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aNoMaLy  作者: 坂戸樹水
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「ただいま~~」

「龍、お帰りなさい!」


 古い木造アパートの玄関を開ければ、部屋から飛び出して来る少女の喜色満面。

この笑顔を見ると、龍司も鼻の下を伸ばさずにはいられない。


「詩子、ちゃんと留守番できたかぁ?」

「僕、16だよ? 留守番くらい出来るよ?」

「“僕”ねぇ。“私”だろ? 女の子はぁ」

「良いの! 僕は僕なの!」


 妹・詩子うたこは、年頃の娘だと言うのに自称が『僕』。

コレには再三 注意をしているのだが、詩子は改める気も無く、この主張だ。


「龍、帰り遅かったね? 仕事、忙しかったの? 大丈夫?」

「ンにゃ。いつも通りだよ。ちっと会長らと立ち話。んで、コレ貰って来た」

「また魚?」

「そ」

「魚、怖いから嫌い……」

「バチ当たりな事言うんじゃねぇよ。

怖いって、見た目がだろ? ちゃんと捌いてやるっつの」

「シラスも?」

「ソレは無理。米にブッかけて食え」

「え~~、」

「獲れたてシラスだから美味いっつの。食わず嫌いなんだよ、お前はぁ」


 龍司は台所へ。

小狭いスペースには1人立つのがやっとだが、詩子は龍司の傍らにピタリとくっつく。


「魚捌くぞ。グロイぞ。アッチ行ってろ」

「う、ぅぅ、」


 1人での留守番は寂しかったのだろう、龍司が帰れば詩子が纏わり付くのは いつもの事。懐かれて嫌な気はしないが、詩子は魚の姿が苦手なのだ。

龍司がシッシと追い払うのも お約束。


 詩子は畳部屋に引っ込むと、そこから顔を出し、龍司の背中だけを見つめる。


「龍、朝ゴハン、後でも良いよ? ちょっと休んだら? 仕事、疲れたでしょ?」

「オッサン扱いすんなっつの。

まだ20才のピチピチな お兄サンですから大丈夫だよ」

「でも、午後から倉庫のバイト入ってるでしょ?」

「そぉだけどな」

「僕ね、考えたんだけど、」

「さぞ下らねんだろな」

「そんな事ないよ! アルバイト、しようと思ってるんだから!」

「あぁ?」


 龍司は調理の手を止め、詩子を振り返る。


「聞こえたの。海岸沿いに小料理屋サンがあるんでしょ?

そこの女将サンが、接客の若い子が結婚して店を辞めたから人出が足りないって、

求人広告 出そうかって考えてるの」

「お前の地獄耳は海岸沿いまで届くのかよ?」

「だってサトリだもの。聞こえるもの」


 青頭巾と同じアノマリーの一種として、人の心を読む【サトリ】が在る。

強い思いであれば、ある程度の距離をも凌駕する地獄耳。

詩子は そんなサトリの性を持っている。

放っておいても外の情報を捉える力があるから、龍司は毎度 困らされるのだ。


「ダーメ。お前はサツに面が割れてる」

「でも、この辺は捜索隊の人も来てないみたいだし、」

「だから! いつ来るか分からない。だから! 

気をつける必要があるんだろーが。お前は体が弱い設定になってんだよ。

フラフラ出歩かれたら、やれ『学校 行かせてやれだの』って、ジジィどもに説教されんのは俺なんだぞ?」

「……、」


 詩子の虚弱体質は設定であって、事実では無い。

表に出ないで済む理由を 丁稚あげただけの事。

詩子が押し黙れば龍司は気まずそうに顔を背け、調理を再開する。


「アノマリーは人類の癌なんだ。

見つかって しょっ引かれれば、新種のモルモット扱いで実験対象。

お前だって、この魚みてぇに捌かれて内臓ほじくり返されて、最期は焼却炉にポイだぞ。ソレが怖くて逃げ出したんなら、大人しく引っ込んでろ。クソガキ」


 言及されてしまえば身も蓋も無い。詩子は下唇を噛む。


(アノマリーは人々に恐れられている。

中でもサトリは何でも見通す事から、国の大事な秘密が守れなくなると、

国家存亡の危機であるとして警戒されている。

そして1年前、僕がアノマリーのサトリであると、実の両親によって通報された。

ソレ以来、僕は警察の捜索隊に追われている。

捕まれば、色々な実験をされて、最期には焼却処分。そこに人権は無い。

だから、逃げて、逃げて、逃げて……そんな僕を、今は青頭巾の龍が匿ってくれている)


 アノマリーの発生原因は明確にされていない。

現段階に於いては、23年前に地上で起こった異常気象が原因だろう推察に留まっている。


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