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現代の魔法使いは異世界を行く  作者: リールルーレ
日常瓦解の序曲
8/18

七話 迷宮への挑戦

 その日の朝は自然に目が覚めた。

 勇者としての使命を捨て抜け出すための緊張か3人と別れることの悲しみなのかは分からなかった。


 起きてそのまま宿の外にある井戸へ向かい顔を洗う。

 井戸には唯子がいた。


「おはよう唯子、随分朝早いね」


「ん?あ、誠司おはよう」


 僕に向かって微笑む唯子。その笑顔とも今日でお別れと考えると少し胸が痛くなる。


「誠司もいつも朝は眠そうにしているのに今日は早いね」


「サニアさんに一ヶ月も規則正しく起こされれば早く起きるようになるさ」


「ふーん、サニアさんね・・・」


 唯子のテンションが 1下がった!

 地雷でも踏み抜いてしまったか・・・?


「今日・・・」


「ん?」


「今日の迷宮探索のことなんだけどね」


「ああ」


 なにかあるんだろうか?


「誠司が危なくなったら私が駆けつけるから、私が危なくなったら誠司が駆けつけてね」


「おいおい、魔法が使えない僕が駆けつけても焼け石に水だと思うぞ」


「それでもいいの。気持ちが大切だから」


「・・・分かったよ。唯子が危なくなったら絶対に駆けつける」


「ありがとう。私も誠司のピンチには駆けつけるね」


「唯子の魔法ならあっという間に敵が殲滅されそうだけどな・・・。そういえば唯子にこれ渡しておくよ」


 僕はポケットから緑の石が組み込まれたペンダントを渡した。


「これは・・・?」


「これは前王都の郊外に魔獣討伐に出かけた帰り道の露天商で譲ってもらったんだ」


「譲ってもらった?」


「うん、なんか変なばあさんでね。僕の目を見ると欲しいと思っていたこのペンダントを譲ってきたんだ」


 唯子はペンダントをじっくり見回している。


「特に呪いがかかってるわけでもない普通のペンダントだから大丈夫だよ」


「それでこれを私にくれるの?」


「うん、唯子に持っていて欲しいんだ」


「なんで私に?」


「唯子はそそっかしいからね。パワーストーンを使ってでも守ってもらおうかなと思って」


「そそっかしいってなによ!・・・でもありがとう」


「どういたしまして。さてじゃあ僕も顔を洗おうかな」


「私はもう洗い終わったし、朝食まで時間があるから部屋に戻ってるね」


「おう、じゃあな」


「じゃあね〜」






 ◇◆◇◆






 朝食を宿の食堂でとった後、あと少ししたら街の東門外で集合と前の晩に言い渡されたのことに従い東門外に集合する。

 皆鎧を着て剣や杖を装備している。元は普通の学生をやっていたのに遠くまできたものだ。

 全員揃ったのを確認するとマロウ兵士長が声を上げる。


「よし、これからクリシア迷宮へと向かう。全員この一ヶ月の訓練を思い出し冷静に魔物に対処するように」


 迷宮。

 この世界の迷宮とは魔力の吹き溜まりが具現化したものだといわれている。

 基本的に下へ向かう階段で下っていき、最深部には具現化の原因とされている魔力核(コア)が存在する。

 魔力核(コア)を破壊して1日を過ぎると迷宮は元々そこにはなにもなかったかのように一切の姿を消してしまうといわれている。

 実際は迷宮内に現れる魔物・魔獣の素材やお宝を求めに冒険者が集まり莫大な利益をもたらすため、発見しても破壊してはいけないというのが暗黙の了解となっている。

 魔力核(コア)に近ければ近いほど魔力濃度が高くなり、それと同時に魔物の質も高くなっていく。

 しかし、魔力濃度が高い場所に長時間いると気が狂ったり、魔力中毒になったりするため魔力核(コア)の近くへ好き好んで行く人はあまりいないという話だ。



 迷宮のおさらいをしながら徒歩で三十分。結構近い場所にあった。これ魔物が一斉に出てきたらどうすんのかね。

 一旦入り口付近で止まり、再びマロウ兵士長が声を上げる。


「これより迷宮へと入る。常に気を引き締め、周囲の警戒を怠るな。以上だ」


 そのまま整列して迷宮へ入っていく。はてさてどうなることやら。


 迷宮内部は薄暗いせいか不気味感がいっぱいだった。

 光源はないが壁や天井自体が薄暗く発光しているようだ。

 迷宮はどこもほとんどこんな感じらしく、この発光するメカニズムは今だ解明されていないとか。


 通路の幅は目測で4,5メートルくらい、天井までは3メートルくらいだった。

 大人数が通るには都合のいい広さだ。


 ある程度深く進むと燃えるような赤い毛並みを持つ犬のような魔獣が二匹出てきた。


「あれはレッドハウンドという魔獣だ。火属性の魔法を扱える。それじゃあ黒羽たちがまず戦ってみろ」


「分かりました。行ってきます」


 黒羽たちのグループは前衛と後衛がバランスよくいる結構強いグループだ。

 特に黒羽の武器は城で誰も抜くことができなかった剣を引っこ抜いて使っている。

 俗に言う”聖剣”というやつだ。

 光属性が付与(エンチャント)されており、魔の者に対して絶大な威力を誇る。

 まさに聖剣という名がふさわしい。

 名前はもう扱うものがいなくて久しいためか伝承にすら残っていなかった。


 黒羽達がレッドハウンドに向かって走り始める。


「せやぁ!」


 そのスピードに乗り黒羽はまだ様子見状態のレッドハウンドに向かって剣を振る。

 軽く横へ避けていくレッドハウンド。しかしその横には黒羽の友人である青島清吾(あおじませいご)が待ち構えていた。


「くらえ!」


 青島も剣をレッドハウンドへと振るう。

 レッドハウンドは持ち前の身軽さかギリギリ回避するが無理な体勢の回避のためか硬直してしまう。


「トドメだ!」


 黒羽の聖剣による連続攻撃でレッドハウンドは一気にその命を奪われた。


 他のやつらから牽制をされて身動きがとれなかった一匹のレッドハウンドはやられた相方を尻目にバックステップで後退する。

 そしてその口が赤く光り始めたと同時に火球が発射された。

 そこへ呪文が紡がれる。


「潤いの水よ、我が元で刃となり敵を切り刻め!”水刃(ウォーターブレード)!”」


 まっすぐに飛ぶ水の刃は火球を消し去りそのままレッドハウンドに直撃した。


「怯んでいる今のうちに片付けちゃって!」


 黒羽の幼馴染・・・確か一ノ瀬愛香(いちのせあいか)だっけ?が声を上げる。


 それを聞いた黒羽たちはそのまま反撃に注意して次々とレッドハウンドを切り刻んでいく。

 少々軽い反撃を貰ったが、レッドハウンド二匹はあっという間に殲滅された。


「黒羽達は連携がよく取れている。その調子でがんばってくれ。せっかくの聖剣も活用しなきゃただの棒だからな」


 そしておもむろにこちらを見るマロウ兵士長。


「次は別の奴らを出させるから覚悟しておけよ!」


「「はい!」」


 どうやらみんなさっきの戦闘を見て大分興奮している様子。

 大丈夫かなぁ・・・?



 探索から一時間くらいが過ぎた。

 以前に行った郊外での魔獣討伐での経験を生かしてチームワークをいかし、特に問題もなく魔物や魔獣を順調に討ち取っていった。


 少し歩くと少し大きい部屋へ出た。横面積は50m×50mくらいはありそうだ。

 マロウ兵士長と何人かの付き添い兵士は一旦周囲の確認をとった後、宣言した。

「それではここら辺に罠はないようなので一旦休憩とする。各自水分や休息を取るように」


 迷宮で一番怖いのは魔物ではなく罠だ。冷静に対処すれば倒せるものが多い魔物より、急に出てくる致死性の罠のほうがやっかいなのである。

 ここら辺には罠がないようだけど、さっきから編に魔力の違和感を感じる・・・迷宮は魔力の吹き溜まりだからそう感じるのだろうか?

 とりあえずみんなで座り込む。


「この調子じゃしばらくは楽勝だな」


 明人が調子良く言う。


「ちょっと、入る前にマロウさん言ってたじゃない。『常に気を引き締めて周囲の警戒を怠るな』って」


 和音が明人を咎める。


「でもこれだけ人数がいれば大体のことには対処できそうだし少しくらいなら・・・」


 明人に便乗する唯子。


「まあなんにせよ最低限の警戒は残しておけよ。ここは摩訶不思議な異世界なんだからな」


 最後に僕がそう締めくくり4人でしばらく談笑した。



「それではそろそろ出発とする」


 十分くらいしたらマロウ兵士長の声が上がり皆立ち上がる。

 特に魔物はこの部屋を襲ってはこなかった。


 点呼をし、全員いるかどうかを確認する。


「それでは出発と・・・」


 その言葉は最後まで紡がれなかった。


 部屋の出入り口から魔物・魔獣が有象無象のように湧き出したからだ。





お読みいただきありがとうございます。

ご感想、誤字・脱字・変な文章などの報告・指摘をお待ちしています。


ユニークPVが1000PVを達成しました。ありがとうございます。

相変わらず微妙な戦闘描写・・・要練習ですね。


次回、俗に言うモンスターハウスっぽいもの引っかかった勇者一行。だが誠司はこの混乱である案を思いつく。

次回も期待せずにお待ち下さい。

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