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aNoMaLy  作者: 坂戸樹水
21/36

10


「おぉ、龍司、遅かったなぁ。イカぁ食っちまったぞ」

「か、会長ぉ……

遅かったって、まさかココで一緒にイカ食ってるとは思わないでしょぉがぁ……」

「しょぉがねぇ。海風は冷えるってのに、オメェの妹ときたら裸足じゃじゃねぇか。暖をとらせてやらにゃ可哀相だ」


 龍司は慌てて腰を折り、詩子の足に触れる。

スッカリ冷え切って、まるで死体の様だ。

抱え込んでいた靴を並べると、急いで詩子を促す。


「靴、持って来たから、」

「ぅん……」

「寒かったろ、大丈夫か?」

「……龍、……ごめんね……」


 雨の様に降り注ぐのは、詩子の涙。

温かい雫を見上げ、龍司は苦笑する。



「家に帰ろ」


「うん……」



 龍司は詩子を背負い、再三 会長に頭を下げて港を出る。

だいぶ反省しているのだろう、詩子は龍司の背中で ずっと鼻を啜っている。

龍司は宥める様に話しかける。


「夜じゃ、海は見えねぇだろ」

「……ぅん、」

「今度は昼間にでも来よう。海の龍、見せてやる」

「海の龍?」

「ああ。白波だよ。漁師のオッサン達が教えてくれた。

横に真っ直ぐ伸びる姿が、龍が泳いでるみたいに見えるんだってな、

そぉ呼ばれるようになったらしいぜ」

「……海の龍、綺麗だろうね」

「ああ」


 詩子は龍司の背に頬をつける。



「龍も、綺麗だよ」


「!」


「優しくて、とても綺麗」


「……、」



 喰人鬼の何処を綺麗と褒められるだろうか、

然し、詩子に注がれる龍司の気持ちだけは純粋で穢れない。



*



 そして、数日が流れる。

何の事は無い、身隠れした詩子の生活は相変わらずの事。

然し、僅かな変化は訪れる。


「ただいま~~って、何? この食いモノらしい匂いは??」

「お帰りなさい! 見て、龍! 丁度 朝ゴハンが出来たの! 

コレ、僕が作ったの!」


 港の仕事から戻った龍司を迎えるのは、詩子の特製朝食。

メインは卵焼きだろうか、ドーンと ふてぶてしいとも言える見栄えに龍司は笑いを吹き出し、詩子の頭を撫でる。


「おぉ、スッゲェ! お前、料理なんて出来たのかぁ!」

「うん! だって、家庭科で何回か作った事あるから! 

卵、割った事あるもの!」

「……へぇ。そりゃスゲェ、」


 ほぼ、未経験と言っている様だなものだ。

些か恐怖を感じるが、龍司は詩子に勧められるが儘に卵焼きを1口つまみ食い。



ガリ。ガリ。ガリ。



「……卵の殻が入ってて歯ごたえがイイな?」

「嘘!? マ、マズイ!?」

「……ぃゃ、うめぇよ。うん。

そのぉ……砂糖っけも塩っけもねぇ、素材そのモノの味ってぇの?

うん。クセがない。元祖・卵焼きって こぉゆぅモンなんだろぉな?」

「……、」


 一言で言えば不味い。

どれだけ愛情が籠もっていようが、不味い物は不味い。

然し、龍司の負担を軽くしたい、詩子なりの精一杯の気遣いは有り難い。


「うん。後は俺がやるから、お前は向こうに行ってろ」

「ぅ、うん……」


 結局 役立たず。詩子は しょぼ暮れて畳部屋へ。

そんな詩子に、龍司は紙袋を掲げる。


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