、詩子チャン」
詩子は諦観に目を閉じ、気だるく口を開く。
「……最後に行きたい場所がある。
そこへ行く事を許してくれたら、何でも言う事を聞く」
「良いでしょう。ソレくらいの時間は与えて上げるわ」
*
白いワゴン車は海岸線沿いに停車され、運転席で待機する牧田は、助手席に放った携帯電話に瞥々と目を向ける。その傍ら、掌に並べた桜色の貝殻を愛でる。
「綺麗な貝殻だ。
……でも、コレをくれた あの子も とても可愛いらしい子だった。
先生は彼女がサトリだと確信を持っていたようだし、間違いないだろう。
ぁぁ、また会えると思うと楽しみでならない。でも、大丈夫だろうか?
先生は 解かるように話をつけると言っていたが、短気な人だから……
ぁぁ、いかん。自分は あの兄を見張っていなければならなかったっ、」
木曽川が詩子を説得する間、『邪魔に入られては困るから』と、連絡を待ちつつ、龍司の監視も兼ねての車中待機をするよう言い使っている。
牧田が思い立った様に顔を上げると同時、運転席の窓がノックされる。
コンコン、コン。
「?」
目を向ければ、そこには涼やかな目元が印象的な眉目秀麗。
牧田は動揺に右往左往。然し、無視するのも怪しまれるから、慌てて窓を開ける。
「ど、どうも今日和。な、何でしょうか……?」
「さっきは浜辺で、妹がお世話になりました」
「ぁぁ、いやぁコチラこそ!」
「こんな所で何を? 連れの方は一緒じゃないんですか?」
「ぁぁ、その……ぇぇ……
ちょっと席を外してまして、ココで待つように言われていまして、はい、」
「ラムネアイスでも買いに行ったのかな?」
「ぁぁ、アレは本当に美味しいですねぇ。自分は今日、10個も食べてしまいましたよ」
「そりゃスゲェ」
「宮原サンこそ何をしているんです?」
「俺、名乗りました?」
「!! ……ぁ、ええ。はい。さっき妹サンから、はい、」
「そっか。……いえ、この辺は凶暴な青頭巾が出るもんで、大丈夫かな? と。
特に余所者が狙われますから」
「ぁぁ、聞きました。ぁぁ、恐ろしい……」
「ええ、ホントに。でも俺は、赤頭巾も怖いですけどね」
「ぇ?」
「だって、怪力でしょ? 何でも壊すでしょ? ならぁ、人も殺すでしょ」
「そ、そんな事は無い!」
「へぇ。詳しいですねぇ?」
「ぃ、いや、ソレはぁ……何となく、少し力が強いだけで、人を傷つけたり、そんな恐ろしい事はしないんじゃないかと……」
「どぉだかねぇ?」
「……、」
「ギャハハハハ! 何でアナタが気を悪くするんです? ギャハハハハ!」
「ぁ、ぁぁ、ええ、そうですね……、」
「ソレより、妹を見ませんでしたか?」
「! ……さぁ、ぉ、お買い物、じゃぁないですか?
まだ陽もあるし、暗くなるには時間もありますし、きっと……」
「困ったなぁ。実はアイツ、体が弱くてね」
「え?」
「薬を飲む時間だって言うのに、戻って来なくって、なに考えてんだか。
飲まないと、ホラ。さっき、浜辺で酷く震えたでしょ? ああやって発作が起こる」
「ほ、発作!? アレは発作だったんですか!?」
「ええ。さっきは直ぐに薬を飲ませたから良かったけど、遅れるとヤバイ」
「どうヤバイんでしょうかっ?」
「死んじまう」
「!!」
牧田は忽ち顔面蒼白。
浜辺でのあの反応から、木曽川は詩子がサトリだと確信して後を追っているのだ。
ソレが違うとなると、とんでも無い事になる。
牧田は助手席に預けていた携帯電話を取り、慌てて木曽川の番号をコールする。
「た、大変だ! ぃ、いや、大丈夫ですから、
ちょっと待って下さいね、今 先生に、………アレ? おかしいな、出ないぞ、」
何度コールしても木曽川は応答せず、留守番電話に変わってしまう。
*




