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aNoMaLy  作者: 坂戸樹水
12/36

続章 1

序章からの続きです。


――Anomalyアノマリー


ある法則・理論から見て、異常もしくは説明できない事象や個体を指す。



*



 港。

まだ陽も昇らない早朝の薄暗い空を、カモメは飛び交い、威勢良く鳴いている。



「若ぇのに、お前サンは良ぉ働くなぁ?」



 老人の嗄れ声に、年配の男達は揃って頷く。

出勤早々、こうして褒められる日々を重ねて半年が経つだろうか、

整った眉目秀麗に、似合わない繋ぎの作業服姿で青年は屈託なく笑う。


「最近の若いモンでもマジメに働くタイプがいるんですなぁ、コレがぁ」


 自画自賛の青年が両手に抱える発泡スチロールの中には、漁船から降ろした沢山の魚が積まれている。

コレを早朝の競りが開く前に棚に並べるのだが、魚の分類は素人がするには中々難しい。

然し、この青年はソレを数日で覚え、スッカリ仕事に変えている。


「龍司、コレ持ってぇって妹に食わせたんなぁ。

見た目はワリぃが、煮付けにすっと豪く美味ぇから」

「え!? タダ!?」

「当ったりめぇだ。オメェの妹、体弱くて学校さ行けねぇって、皆 可哀相がってんだ。エエもん食わせてやんにゃぁならん」


 港町の男達に『龍司』と呼ばれる この青年は、

ある日、小柄な妹を1人連れ、ヒョッコリとこの海町に現れた。

そして、持ち前の明るさでスッカリ馴染みの若者になっている。


 空が白んで来た頃、龍司は脱帽して丁寧に頭を下げる。


「ほんじゃ、お先にお疲れサンです! コレ、頂いていきますわ!」

「あぁ、待て、龍司」


 厳つい顔をした老人に呼び止められ、龍司は振り返る。


「シラスも持ってけ」

「うわ、ラッキーぃ! 頂きます、会長サン!」

「妹の事で困った事があったら言え。兄チャンだからって無理すんじゃぁねぇぞ」

「ハハ! どぉもッス!」

「ソレから、気ぃ付けろ」

「何がです?」

「……この辺も青頭巾が出始めた。

今んトコは他所から来た柄の悪いのを喰ってるみてぇだが……

何かあったって、こんな辺鄙な田舎じゃ警察のお偉いサンも助けちゃくれん。

エエな?」

「はーい! 気ぃつけまーす!」


 生魚にシラス。今日の朝食はカルシウム満点。

龍司は錆びた自転車に跨り、キィキィと軋むペダルを漕ぐ。


 朝焼けの海岸線は何度 見ても美しい。この景観を楽しみながら龍司は呟く。


「ジジィ共も青頭巾の噂をし始めたか……この町も揃々 出た方が良いかも知れねぇな」


 全国区で恐れられている【青頭巾】は喰人鬼だ。

姿は普通の人間と何ら変わらないが、人を主食として生きる【突然変異の異常個体アノマリー】だと認識されている。


 車道を走る黒塗りのベンツが通り過ぎれば、龍司はブレーキを握って自転車を停める。



「また来やがったか」



 田舎の海町には不似合いなベンツは、ココ最近、出入りを始めた地上げ屋だ。

この辺りの海は波も穏やかで、観光設備さえ整えば多くの集客が期待できるだろうと目を付けられた。


 然し、地元民は開発に消極的だ。

折角の漁場が観光客によって荒らされる事を強く恐れている。

その為、大手企業があの手この手で土地の買収にかかってると言うのが近頃の話だ。


 龍司は舌なめずり。




*

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