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男は牧田と呼ばれ、少し苛立った様子の中年女は木曽川と言うらしい。
チグハグなコンビに、詩子は黙って2人を見つめる。
(聞こえる……)
《あぁあぁ、海の湿度で気持ち悪い……本当に潮臭い嫌な町だわ。
年寄りばかりで話も通じにくいし、訛りも強い。
こんな事でも無ければ、2度と訪れたくは無い場所だわよ……》
(カップルじゃない。家族じゃない。友達じゃない。
先生……学校の先生と生徒? 課外授業? どれも違う気がする……)
《でも、仕方が無い。そもそも こうゆう場所なのよ。
こうゆう何の特徴も無い つまらない町を好む。――サトリは》
「!!」
詩子は目を見開き、肩を竦ませる。
(サトリを、探してる……)
《政府の馬鹿どもの無茶な実験のお陰で、サトリの数は激減している。
奴らに先を越される前に、メスのサトリを生け捕りにしなくては……》
(この人は、誰!?)
《その為に、赤頭巾の牧田を連れて歩いているのよ。誰にも邪魔はさせないわ。
待っていなさい、サトリ……アナタの体から新鮮な子宮を穿り出して、
全ての生命の源として、大事に大事に培養してあげる!!》
コレが、木曽川がメスのサトリに拘る理由。
木曽川の恐ろしい思考に、詩子の掌からヒラヒラと貝殻が落ちる。
(穢される!! 心の中が穢されていく!! 恐ろしい人間の感情に!!)
怯えて声を詰まらせる詩子の様子に、木曽川は眉を顰めて怪訝する。
「……どうしたの、アナタ。顔色が悪いわね?」
「ッッ、ぁ、ぁぁ、」
この場にいるのは危険だ。
詩子は木曽川と牧田を交互に見やり、砂浜で足下をヨロめかせながら後ずさる。
詩子の この異常な恐怖反応に、木曽川は目を見開く。
《まさか、この娘……》
確信に至らせてはならない。詩子は有りっ丈の声を絞り出して叫ぶ。
「龍!! 龍ぅ!!」
詩子の叫びに龍司が駆け込む。まるで韋駄天のスピード。
「詩子!!」
龍司は詩子を抱き掬って懐に抱え込む。
何があったのか、腕の中で蹲る詩子の体は大きく震えている。
コレ程に驚懼する詩子を見るのは初めてだ。龍司は木曽川と牧田を斜視する。
「妹が何か?」
「――妹サン? アナタの?」
「ええ。そうですけど?」
「……そぉ。余り似ていないわね?」
「失礼なオバサンだぁ」
龍司と木曽川が睨み合う中、詩子は震える声で訴える。
「帰る……龍、帰りたい、」
「分かった、帰ろ」
警戒心が上昇し続ける。長居は無用だ。
詩子を抱える龍司が踵を返せば、牧田は慌てて腰を折り、砂浜に落ちた貝殻を掻き集める。
「ぁぁ、あの、貝殻を……」
拾い終えるも、既に2人の姿は無し。
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