一話 始まりはいつも唐突に
「セイ君おきなよ〜」
「う〜ん。あと10分」
体を揺すられて起こされるがまだ眠い。
「起きなさいって言ってるでしょ!」
「のわっ!」
ピリっと電流らしきものを体に流されて飛び起きた。
「分かった!起きるから!起きるから!」
「分かればよろし」
起きたら案の定、晶子姉がいた。
「基本低血圧な僕に朝は辛いからもっと優しく起こしてよ・・・」
「お姉ちゃんは身内には厳しくっていう信条があるのよ。俗に言う愛のムチってやつね」
そんな信条なんて犬にでも食わせておけばいいのに・・・。
「そんなことよりもう学校に間に合う時間ギリギリなんだからキリキリ朝食を食べてさっさと学校に行きなさい」
「へいへい」
部屋を出て顔を洗い、制服に着替えてリビングに行くと既に朝食が並んでいた。さすが晶子姉だ、手際がいい。
朝食を流し込み昨日のうちに準備してあった教科書類といろいろな物を詰め込んだ鞄を持ち玄関へ向かう。
ふと時計を見ると電車が出る十分前だった。
「ヤバイ!本当にギリギリじゃないか!いってきます!」
いってらっしゃーい、とのんきに返事を返す晶子姉を心の中で罵倒しながら急いで自転車を漕ぐ。幸い信号に引っかからず駅に着いたが電車は既にもう駅の目前まで迫っていた。
急いで改札を進み、ホームまでの階段を上り下りし、まだ開いたままの電車の扉に突っ込む。
電車に乗った瞬間、扉が閉まり電車は出発した。ふぅ、なんとか間に合った。
「やっぱり駅の階段を急いで上ってたのは誠司だったのね」
ふと声が聞こえ、目の前を見ると唯子がいた。
「やあ唯子、おはよう」
「おはよう、誠司」
にっこり微笑みながら返事をする唯子。ああ、癒される・・・。
「今日は遅い電車に乗ってたんだな」
「うん。今日は吹部の朝練習がないからね」
そういえばそうだったな。
そこから唯子とは隣のクラスの恋愛沙汰がどうとか、もうすぐで3年生が修学旅行に行くとか、今日は13日の金曜日とかと他愛のない話をして学校まで一緒に行った。
教室に着くと既にいる明人と和音に冷やかされるまでがテンプレ。
◇◆◇◆
テンプレ通りの冷やかしを受け、1時限目が始まるまで4人で会話をした。
授業に間に合ったのはいいが案の定1時限目の化学は爆睡でノートを取り忘れてしまった。後で明人あたりにノートを見せてもらわなければ・・・。
2時限目の数学はうつらうつらしつつもなんとか爆睡は逃れられた。
3時限目は現代国語、開始10分の読書タイムがあるのでそのまま授業中はノートを取りつつそのまま読書できた。快適快適。
4時限目世界史は真面目に受けた。この学校の世界史の先生はすごく性格が悪いので真面目に取り組まなければ成績が危ういのだ。地獄に堕ちろが口癖。
「疲れた・・・」
そして現在、昼休みの昼食タイムだ。
1人で手っ取り早く昼食を済ませたいと思っているが、決まっていつもの3人のうち最低でも1人が絡んでくるためもう諦めている。
今日来たのは唯子だった。
「唯子さっきお前の友達が昼食に呼んでたけどよかったの?」
どうもさっきの唯子が話していた女子生徒の様子を見る限り、唯子は別の昼食誘いを受けていたらしい。
「いいのいいの、今日誠司の昼食に付き合えるのは私だけみたいだけだったし」
「別に1人でも大丈夫なんだけどな・・・」
「私らが好きで付き合ってるんだから誠司は気にしなくていいんだよ」
そこからまた登校時の話の続きをした。周囲からのトゲトゲした視線(主に男子)が刺さったが気づいていない振りをした。最も唯子は気がついていなかったようだが。
そして昼食も食べ終わり、クラスメイトらがそれぞれの席に着き始めるようになった時、少し不穏な気配を感じた。
うーん・・・。嫌な気配がするけど気のせいかもしれないし放っておこう。面倒くさいし。
最後に本音を出しつつ誠司はまた昼食後特有の睡魔に襲われ意識を落とした。
授業が全て終わるまであと2時限。
◇◆◇◆
ふと気がついて起きたら6時限目終盤の頃だった。
5時限目の先生は授業開始と終了の挨拶が不要な人だから僕が寝ていることには気がつかなかったっぽいな。
そういえばこの6時限目の先生も授業終了30秒前キッカリに授業を終わりにしてさっさと職員室に戻るという変な特性があったな。
そんなことを思いながら授業を適当に聞きつつ過ごした。
昼休み終わり間際に感じたあの嫌な気配は少しずつ気配を濃くしていったが、だらけきっていた誠司はその様子に全く気づかなかった。
そしてさっき思い出した通り先生は授業終了30秒前になるように挨拶をさせ、そのまま帰っていった。
「ふぁ〜、やっと今日も学校が終わったか」
あくびをしながら背伸びをする。
と、そこへ唯子が近づいてきた。
「あ、誠司。あのね・・・」
そこから先は授業終了の鐘の音で遮られた。
そして鐘がトリガーにだったかのように突然床に魔方陣が浮かび教室全体が光始めた。
「なっ!」
僕は驚愕で顔を引き攣らせた。椅子や机で見づらいが魔法陣の形式が転移型に似ていたからだった。
周りのクラスメイトも軽く悲鳴を上げたり、突然の事態で思考と体が完全にフリーズしているようだった。
「なに・・・これ・・・?」
唯子も例外ではなく呆然としているようだった。
このままじゃマズイ!と咄嗟に思った俺はいつもお世話になってる鞄を取った。
次は・・・と思ったが思考できたのはそこまでだった。
次の瞬間教室は眩い光に包まれ、窓山高校1-1の生徒42人の全員が姿を消した。
光が消え去った後、そこにあったのは散乱した物と静寂だけが残った教室だった。
お読みいただきありがとうございます。
ご感想、誤字・脱字・変な文章などの報告等々お待ちしています。
日常パートのアイデアが次から次へと思いついて収拾がつかなかったので今回は短め。
収拾がつかずいつまでたっても異世界に呼ばれる描写にたどり着かないとか洒落にならないからね。仕方ないね。
次回、誠司達が異世界に呼ばれた理由とは果たして一体なんなのか。(棒)
期待せずにお待ち下さい。