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詩子はアパートの窓を開け、そこから見える真っ暗闇の夜を眺める。
(いつもなら、とっくに帰って来てる時間なのに……)
倉庫業務は時々残業が入るも、23時には帰宅するのが龍司の毎日。
ソレが、部屋の時計を見やれば、既に深夜の1時だ。
何かあったのでは無いかと不安に駆られる。
(まさか、捜索隊がココまで来た? 警察に捕まった?
でも、そんな声 聞こえて来てない……
ソレに、龍がアノマリーって事は誰にも知られてないもの!
で、でも、聞こえないだけで、とっくにバレていたのかも知れない!
誰かが通報して、龍が捕まったのかも知れない!!)
この海町に来てから、龍司は女を襲っていない。
その代わり、土地の人々を恫喝して歩く迷惑な地上げ屋をコッソリ喰らっている。
お陰で開発事業も足踏みしている状態だが、いつ迄も黙っている程、企業も お人よしでは無いだろう。
捜索隊を嗾けるなりの手は打っているかも知れないと思えば、詩子の全身に悪寒が巡る。
(龍!!)
立ち上がり、血相かいて玄関へ。
靴を履く間も惜しみ、裸足でドアを押し開けると、そこには たった今 帰って来たばかりの龍司が立っている。
「龍……」
「お前、どぉした?」
「龍、」
「お前、外に出ようとしてたろ? 俺がいねぇのをイイコトにぃ……
悪知恵 働くよぉになりやがったなぁ、ったくぅ。ホレ、中に戻んなさい」
龍司はなに食わぬ顔をして靴を脱ぎ、冷蔵庫から水を取り出すと一気飲み。
無事に帰って来た事にはホッとするも、どうも龍司の様子が可笑しい。
詩子は混乱のまま訝しむ。
「龍、お酒……飲んでる?」
「……あぁ。ちっと。付き合いで。
ぁ。土産。えっと、コレ。貰いモンの手作りクッキー」
「……」
「そぉ言や、お菓子的なモンって、買って無かったよな。
やっぱ、ガキにお菓子っつのは必需品だよな」
「……」
差し出されるが儘、詩子は小袋に入ったクッキーを受け取る。
リボンも付いた可愛らしいラッピング。
ハート型のココアクッキーが甘い香りを漂わせている。
「女……」
「ぁ? ああ。女の事務員サンからの差し入れ。男が作ってたら怖ぇだろ、ソレ」
「……」
「どぉした? ああ、食うなら明日にしろ? お子様は寝てる時間」
「……」
龍司は服を着替え、黙り込んだ詩子を振り返る。
「詩子?」
「待ってたのに……」
「ぇ?」
「ずっと心配で待ってたのに……」
「ガキじゃねんだから、時間になったら寝ろつっといただろ?
……でも、まぁ悪かったよ。ちっと付き合うってだけが時間くった。
ごめんごめん」
「嘘……お酒、飲みたかったんでしょ? 遊びたかったんでしょ?
僕といるの嫌で、女の人といたかったんでしょ!?」
詩子はクッキーを投げ付け返す。
「そんなので機嫌とろうとしてっ、馬鹿にすんな! そんなのイラナイ!」
「オイっ、静かにしろ。近所迷惑」
「バカヤロ! 龍なんか何処にでも行けば良い! 行きたいトコ行けば良い!
ガキのお守り何かやめて、女のトコに行けば良い!」
宥めようにも詩子は収まらない。
龍司にも考える所があるから、苛立ちが眉を顰めさせる。
「テメェ、なに勘違いしてやがんだ、ゴラぁッ、」
「もうヤダ!! ……こんな生活もう嫌だ!!」
叫ぶなり、詩子はアパートを飛び出す。
「詩子!」
*