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捜索隊がやって来る事を想定できる以上、詩子の話をするのは控えたい。
龍司ははぐらかす。
「アパートってココ? キレイだなぁ。ウチの襤褸アパとは大違いだ」
「そ? まぁ、新しめかもね。どぉぞ」
広瀬は玄関ドアを開け、龍司を手招き。
「つか、他にも呼んだ方が良かったんじゃないッスかねぇ?
広瀬サンのカレシに激昂されたら、俺1人で太刀打ち出来るかどぉか」
「キャハハ! イナイってばぁ、そんなのぉ~~」
折角2人きりになるチャンスを、見す見す逃す程 馬鹿な女では無い。
広瀬はテーブルの上に買って来た物を手際良く並べると、早速 缶ビールの蓋を開ける。
「ささ、グイーっと、ね?」
「ハイハイ。早速ね。頂きます。」
久し振りのビールを喉に流し込めば、コレ程 美味い液体があったのかと再確認させられる。
「かぁぁぁ、美味い! 美味すぎる!」
「キャハハハハ! イイ飲みっぷりぃ! この調子でジャンジャン行こぉ!」
コレなら缶ビールのCMもいけるだろう飲み姿。
こんな無意味で何の変哲も無い時間を過ごしたのは いつ振りだろうか、
龍司も器用にこなしている様でいて、気づかない内に遣り込められていた様だ。
ビールの空き缶が幾つか並ぶ頃、頬を赤らめた広瀬は艶笑を聞かせる。
「ねぇ、泊まってく?」
「……あ~~……いや。ソレは流石にマズイっつぅ感じ」
「じゃぁ、休憩だったらイイカンジ?」
「休憩、つぅとぉ……ソレはぁ、そのぉ……」
大人の会話。
広瀬が何を言いたいのか簡単に察しが付くも、龍司は視線を泳がせる。
以前なら即答できる誘い文句だが、今はソレ程 身軽では無い。
頭の中にチラチラと詩子の存在が過ぎるのが その理由。
雖も、美女線の龍司から見て、広瀬は女としてのレベルはソレ程 低くは無い。
女日照りも長いから、有り難い展開でもある。
{女……}
「俺でイイの? 広瀬サンは」
「うん。龍司クンは?」
「そりゃもぉ、」
{女の肉は長らく喰ってねぇ……
ココ暫く、地上げ屋のクソみてぇな肉ばっかりだ。
食あたり起こさねぇのが奇跡的}
ゴクリと喉が鳴る。
{ダメだ……もぉ女は喰わねぇって決めた。
詩子を喰えなかった あの日から、俺は……}
「美味そ……」
「ウフフ! イイよぉ? 召し上がれぇ~~」
{ダメだ……酒が回る、自制が利かない、喰いたい……女が喰いたい、
甘い血と、柔らかい肉がイイ。一口、一口でイイから……}
『龍、オナカが空いたら言ってね? 僕、いつだって龍の食料になるから』
「!!」
広瀬の首筋に唇を寄せた所で、ハッと我に返る。
「龍司クン、どぉしたのぉ?」
「――ぃ、ゃ、……ごめん、揃々 帰るよ、」
「えぇ!?」
「ごめん、ごめん……今日は ありがとう、楽しかった。ぢゃぁ、」
「りゅ、龍司クン!」
龍司は部屋を飛び出し、自転車を引いて夜の道を走る。
*