三話 勇者としての能力
「セイジ様、起きて下さい。ご友人で尋ねてきてらっしゃいますよ」
「・・・起きる」
いつもとは違う声を聞き、そういえばここは異世界で、部屋に1人は侍女がついていることを思いだし急いで起き上がる。
朝がキツイ低血圧な僕には珍しいことだ。
「起こしてくれてありがとうございます。えーっと・・・」
「そういえば昨日セイジ様はすぐに就寝なされてしまったので名前を言ってませんでしたね。私はサニア。サニア・フォン・サントールと申します。
セイジ様の部屋を担当するので以後よろしくお願いいたします」
茶髪の髪を揺らしながら一礼し、自己紹介された。背はさほど僕らの年代と変わらないようだから年も近いかもしれない。
名前にフォンがつくということはきっと貴族なのだろう。確かフォンはフランス語で、英語の of に該当する単語だった・・・はず。
この場合はサントール家のサニアということになる。
服は某電気街のようなミニスカで露出が高いエセメイド服ではなく、きちんと実用性のあるメイド服を着用していた。
・・・個人的にこの世界への評価が少し上がった。
「ああ、よろしくサニアさん。っと誰か尋ねてきてるんだっけ?」
「はい。アキヒト様とユイコ様とカズネ様が尋ねてきてます」
「分かった。では準備をしよう」
その後、服を着させられるか自分で着るかなどで一悶着あったが割愛。
「よし、じゃあ行ってくるよ」
「いってらっしゃいませ。セイジ様」
ちょっと出てくるだけからそんな深々と礼をしなくてもいいのにと思ったが、それを口に出すのは無粋というものだろう。
そう思いつつ客室の扉から出た。
扉から出ると知らされていた通りいつもの3人がいた。
「ほわ~、みんなおはよう。こんな朝っぱらからどうかしたの?」
欠伸をこらえつつ質問をする。
「こんな知らない場所へいきなり飛ばされたっていうのにあんたは呑気でいいわね・・・」
いきなりイヤミを和音に言われた。よく見ると目元にうっすらと隈ができていた。きっと眠れなかったのだろう。
「まあこんないままでの常識が通用しなさそうな場所で悶々と悩んでも仕方ないだろ」
実は魔法の使い方とか既にいろいろ知ってるけどね。
「・・・まあそれはそうね」
がっくりうなだれる和音。いちいちオーバーなやつだな。
「誠司には朝食のお誘いをしにきたんだけどまだ食べてないよね?」
唯子が話す。
なるほど、だから4人とも僕の部屋に来たのか。
「さっきまで寝てたからまだ食べてはないな」
「そんなことだろうと思ってたぜ。他の連中はほとんど起きてたぞ」
明人はさっきまで寝てた僕を茶化し始めた。
「僕のマイペースっぷりは他の追随を許さないからね。じゃあさっさと行こうよ」
「みんな元気があっていいわね・・・」
朗らかな明人、嬉しそうな唯子、半ば呆れている和音を連れて僕らは食堂へ向かった。
◇◆◇◆
食堂に着くと、食堂はほぼ僕ら異世界人しか残っていなかった。
騎士とかそのへんの人は朝が早いからさっさと食べていってしまったのだろう。
4人で話し合いをしながら朝食をとる。
今後はどうなるのかなどの話をしたが、まずは国王が言っていた勇者としての能力がどれほどなのかを見てからでも遅くはないと3人にフォローしておいた。
特に和音は少し深刻そうだったので心配だった。明人も唯子も表面上は普通だったがきっと内心不安がっていると思うし。
やや暗い朝食を終え僕は部屋に戻ろうとしたが、唯子が僕の部屋でしばらく遊ぶと言い出し、明人と和音もそれに釣られてなし崩し的に僕の部屋に転がり込んだ。
なんかいい遊びはないかと考えると、僕は転移される時咄嗟にとった鞄を手繰り寄せ、中から折りたたみ式双六を取り出した。
なんでそんなものが通学に使う鞄に入っているんだとみんなに呆れられたが、小さいので前に使った時から入れっぱなしで忘れていたと適当にごまかしておいた。
実を言うとこの鞄、魔法で空間が捻じ曲がっており、家の地下室丸々の容量と鞄の容量が入れ替わっている。しかし重さは元の鞄のままで、かつ教室1つ分の収納量を誇る便利鞄だ。
ついでに防腐・消臭・清潔の魔法が内部に組み込まれているため、ナマモノをそのまま突っ込んでもしばらくは持つ。
僕は適当なものを片っ端からここに突っ込んでしまうため、双六も前に入れておいたのを思い出し適当に引っ張り出したら出てきた。
この物の容量を交換する魔法は、現代の魔法使い達がなにか事件などをやらかさないように見張っている魔法協会に申請し許可を貰わないと使えない。
他にも空に浮く魔法や転移魔法、その他犯罪にフル活用できそうな魔法は片っ端から申請しないと練習すらできない。
ある程度の手柄を上げたりすればいちいち使用許可の申請などしなくても済む許可証をもらえる。
僕を含め大半の魔法使いは転移などの便利な魔法は覚えている。元の世界では申請が面倒だからほぼ使うことはなかったけどね。
そんなこんなで昼食を食べに行くまで4人で仲良く双六で遊んだ。遊んでいるとサニアさんの熱い視線を受けたので、後半はサニアさんも加えてゆっくり遊んだ。
昼食の頃には3人ともすっかり以前の元気を取り戻したようで少し安心した。
昼食後、3人はそれぞれ考えることがあるようで僕の部屋の前で別れた。
同じような構造が続くため気を抜くと迷いそうだなと思いつつ部屋の扉を開ける。
「お帰りなさいませセイジ様。兵士長殿から言伝を預かっています」
本日二回目のお帰りなさいませを聞きつつ、兵士長の言伝という言葉に僕は少し反応する。
「兵士長がわざわざここまで言伝に来たんですか?」
「はい。この王国軍の兵士長であるマロウ様は武功を上げ実力で兵士長になったお方なのです。性格も気さくで城での人望もあります。今回はきっと自分が面倒を見る勇者様方に人を挟んで言伝などとんでもないというふうに思ってらっしゃるのだと思います」
「なかなかの人格者なんですね。僕らの世界にはなかなかそういう人はいなかったなぁ。その人に戦い方を教わるのなら安心ですね。それでその言伝とは?」
「あと1時間もしたら勇者様方の能力を測定するので各自迎えが来るまでなるべく部屋に待機していただきたいとのことでした」
「分かりました。僕はしばらくのんびりしてるからサニアさんは下がってて大丈夫ですよ」
「ではお言葉に甘えて。ご用件がありましたらお呼び下さい」
そう言ってサニアさんは部屋に備え付けられている侍女用の部屋に入っていった。朝から色々付き合わせちゃったからそのお詫びに休憩を促したのだ。
聞き入れてくれてよかった。言わなきゃ傍にずっといそうだったし。
それからとりあえず僕は異世界で役に立ちそうな物を鞄の中から物色し始めた。
◇◆◇◆
鞄の中身を整理していたらあまりの量に少し辟易し始め疲れてきた頃、急に部屋の扉からノック音が響いた。
どうやら時間が来たようなので急いで出したものを片付ける。僕が実は魔法使いでそこそこの実力を持っているなんてバレたら最前線で戦わされかねない。
それだけはカンベンして欲しい、面倒だから。
部屋の来客は侍女が対応するらしいので最初はとりあえずサニアさんにまかせる。
案の定兵士長のマロウ氏がやってきたらしいのでサニアさんに見送られながら僕らは兵士達に連れられ城を進んだ。
たどり着いた場所は学校の教室のような机と椅子が並ぶ開けた空間だった。
なんか薄暗くて中央に水晶玉が置いてある部屋で水晶玉に手をかざして能力を調べる・・・みたいのを想定していたのになぁ。現実は非常である。
と、みんな座ったところで教卓っぽいところに30代後半くらいの男性が話し始めた。
「こんにちは勇者様方。私は王国軍の兵士長であるマロウといいます。
陛下からご指名で僭越ながら、これから私が勇者様方に戦い方を教えることとなりました」
まあ暴力的な人ではなさそうだ。年下である僕達に対しての話し方や態度は丁寧だし。
「とりあえず勇者様方に魔力適正があるかどうか検査したいと思います。皆さんがいた世界は魔法がない世界と聞きましたが、勇者である皆さんならきっと相応の魔力を持っているはずです。並んでこちらの水晶玉の上に手を触れてください。触れればどれくらいの魔力を持っているのかということと、一番適正のある属性が分かります。一応適正属性となった以外の魔法も使えますが、使い勝手が段違いなので適正属性を重点に訓練を積むのをお勧めします」
つまり適正属性となった以外の属性は実質捨てたも同然の扱いで訓練をするみたいだな。
クラスメイトの連中は十中八九魔法が使える可能性があると知って浮かれているが、ここで適正がないやつが出たら悲惨そのものだよなぁ・・・。大丈夫なんだろうか。
興奮の抑えられないクラスメイト達がやっと並び適正測定が始まった。
トップバッターはもちろん黒羽だ。
無言で水晶玉に触れる黒羽。多分緊張しているのだろう。
黒羽が触れるとその水晶玉の中心にモヤモヤとした煙のようなものが大量にたちこめ、カラフルな光を放った。
「さ、最初から凄いのが出たな・・・。魔力量は上級中位、適正属性は火水風雷土光の六属性適正だ」
マロウ兵士長が若干顔を引き攣らせながら説明をし黒羽を見た。
あの性格と適正属性の多さからまるで御伽噺の勇者そのものみたいだな。
それから列は進み、通過者は全員魔力適正持ちで最低でも中級中位ほどの魔力量を誇っていた。
属性は赤の火属性、青の水属性、緑の風属性、黄の雷属性、橙の土属性、光の光属性などが出ていた。
さすがにほぼ魔族専用となる闇属性は出ないか。
この世界の魔法属性分類は火、水、風、雷、土、光、闇の七属性みたいな感じかな。
光属性はほぼ人にしか適正報告がない属性で、反対に魔族に適正者が多い闇属性はほぼ人に適正報告がないらしい。
黒羽のように二属性持ちや三属性適正などの複数適正属性持ちも何人かいた。
現代には氷属性とか陰陽五行に則って木属性とか金属性などもあったがこっちにはそのような概念はないっぽい。
聞こえてくる話によれば、転移などの属性を伴わない魔法は無属性というのは共通だった。
現代の魔法使いとして異世界魔法の考察をしていると、最後尾にいた僕達4人の順番が来た。
まずは明人だ。
「よし!」
軽く気合を入れて水晶玉に手を触れる明人。
水晶玉にはそれなりの煙が集まり赤い色を放った。
「魔力は中級上位の火属性だな。適正十分ありと判断する」
「ヨッシャ!」
嬉しそうにガッツポーズをする明人は本当に嬉しそうだった。
まあほとんどの人は魔法に憧れるものだから至極当然な反応といえる。
「次はアタシね」
次は和音が手を触れる。
水晶玉には結構な量の煙が集まり青色と橙色の光を放つ。
「3人目の三属性適正まで現れるとはなぁ、末恐ろしい集団だよ。適正属性は水、雷、土、魔力は上級下位だな」
「やったぁ!」
これまた嬉しそうに笑う和音。朝の様子はどこへやらって感じだ。
「次は私だね」
唯子が水晶玉に触れようとするがその手が震えていることに気がついた。もし自分に適正がなかったら?と思い不安がっているのだろう。
「大丈夫だよ。他の皆も適正持ってる人ばっかりだから唯子だけ適正なしだなんてありえないよ」
「誠司・・・。うん分かった、ありがとう」
僕の言葉で決心がついたようで意を決し水晶玉に手を触れる
魔力は和音と同じぐらい。だがこの色はもしや・・・
「これは・・・」
「えっ?どうかしたんですか?」
マロウ兵士長の顔を見て少し涙目になりながらオロオロしている唯子。マロウ兵士長が驚くのも無理はない。なぜなら唯子は・・・。
「魔力量上級中位で火水風雷光の五属性適正だ。黒羽に続く大物だぞ」
唯子はクラスで黒羽に次ぐ属性適正を持つ五属性適正だった。
そう説明するマロウ兵士長は規格外の連続ではだいぶやつれてきたように見えた。
「黒羽の六属性適正もそうだが、五属性適正も御伽噺のように伝説の存在並の力を持っているからぜひともがんばってくれ」
「本当ですか!私がんばります!」
嬉しすぎて今にも泣き出しそうにしている唯子。それにも御伽噺や伝説級ってのはすごいなぁ。
「で、最後に僕か」
唯子が横に動くと、列の一番最後である僕が水晶玉を見つめた。
現代では特に魔力量を測っただけで適正属性測定はやらなかったのを思い出す。基本的に犯罪や問題を起こさなければほぼ自由な感じだったため、そこらへんは適当だったのだ。
自分の魔力感知能力が確かなら、あの水晶玉は人体が発する微弱な魔力を感知してその漏れ出る魔力量から全体の量を逆算していると思われる。適正属性はそのまま魔力の質から読み取っているのだろう。
上級中位の人から感じる魔力と自分の魔力をを比較すると、僕の魔力量は上級上位となる。このままでは上級上位魔力をの量を持つ勇者として異世界人からもクラスメイト達からも盛大に目立ってしまう。
それが発覚すればどうせ最前線に送られるのは目に見えているので少し細工をさせてもらうことにした。
一応僕はこれでも魔法使いの端くれだ。自身の魔力コントロールは魔法使いにとって基本なのでそれくらいはできる。
微弱な火属性魔法を発動待機状態で展開し、体から放出する魔力量もだいぶ制限した。これで待機中の火属性魔法から検知されるであろう属性は火属性、魔力量も中級中位~上位くらいでとどまるだろう。
自分の実力を隠すのを悪いとは思っていない。全ては波風の立たない異世界ライフのために・・・。
「よいしょっと」
最後ということでクラスの皆が僕に視線を集中させる中、手を水晶玉に乗せる。これで放出された僕の魔力の質は最もメジャーな火属性適正で、魔力量も中級中位から上位あたりを示すはず。
「・・・ん?」
水晶玉に手を乗せて5秒経ったがちょっとしか煙の変化が起こらない。
自分の魔力制限などはきちんと作用しているのに一体どういうことだろう?なんかやっちまったか?
10秒してもそれから水晶玉に変化がないのを見ると、マウロ兵士長から残念そうな顔で無慈悲な言葉が紡がれた。
「君の魔力量は下級下位、属性適正なしのほぼ無能力者だ」
現代の魔法使いが異世界で無能と判断された瞬間だった。
お読みいただきありがとうございます。
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魔法説明回。魔力量は下から魔力なし(無能力者)、下級下位、下級中位、下級上位、中級下位・・・という風に続いていきます。気が向いたら具体的な数値を考えるかも。
魔力があっても今回誠司が判断されたように属性適性なしという場合もあります。
魔法の属性は陰陽五行をベースにいろいろ抜いたり加えたりして適当に考えたため、実は理由があってこの七つを選んだとかそういう深い意味はありません。
誠司を最下級レベルの魔力量にするならいっそ魔力なしでいいじゃんと思われる方がいるかもしれませんが、魔力なしにしなかった理由は次回で分かります(多分)。
次回、魔法が使えるのにほぼ無能力者にされてしまった誠司、いろんな人から嘲笑や蔑みの視線を受け面倒になってきた誠司はある決断をする。
次回も期待せずお待ち下さい。