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(辛そう……)
《このクソガキ、よくも俺を巻き込んでくれたなぁッ、
……いや、恨み言より肉だ、肉さえ喰えばこんな傷、どってコトねぇッ、
全身の活動が止まる前に肉を喰わなけりゃ、俺が死ぬ!!》
(そうか。青頭巾は人の肉を食べないと生きられないのか……)
龍司はベッドに手を突く。
《サトリの肉――》
龍司が口を開けると、詩子は呟く。
「痛く、ない、よに、して、ね……?」
「!!」
詩子の意識が戻っていた事に気づくと、龍司は慌てて顔を引っ込める。
「テメェ……ッ、」
詩子は薄く目を開ける。龍司は包帯だらけだ。
青頭巾と言うよりはミイラにしか見えないから可笑しくなる。
「大丈夫……誰も、来ない……」
「ッ?」
「大丈夫……騒がない……静かに、してる……早く食べて、元気、なって……」
「!?」
(どうせ死ぬんだ。どうせなら、誰かの役に立とう。
生きたいと願う、誰かの為に……)
「大丈夫……分かってる……解かってる、から……」
(トラックに跳ねられて地面に落ちた時、聞こえてしまった。
死にたくないって……でも、もう誰も食べなくて済むって……
本当は食べたくないって……
独りぼっちの寂しい人だけ。自殺しようとしている悲しい人だけ。
この人は、そうゆう人を選んでる)
「僕も、同じなんだ……」
(疲れた。怖いのも、寂しいのも、独りぼっちなのも、もう嫌なんだ……)
龍司はゴクリ……と喉を鳴らす。空腹で空腹で堪らない。
食事を勧められる事に戸惑いはあるが、体を癒す為にも滋養は必要。
ソレがサトリの肉であるなら、きっと効果もあるに違いない。
「望み通りに」
龍司は身を乗り出し、牙を剥く。
せめて痛みが無いよう首の動脈を噛み切って、吹き出す血の一滴も零さず飲み込んでやろう。
コレが同胞へ向ける餞だ。
首筋に龍司の牙が押し当てられれば、詩子は肩の力を抜き、感覚が戻りつつある両手をゆっくりと挙げる。
「!」
細い腕に力なく抱き締められれば、龍司は目を見開く。
ただ、頼りなく温かい。
*
朝の陽射しが病室に差し込む頃、看護婦が警官を連れ立って詩子の病室を訪れる。
「コチラが小角詩子サンの病室です。意識はまだ……え!?」
看護婦が仰け反って狼狽えれば、警官等は慌てて病室に駆け込む。
「いない……」
まるで伽藍洞。
「け、刑事サン、小角サンと一緒に搬送されて来た男の方もいません!
意識が戻ったとしても、あんな体で動ける筈が無いのに!!」
シーツに触れるも、体温すら残っていない。
ただ、開け放たれた窓から吹き付ける風がカーテンを大きく揺らしている。
その後、2人の姿が目撃される事は無かったそうだ。
and that's all ?
2014/12/22 Writing by Kimi Sakato