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「龍司クーン!」
「うぃース」
田舎町とは言え、若者が全くいないでも無い。
地元に残った若者が働く場所は、ある程度 決まっている。その1つが この倉庫だ。
男がフォークリフトで荷物を移動する傍ら、女は専ら事務作業。
時折、手作り菓子なんて物を作って、おべっかも使う。
「へぇ! クッキーかぁ、広瀬サンが使ったの?」
「うん! 龍司クンに上げようと思ってぇ、他の人には内緒だよ?」
「マジで? 嬉しいなぁ。後で頂くよ」
「うんうん! ねぇ、今晩さぁ、バイト終わってからウチに飲みに来なぁい?
どーせ、明日の朝は競りも お休みでしょ?」
「良く知ってんねぇ、俺の予定」
「ふふ~ん、漁師のオジサンに聞いたのぉ」
どうやら、龍司に気がある様だ。
否、龍司に色香を振り撒くのは、この若い女事務員=広瀬だけでは無い。
何せ、この田舎町には不釣合いな程、龍司の見た目は整っている。まさに芸能人レベル。
兎に角、パッとした華があるのだ。
作業服だろうと、まるで最新ファッションの着こなし。
仕事の覚えも早く、機転も利くから、目上に可愛がられる存在でもある。
挙句、働き者で妹思いな所も高得点。
然し、困ったものだ。
日頃、詩子を1人きりにしている手前、翌朝がゆっくり出来るからと言って、夜遊びして帰るのも憚れる。龍司は苦笑。
「ごめん。妹に留守番させてっから。また今度」
「えぇ~……妹チャン、16才だよね? 意外に1人の方がイイってコトなぁい?」
「え? そンなん聞いた事ねぇけど?」
「キャハハ! アタシとか そぉだったよぉ? 兄貴ウザ~説教クサ~ってね」
「……思われてっかも!!」
考えてもみれば、『勉強しろ』だの『好き嫌いはするな』だの、毎日 父親顔負けの説教を垂れている。
挙句、外出すら自由にさせない徹底さは、側から見れば異常な溺愛っぷり。
広瀬の指摘に龍司は思わず頭を抱える。
「たまには妹チャンにフリーダムさせて上げたらぁ?」
「ぅぅ……」
「ちょっとだけね? ウチ、こっから近いから直ぐ帰れるしぃ。ね?」
逃亡生活が始まってから、酒の1滴も飲んでいない。
ただただ働いて襤褸アパートに帰るだけの毎日だ。
少しくらい気晴らしをしても罰は当たらないのではなかろうか。
詩子にも疲れ切って帰るだけの姿を晒すのでは無く、遊ぶ余裕すらあるのだと印象づけてみるのも悪くないか知れない。
ならば、少し帰りを遅らせるのも妹孝行か、龍司は躊躇いながらも頷く。
「ンじゃ、……寄らせて貰おうかな、」
龍司の同意に、広瀬は頬を赤らめて頷く。
終業後、龍司は広瀬の案内を受け、アパートを目指す。
途中、閉店間際のスーパーで酒とつツマミを購入し、自転車のカゴに積み上げる。
「フフフ! 龍司クンってさぁ、地味だよねぇ?」
広瀬は上機嫌。
まさか、お目当ての龍司が こうもアッサリ釣り上がるとは思っていなかったのだろう。他の女子を出し抜けた優越感に舞い上がっている。
「俺のマイカー・ママチャリの事言ってんの?」
「キャハハ! そぉそぉ!
だってさぁ、見た目とのギャップがぁ! キャハハハハ!」
「遠路 歩いて買い物 行ってたら、ソレを見かねた八百屋のオバチャンがくれたんだよ。やっぱ田舎の人って親切だよなぁ」
「違うってぇ、龍司クンがイケてるからだってば。ねぇ、龍司クンの地元って何処?」
「言うても地方だよ。南の方」
「沖縄とか?」
「そぉそぉ、そっちの方」
元々は東京住みにも関わらず、全く的外れな嘘を付く男だ。
然し、広瀬は信じて頷いている。
「どぉせなら東京に出ようとか思わなかったの?」
「妹は体弱いから、なるべくイイ空気 吸わせたろみたいな?」
「やっさし~~! ねぇ、妹チャンの名前は?」
「……詩子。っぽい名前。」
「何ソレぇ? 詩子チャンね! 今度 紹介してよ!」
「紹介かぁ……」
「ダメなの?」
「……いや。聞いとく。気難しい年頃なんで、勝手に決めると怒りそ」
「キャハハ! ホント優しい お兄チャンだよね! そぉゆぅのイイよね!」