四話 隠された実力
「えっ・・・?」
僕は大いに困惑した。
まだ微力な火属性魔法は待機状態のままだし、自分から放出する魔力も意識してある程度だけ抑えている。
なのに適正属性は検出されず魔力量も下級下位という最低ランクだ。
周囲は沈黙し、僕自身もあんまりな結果に言葉を紡げなかった。
そんな呆然としている僕にマロウ兵士長が声をかけた。
「残念だが魔力も最底辺で適正属性もない。君には魔法を使うことは難しいかもしれん」
「・・・そうですか」
僕はかろうじて言葉を返した。
「・・・それでは皆、元の席に戻ってくれ」
気を取り直すかのようにマロウ兵士長は声を上げみんなを席に戻らせる。
戻る途中、僕を哀れむような視線や見下した視線を受け取ったがとりあえず無視だ。
とりあえず冷静になろう。落ち着かなければ正常な思考もできやしない。
全員が席に着いたところでマロウ兵士長が声を上げた。
「ではこれから皆に能力魔力板を配りたいと思う。これは最初に魔力を通した者の能力を表示してくれる。魔力を持つ者なら必需品だ。これでまず自分の能力を把握して欲しい」
急にRPG染みてきたな。
そう思いながら部屋に待機していた兵士から回ってきたボードを受け取った。
見た目は青のプラスチック板だが、触っているのに手は触った感覚がなかった。変な感じ。
「とりあえず握ったりすれば自分の魔力が流れて適正属性の色に変化していく。全体の色が染まり自分の名前が出れば完成だ。基本は名前しか表示されないが、念じれば他の項目を浮かび上がらせられることができるぞ」
うーん、適正属性がないと判断されたからか僕は青が少し濃くなるだけっぽいな。
それにしても適正属性で色が変わるってことはもしかしてコレ、魔力の塊か?
「この能力魔力板は魔力の塊で出来ているので、自分のものにした後は自由に消したり出したりできる」
そう言いながらマロウ兵士長は自分のボードで出したり消したりと実演して見せた。
これは凄い。実質体の中に収納できるのと同義だ。
あっと、どうやら僕のは完成したようだな。
色が濃く染まり名前が浮かび上がる。周囲の人はまだ完成してないようだ。
こんなハイスピートで完成したということは魔力量は前のままだよな?魔力もそんな減った感じないし。
・・・とりあえず見てみよう。
☆★☆★
名前:古川 誠司
性別:男
魔力量:下級下位(上級上位)
適正属性:なし(火、水、風、雷、土、光、闇)
スキル:剣技、鍛冶、裁縫、料理(魔法、解析、能力隠蔽、Q?e]!Jd&2@z%H)
加護:転移者への祝福
称号:異界からの勇者
☆★☆★
レベルとかHPとか表示されたらどうしようとか考えていたが別にそんな心配はいらなかった。
それにしてもこの括弧表示は一体・・・?
まあどう見てもこの能力隠蔽が原因っぽいけど。
一体どんな能力なんだ?とか考えて能力隠蔽の文字も注視すると説明が頭の中に浮かび上がってきた。
△▼△▼
能力隠蔽
所有者が隠したいと思った自身の能力を隠蔽する。
この能力は常に能力魔力板表示されない。
隠されている事項及びこのスキルを発見できるのは同じ能力隠蔽を持ったものだけである。
▲▽▲▽
説明が出るなんてまるでゲームの世界のようだ・・・じゃなくて!
なんだこの能力!?もしやさっきの計測の原因はコイツか!
確かに本来の魔力量と使える属性を隠そうとはしたけど誰がここまでやれと言った。
このスキルを知らせようにも説明通りなら同じスキルを持ったやつにしかこのスキルは分からないみたいだ。
これで必死に伝えても、さっきの計測があったばかりなのに現実を受け止められなくて喚きだした頭がアレな子と思われてしまう。
流石にそんなのは御免だ。
状況整理のためもう一度ボードを見直す
表示される魔力量は相変わらず下級下位のままだ。括弧の部分は自分だけに見えているらしい。
適正属性もなしのまま。括弧内は全属性を扱えるのを表してますけどね。
父親の古川孝明は「万能を目指してこそ一流」などという教育方針を受けたため、全属性を万遍なく訓練してきた。
表示されている属性の他にも氷属性なども扱えるが、表示される適正属性はあくまでこの世界での区分された魔法だけっぽい。
次はスキルだ。
剣技。これは剣の才能を付与してくれるとかそんな感じかな?
鍛冶、裁縫、料理は・・・あれだけ家族のためにいろいろやってきたからスキルになってもおかしくはないだろうということか?
晶子姉さえしっかりしてればあんなに苦労しなかったと考えるとあんまり嬉しくない。
隠蔽されているこの解析は読んでそのまま対象を解析するスキルだろう。
スキルの説明とかが頭に思い浮かんだのは多分このスキルのおかげか?こんな便利そうなスキルがばれたらこき使われそうなのでこのまま隠し通すか。今後もお世話になりそうだ。
最後は・・・なんか文字化けしてるし放っておこう。意味不明なものは放っておくに限る。
加護とか称号はとりあえず説明待ちかな。
とりあえず自分を取り巻く状況を確認できたので周囲を見回してみる。
既に大半の人はボードを完成させたらしく、みんなステータスを確認したり、ボードを出したり消したりして興奮している。
ふと隣の唯子を見てみると、まだボードの2割方くらいが青いままだった。
「唯子、まだボード完成させてなかったの?」
「ふぇっ?誠司はもう完成したの?」
しまった!魔力量が少ないのに早めに完成したと知られれば怪しまれて色々説明が面倒なことになってしまう!
「と、途中でコツをつかんだからあっという間に終わったよ」
とりあえず適当に誤魔化す。元々魔力が扱えましたなんて口が裂けても言えない。
「へぇ〜。コツってどんなの?」
「とりあえず僕はは手のひらから魔力を発射する感じをイメージしたら流し込む魔力量が増えたんだ」
とりあえずイメージしやすいように説明する。
「こうかな?えいっ!」
コツを教えたら残りが少なかったのもあるが、一瞬で埋まってしまった。恐るべし適応力と魔力量。
「やった出来た!綺麗だね!」
確かに五属性適正の唯子が持つボードの色は光を透かしたステンドグラスのように綺麗だった。
「おお、確かに綺麗だな。その調子で魔法を覚えるのも頑張れよ」
「うん・・・」
魔法の下りを言ったらみるみる唯子のテンションが下がってしまった。
どういうことなの・・・。
すると唯子が口を開いた。
「誠司は強いね。ついさっきあんなことがあったのに」
どうやらさっきの落ちこぼれ事件(自分命名)を気にしてくれているようだ。
「気にしていない訳じゃないよ。ただ過ぎ去ったことを気にしてもしょうがないだろ?」
これは嘘偽りない僕の心からの本心だ。魔法自体は普通に使えるし。
「そりゃそうだけど、もし危険な目にあったら・・・」
それでも唯子は気になるようだ。
「スキルを見る限り、剣は扱えるみたいだからそれなりには頑張れるよ。魔法が使えない分は勉強したりして知識でカバーしようと思ってるし」
実際本を読んだり情報を収集することは好きだ。
「そっか・・・。誠司がそこまで言うなら私、信じてみるよ」
「ああ、魔法が使えなくたってきっと大丈夫さ」
「本当に大丈夫かしらね〜?」
突然会話に割って入ってきたのは和音だった。
「誠司はたまに抜けてるところがあるからね」
心当たりがありすぎて怖い!
「そうだそうだ!だが安心しろ。この俺様がいる限りは誠司に敵の指一本触れさせやしないぜ!」
暑苦しく語る明人。
「防御役としては唯子と和音の魔法の方が活躍しそうだけどな」
「ンなぁに〜!」
そんなことを話し合い、時間は過ぎて行く。
その後、加護と称号の説明があった。
どうやらこの世界には神が実在するらしく、加護と称号はその神が決めて与えているらしい。
現代人には誠に信じられない話である。
それでボードの説明は終わり、明日からの訓練の日程を告げられ解散となった。
一応魔法が扱えないということになっている僕は、魔法訓練の時間図書室に篭る許可を貰った。
城に図書室があることは既にサニアさんから聞いていたのだ。
明日から異世界の本が読めるとなると心が弾む。
だが魔力ほぼない扱いのため城の視線が厳しくなるかもしれない。
そこだけは注意しておかねば。なんかちょっかいかけられても困るし。
部屋に戻り、なんやかんやで夕食まで4人+サニアさんで遊んだ。
夕食の後はあっという間に眠くなったので、寝る前の身支度をさっさと整える。
落ちこぼれ事件があったから仕方ないね。
城の図書室に心を躍らせつつ、誠司はゆっくりと眠りについた。
お読みいただきありがとうございます。
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次回で誠司が大きな決断をすると言ったな。あれは嘘だ。
ノリで書いて、丁度いいところで終わらせたらそこまで進まなかった。非力私許
ボードの設定は自前でパッと思いつきました。結構自分では気に入っています。
次回、演習場と図書室と部屋をいったりきたりする生活を始めた誠司。だが魔力量最底辺という偏見はすさまじいもので、誠司は貴族と一部クラスメイトの嫌がらせやイヤミに辟易し始める。そんな生活が1週間続き、疲れ始めた誠司はある計画を立てる。
次回は予告詐欺にならないようにがんばります。(汗)