六話 一つの転機
猿山が僕を呼び出した夜から既に3週間が経過した。
あれから猿山は僕にも他の3人にも特に変わった接触はしなかった。
僕の一度許してからのガチガチの制約をかけるコンボが大分効いたようだね。
まああんな仕打ちを食らってさらに関わってくる奴がいたらそれはただのバカだと思うけど。
猿山にはフリとはいえ殺しかけて少し悪いと思っているけど、中途半端に脅し根に持たれてみんなに迷惑をかけるよりはマシだ。
現在は図書室で読書をしながらのんびりと過ごしている。
明日は1ヶ月の訓練の成果を試すため、ここ王都から少し離れた街の傍にある迷宮を探索しするために出発する予定だ。
この遠出は抜け出すのにいい機会だった。
なぜなら最近貴族が僕の噂を聞き、何回か接触してきたためそろそろ潮時かと思っていたためだ。
僕のせいで3人に迷惑をかけるのはあまりいただけない。
「うーっす。来たぜ」
そんな感じで考え事をしていると明人がやってきた。
ついでに後ろに唯子と和音もいた。
「あれ、今日は3人で来たの?」
「なによ?来ちゃ悪い?」
不服そうに和音が返す。
「いや、いつも1人ずつしか来ないから珍しいなと思って」
「明日は迷宮探索に出発する日だからみんなで魔法のおさらいに来たんだよ」
朗らかに言葉を返す唯子。
「そうか。ならどこからおさらいする?」
「まずはねぇ・・・」
「あら、今日は大所帯なのですね」
横を見るとサニアさんがお茶と焼き菓子を持ってきたところだった。
「あ、焼き菓子だね。おいしそ〜」
唯子がそう呟く。
そこからは魔法講習会という名のティータイムが帰るまで続いた
◇◆◇◆
「セイジさん、起きてください。今日は出発の日ですよ」
「・・・おはようございますサニアさん」
現在朝早く太陽が昇るか昇ってないかの瀬戸際あたり。
いつもより大分早い起床である。
サニアさんのおかげで寝起きは良くなった気がする。
どこぞの雷魔法で叩き起こす姉とは違い優しく起こしてくれるからな!
いつも通り顔を洗って、着替えて、3人と朝食を食べた。
それから少しするとマロウ兵士長が僕らを馬車へと案内してくれた。
「道中いくらか揺れるかもしれん。定員は大体10人前後と考えてくれ」
馬車は全部で7台あった。僕らは全員で42人だから残りはマロウ兵士長を含む兵士達と荷物のための馬車っていったところか。
「じゃあみんなそれぞれ10人前後のグループになるように班を組もう」
実質この集団のリーダーとなった黒羽はみんなを促す。
結果、僕らの馬車は僕を含むいつもの4人と、黒羽と黒羽の幼馴染やら黒羽の友人やら実質部下なやつらを集めた10人となった。
「それじゃあ出発するぞ。落とされないように気をつけろよ」
そこからは特に何事もなく城の裏側の門を使い出発した。
馬車が走り出して1時間くらい経った頃。
「古川、ちょっといいかい」
「ん?なにか用?」
馬車から見る風景をずっと眺めて暇を潰していた僕に黒羽が話しかけてきた。
「古川にはやる気があるのかどうかを問いたい」
「・・・ごめん、よく意味が分からないんだけど」
いきなりやる気があるのかどうかと聞かれてもなぁ。
「国王様から頼まれた魔王討伐に関してやる気があるのかと聞きたいんだ」
「そりゃあるに決まってんだろ。鍛錬もきちんと出てるし」
「はっきり言って俺は古川からやる気が感じられない」
随分とはっきりおっしゃいますな。
大体合ってるけど。
「そう言われても僕は僕なりに頑張っているつもりだけど。まあ魔法の訓練には出てないから努力してない風にとられても仕方ないけど」
「確かに古川は魔法が使えない。だけど使えない分をさらに剣の鍛錬に当ててさらに自分を磨くべきじゃないのか?それが魔法を使えない分の不利を埋めてくれるかもしれないのに。なのに古川は毎日剣の鍛錬が終わるといつも図書室に篭って部屋の侍女や君らとしゃべってばっかだそうじゃないか。他の人から聞いたよ」
唯子らを見て黒羽はそう言った。黒羽側の人らもうんうんとうなずいている。
「ちょっとそんな言い方はないじゃない!」
4人の中で一番気が強い和音が抗議をする。
僕はとりあえず和音を手で制する。
「別におしゃべりばかりしてるわけじゃないよ。魔法を知らないままじゃいけないと思って魔法について調べているだけさ。それに実戦や訓練以外で得れるものもある。僕は知識を唯子達に伝えてサポートしているんだよ」
嘘は言ってない。伝えているのは元々知っていた知識だけど。
「確かにそうかもしれない。でも魔法が使えない古川自身が魔法に詳しくなったところでなんの意味もないだろう。やっぱり鍛錬に打ち込むほうが自分を鍛えられるし効率もいいよ」
魔法を使ってくる相手である魔族に魔法を知らずに突っ込むのはただの自殺行為だと思うけどねぇ。
完全に自分を盲信しているからこれ以上は言うだけ無駄だな。
「・・・じゃあ城に帰ってからは剣の自主練習の時間を増やすよ」
「分かってもらえて嬉しいよ古川」
自分の忠告を聞いてもらえてご満悦の黒羽。まあ城に帰る予定はないんですけどね。
どこかと気まずい雰囲気の中馬車は進む。
◇◆◇◆
途中で何回か休憩を挟み、馬車が迷宮付近の街に着いたのは夕方頃だった。
事前に予約をしておいたらしい大きな宿で休み、次の日に迷宮に挑むこととなった。
ちなみにこの世界では風呂はほぼ金持ちの道楽か王宮、超高級宿ぐらいにしかない。
「ごちそうさま。マロウさんも休めって言ってたから僕も今日はさっさと休ませてもらうよ」
夕食は可もなく不可もなくと普通のものだった。
とりあえず部屋に戻って明日の脱走予定でも立てようかな。
「ちょっといい誠司?」
席を離れようとして僕は唯子に呼び止められた。
「なんだい唯子?」
「今朝の黒羽の話のことなんだけど・・・」
「ああ、僕は特に気にしていないから唯子達も気にしなくて大丈夫だよ」
実際黒羽の言うことは大半聞き流しているから問題ない。
「誠司のおかげで私達の魔法は上達したのにあんな言い方されたら気にしないわけにはいかないよ」
「そうだな。正直誠司が魔法を教えてくれなければここまで上達はしなかったな」
うなずく明人。
「コツも魔力の扱い方も教えてくれたのは誠司だしね」
こちらを見つめる和音。
「3人ともありがとう。そこまで感謝されると教えた側として嬉しいよ」
正直な気持ちをぶつける。やっぱりこの3人といると気が楽だ。
「黒羽のことは本当に気にしていないから大丈夫だよ。明日は迷宮探索がんばろうな」
「おう、お前も気合入れろよ」「危なくなったらすぐ助けるからね」「まあ死なない程度に頑張んなさい」
三者三様の答えが返ってくる。
手を振って僕は自分の部屋に戻る。
ではさっさと明日の脱走計画を立てようか。
3人はもう僕の手を借りなくても大体のことは大丈夫だろう。
魔法はまだ未熟な部分があるけどそこは経験でなんとかなるはずだ。
ぜひとも3人には幸せをつかんで欲しい。
たとえ僕がいなくなる結果になろうとも。
ベッドにもぐりこみ僕はそう思った。
お読みいただきありがとうございます。
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前の話を投稿して3日経ったと思ったら4日経っていた・・・
な、なにを言っているのか(ry
今回は割りと適当、というか凄い適当。あと2,3話くらいでやっと誠司君の一人旅編に突入する予定です。
次回、迷宮に突入することになった勇者一行、そこに待ち受ける者とは・・・?
投稿が遅れたたので次回は2日後の予定です。