二話 日常との別れ
「うーん・・・」
気がついたら床に倒れ伏していた。
起き上がり周りを見渡すと、クラスメイト達が倒れていた。既に何人かは起き上がっているが分けも分からずに呆然としていたり、他の人を起こしたりしている。
「えーっと、確か6時限目が終わって帰ろうとしたら急に床が光り始めて・・・気がついたらここってことか」
あの時床に展開された魔方陣の形式から見て転移型にほぼ間違いないとして・・・ここはどこだろう?
そういえば周りを確認していなかったと思い周囲を見渡す。
部屋は基本石でできており薄暗かった。僕らがいる床には豪華な赤いカーペットが奥へまっすぐ伸びていた。普通に考えればこの先に扉があるんだろう。
ふと床を見ると魔法陣が描かれていた。
今回コイツに強制転移させられたってところにいろいろ含むところがあるがとりあえずあの3人の安否でも確認しよう。
唯子はすぐ目の前に倒れていた。まあ飛ばされる瞬間近くにいたからあたりまえっちゃあたりまえか。
とりあえず起こしてみよう。
「おーい唯子、起きろ~」
軽く肩を叩きながら呼びかけてみる。何回か呼びかけると目を覚ましてくれた。
「うーにゃ・・・。ハッ!おはよう誠司。なんで私誠司の傍で寝込んでるの?まさか一緒のベッドで・・・」
「なに馬鹿なこと考えてるんだ。そんな妄想を爆発させてる暇があったら周りを確認してみろよ」
唯子が妄想を暴走させるのはよくあることだったので華麗にスルーする。
「石造りの部屋・・・教会かな?ついに私も結婚・・・」
「もう少し冷静になれー!」
そんなギャグ問答をしばらく続けていたらクラス全員が目を覚ました。
明人と和音も他の人に起こしてもらったようだ。
とりあえず全員の安否が確認されすることがなくなったためか、クラスメイトの大多数がこの後どうなるのかと不安になりざわめき始めた。
しかしここはどこなんだろう。大規模な転移魔法で連れてこられるような場所筆頭といえば・・・。
そこまで考えた時、唐突に扉が開き10人くらいの集団が部屋に入ってきた。
その集団はどんどんこちらへ近づき、だいぶ近づいたところでその様子が確認できた。
先頭は地味すぎないかつ派手すぎないドレスを着た女性でその他の人は甲冑を着た騎士のようだった。
女性の顔はほぼ全ての人が美しいと評すると思われるレベルの整った顔をしていおり、髪も長くブロンドの美しい色をしていた。
瞳の色は水色で、背丈は唯子と同じくらいかな。
その容姿にほとんどの男子はだらしなく鼻の下を伸ばし、女子はそれを白い目で見ていた。
そして僕らの目の前で止まり深く一礼した。そしてついにその口を開く。
「私はキリアルア・ランド・サグストグと申します。ここ、サグストグ国の第二王女です」
どうやらここはサグストグ王国でこの前の人は第二王女様らしい。当たり前だが聞いたことのない国だな。
そして王女の口から衝撃言葉が紡がれる。
「勇者様方。どうかこの世界をお救いください」
その言葉に皆ポカーンとした顔でフリーズしてしう。そりゃそうだ、誰も出会い頭で勇者様とか言われれば混乱する決まっている。
僕はなんか転移陣を見たときからこんなこになりそうだなぁとか思ってたためそんなにダメージはなかった。
みんなが呆然とする中、1人の猛者が動いた。
「ご丁寧にどうもありがとうございます。私は黒羽一輝といいます」
彼女の前で一礼し、口を開いたのはクラスの男委員長である黒羽一輝だった。
和音の上をいく堅物で品行方正オブ品行方正な正義漢。ついでに顔もイケメン。
テストでは学年上位に入りサッカーではレギュラー入りは確実と言われるほどのハイスッペクイケメンである。
と、ここまで聞けば彼が普通の好青年だと思われるが彼には大きな欠点があった。
思い込みが酷しいという欠点だ。自分を過信しすぎているが故に自分で思い込んだことは決して曲げようとせず、他人の心理を自己解釈で考えている。
その上困ってる人は放っておけないというほどのお節介でそこに純粋な善意が入り込むからタチが悪いったらありゃしない。
俗に言うありがた迷惑・・・それを通り越してウザ迷惑まで発展する事例もいくつか見たことがあるけど彼は迷惑になってるのを気づきもしない。
性格は悪くないけどご都合で物事を考えるやつ、というのが僕の評価だ。
「2つほど聞きたいことがあるのですがいいでしょうか」
「ええ、いいですよ」
「1つ目はここはどこかということ。もう1つは世界を救うとはどういうことなのかということです」
僕もここがどこなのかは気になっていた。だが王女の”この世界”という言葉を考えるとここは・・・。
「とりあえず1つ目の質問にはお答えしましょう。・・・ここはあなた方達が住んでいた世界とは別の世界です。召喚魔法によってあなた方をこちらの世界に引き込みました」
やっぱり異世界に召喚されたパターンか・・・。僕は1人納得する。
「異世界・・・?それにこの世界には魔法があるのですか?」
異世界ということにほとんどの人が混乱しつつ、黒羽を含め何人かが魔法という単語に反応した。
「勇者様方の世界には魔法はなかったのですか?」
王女も軽く驚いたような反応をする。
そういえば僕にとって魔法は10歳以来身近にあったものだけどみんなは違うんだっけ。
10歳の誕生日の夜、両親から自分は魔法使いの素質があると聞かされた時は大層興奮したのを覚えている。
それから魔法を人知れずに修行しここまでやってきた。
その間、変な奴らと知り合ったりもしたけど・・・。
僕らの世界に魔法がない(実はあるけど)ことを知ると王女様は少し考え込んだようだが、騎士が王女に話しかけるとうっかりしてたという風に話し始めた。
「これから謁見の間へ行き国王陛下・・・私の父と対談していただきます。2つ目の質問もそこでお話いたします。みなさん歩けますか?」
「みんななら大丈夫ですよ。私のクラスメイトにそんな軟弱なやつはいません!」
なんだその超理論は。みんなの返事を聞かずにそんなことを答えるのはどうかと思うが・・・。
「では騎士をつけて歩きますがくれぐれも離れないようにお願いします」
そう釘を刺して王女を先頭にみんなで歩き始めた。
◇◆◇◆
5分くらい歩くとなにやらでかい扉が現れた。おそらくこの馬鹿でかい扉が謁見の間の扉なんだろう。
謁見の間のでかい扉と考えると某最後の幻想で夢の国なゲームを思い出すな・・・。
そんなことを考えていると扉が開き、皆で中へ進む。
中はの様子は豪華絢爛という表現がピッタリな光景だった。
床は高級そうな絨毯で覆われ、壁は国旗らしきものや剣、盾などがが飾られ、天井にはシャンデリアが輝いていた。
まさに贅の限りを尽くすとはこのことのようだ。
王の前までくると兵士に混じって左右に人が広がって立っているいるのが分かった。
多分、武官か文官か貴族あたりだろうと予想する。
どの人も、もれなくこちらを値踏みするような目で睨んでくる。まあ世界を救うために僕らを呼んだから値踏みをするのはあたりまえかと納得する。
そして一旦皆が落ち着いたのを見て国王が口を開いた。
「異世界の勇者方、ご苦労であった。私はアルムール・ランド・サスクトグ。サスクトグ王国の王をやっておる」
皆黙って国王の言葉を聞いている。
「この度は勇者方をこちらの勝手な都合で呼び出して非常に申し訳ないと思っておる。しかし他の世界の者の力が必要なほどわが国は疲弊しておるのだ」
少し目を伏せて悲しそうに国王は言う。
「さしあたって、勇者方にはこの世界を救って欲しい」
世界を救って欲しい。またその台詞か。
そう考えると誰かの手が上がった。考えるまでもなく黒羽だろう。
「1つ質問をしてもよろしいですか?」
「貴様、王の前でなんて無礼な!」
黒羽が質問をしようとすると話に割って入ったことに兵士が腹を立てたようだ。
「よい、それで質問とは?」
「はい、先ほどもキリアルア王女様から世界を救ってほしいとお聞きしましたが具体的にはなにをするのですか?」
僕も疑問に思っていた。まあ異世界という現代日本から正反対な場所に呼ばれた時点で大体察しはつくが。
「ふむ、まだ話していなかったな。勇者方には魔族を統べる魔族の王、魔王を倒してもらいたいと思っておる」
やはり魔王か。異世界、勇者、魔法、と絡んできたら当然そうなるよなぁ・・・。
「魔王・・・ですか・・・」
「現在魔王はここから遠く離れた大陸であるイグリマ大陸に拠点を構えておる。そこを中心に周囲の国々を襲い始めたのだ。魔法が一番発達していると言われている我が国も魔王軍に応戦したのだがこちらが押され気味なのが現状だ」
困惑する黒羽。こればっかりは同情する。
僕を除くクラスメイトはさっきまで一般人で、魔法やファンタジーは空想上のものとしか考えられていなかったから。
「距離が離れているためここまではそう容易くこれぬだろうが、このままではやつらが攻め込み我が国が危険にさらされてしまう。それだけは避けなくてはならない」
「失礼ですが私達はさっきまで学校に通う普通の学生だったのです。そんな私達に国が助けが必要なほどの強大な魔王を打ち倒せるとは思えないのですが・・・」
「お主の心配も最もだな。しかし安心せい。お主らを呼んだ転移魔法は魔力の素質がある集団を自動で選び、
そして世界を渡る際さらに力を与えてくれるという伝承に伝わる強大な魔法なのだ。よってお主らには魔王も倒すほどの力を確実に身につけておるはず。
実感はないかもしれんがな」
皆は信じられないという顔をしてざわめきだす。
しかしまた兵士達が怒り出しそうな顔になったためすぐに静まった。
「本当に私達にそのような力が?」
「その力の内容は明日に行われる能力検査で明らかになるであろう。聞くがお主らは全員で何人おるのか?」
「42人です」
「ふむ、そのくらいいれば魔王はきっと打倒できるじゃろう。伝承に出る勇者ほどの力を持つであろうお主たちならな。この世界に住む者たちのために頑張ってはくれぬか?」
その一言と雰囲気で黒羽は完全に飲まれてしまったようで、やる気に満ちた声でクラスメイトたちに声をかけた。
「みんな!この世界の人たちが困っているんだ。助けてあげようじゃないか!」
黒羽の言葉でクラスメイトたちもすっかりその気になり「おう!」とか「やってやるぜ!」とかの声も聞こえた。
「国王様。私達はその魔王討伐の件を受けたいと思います!」
「おお!受けてくれるか!」
僕とかはまったくその気がないのに満場一致のような感じで王に承諾してしまった。
国王の周囲の人たちは黒羽が承諾したおかげかほっとしたような表情を作っている。
僕は勝手に呼ばれて敵を倒してくれだなんていう身勝手で責任を放り投げられるようなことは御免なんだけどなぁ・・・。面倒くさいし。
でも大多数派のがいる中での少数派が待つ先は弾圧や非難の嵐だ。ここは従うフリでもして適当に過ごそう。
そういえば肝心のアレの話をしてないよね。異世界モノで一番重要になるアレだ。誰も気がついていないのか、それとも聞いて不可能と知ることが怖いのか。
まあ念のため一応指摘してみるか。
「すいません。1つだけ伺いたいことがあるのですが」
そう国王を見つめながら僕は言った。
兵士達はまたもや顔を真っ赤にして今にも怒鳴りそうだったが、国王に2度も咎められる勇気はないのか黙ってこちらを睨んでいた。
「おい、古川。今は俺が国王様と話していたところだったんだが」
咎めるような視線でこっちを睨む黒羽。
おいおい、ちょっとくらいいいじゃないか。
「まあちょっとだけだから。国王様1つ質問したいのですがよろしいですか?」
「よいぞ」
不満そうな黒羽の視線を振り払いなんとか質問に漕ぎ着ける。
「もし、仮に私達が魔王を倒せたとして・・・私達が元の世界に帰れるという保障はありますか?」
そう言い放ったってやった。さっきまで浮かれた顔をしていたクラスメイトたちも僕の言葉を聞き、しんと静まり返る。
「・・・安心せい、魔王倒した暁にはお主らを元の世界に返すと約束しよう」
「そうですか。ご返答ありがとうございます」
丁寧に一礼をして下がった。
しかし僕は見逃さなかった。僕が国王に質問した時、王女が一瞬悲痛そうな顔をしたのを。
つまり・・・そういうことなんだろうな・・・。
まあいいか。一応やれることはやって帰還できなかったら潔く諦めよう。
「これ以上なにか質問はあるか?ないならすぐお主らの部屋を用意させるとしよう。1人1部屋あるのでゆっくりくつろぎ英気を養ってくれ。
なにか聞きたいことがあったら各部屋につける侍女達に聞いてくれ。私はしばらく忙しくなるのでな」
そう言って国王は数人の大臣らしき人と謁見の間を退出していった。
僕らも部屋に案内されることになったが今度は第二王女ではなく城のメイド長が案内をしてくれることになったようだ。部屋へ案内される際第二王女の話を聞いた。
どうやら第二王女が僕らの召喚を行ったようで、普通なら魔力欠乏症でぶっ倒れてしまうレベルの魔力消費を自身の膨大な魔力と精神力でカバーし、なんとか僕たちの案内を務めたらしい。
すごい根性だなそれ。僕には真似できそうにないな、面倒だから。
そんなことを考えながら1人ずつ部屋へ案内されていくのを眺めた。
全員が部屋に案内された頃にはもう夜だった。
僕は父が残した研究もできないので久しぶりにゆっくりベッドで寝ることにした。
城のベッドはフカフカで、すぐに誠司の意識は闇に落ちた。
お読みいただきありがとうございます。
ご感想、誤字・脱字・変な文章などの報告・指摘をお待ちしています。
予約投稿をしていたと思っていたら実はしていなかった非力な私を許してくれ・・・。
というかそんなことより情景描写の語彙が貧弱すぎる・・・(絶望)。
主に部屋の内装の様子あたりが幼稚すぎてヤバイ。
なんかいい案ないですかね?
次回、主人公最強系話の目玉(個人的主観)である能力測定の話。誠司が持つ意外な能力とは?
期待せずにお待ち下さい。