十六話 急襲する危機
「勘弁してくれよ・・・こちとら腹が減って仕方ないのに・・・」
目の前に現れた鳥の魔物らしき生物は「ここは自分のテリトリーだ!」と言わんばかりに威嚇してきた。
自己主張の激しそうなトサカ、2メートル以上はありそうな白い羽毛に覆われた体に赤と白の翼を足せば10メートル近くはありそうだ。
なんか鶏っぽい鳥だなぁと誠司は思っていた。
一応この魔物の名はストーム・バードというのだがこの時点で誠司はまだ知る由もない。
「キュエー!」
鳥の魔物の様子見をしているとなんと急降下で突っ込んできた
「突っ込んでくるつもりか!」
咄嗟に左へ避けた誠司だが、急降下のスピードに驚いて急いで避けようとしたため体のバランスを崩していた。
ストーム・バードはそこを逃さなかった。
急降下のまま地上にうまく着地すると自らの翼を羽ばたかせ強風をバランスを崩した誠司へ送りつけた。
「ぬあっ!この風はちょっとキツイ!てか本格的にヤバッ」
強風といっても瞬間風速は台風並みの強さを誇り、誠司の近くにあった木はもう既に飛ばされる寸前まで音を上げていた。
そんな風をド真ん中に受けた誠司が耐えられるはずもなく、ふんばりも虚しく誠司は後方の森の中へ吹っ飛んでいった。
普通生身の人間がそんな飛ばされ方をすれば木に頭や体をぶつけて致命傷レベルの傷を負い死にいたる。
この圧倒的暴風こそがストーム・バードと魔物が呼ばれる所以だった。
しかし誠司はなんとか生きていた。
吹き飛ばされる最中、誠司は一番簡素な《対物理用防御陣|プロテクトシールド》を発動し、致命傷は免れていた。
しかし一番簡素なだけあって誠司へのダメージはあまり軽減されていなかった。
頭から出血している上、強風で飛んできた石や木の枝などの影響で体中に擦り傷切り傷が出来ていた。
一目でまともではない状態と見えるレベルで怪我を負っていた。
「いつつ・・・しばらく平和ボケで油断してた自分が悪いなこりゃ」
そう自分を自虐する誠司。
頑張って立ち上がろうとして足元を見るとそこには木の枝や木の葉に混じってあってはならないものが落ちていた。
それは・・・
「ぼ、僕の昼ご飯が・・・」
そう、誠司の昼ご飯の無残な残骸の一部が落ちていたのだ。
ここで多くの無力な一般人は言うだろう。魔物相手に命が助かったのなら昼飯を失うぐらいいいだろう、と。
しかし誠司は戦える魔法使いで、もったいない精神溢れる日本人である。
腹ペコで食べる寸前だったところを邪魔された挙句、楽しみにしていた昼ご飯を意味もなく残骸に変えられたということに対する怒りは誠司に戦闘意欲を掻き立てた。
「クソ鳥・・・てめぇは絶対に許さねぇ!」
あまりの怒りで無意識に誠司は魔力をかき集めストーム・バードを威圧していた。
誠司の豹変振りにストーム・バードは恐怖を覚え後ずさりしてしまう。
その隙を誠司は逃さなかった。
「昼飯の恨み!”《五色|ごしき》の風”!」
そう誠司が呪文を唱えた刹那、ストーム・バードに向かって五色に彩色された風が吹き荒れた。
五色とはすなわち火、水、風、雷、土の五属性の魔法を指している。
よってストーム・バードは燃やされ、圧迫され、切り刻まれ、痺れ、土砂に埋もれるという世にも珍しい体験を受けた。
しかし五属性の魔法を一気に使うのは難しいため、威力は足止め程度しかなかった。
それでも誠司が次の呪文を唱え終わるのには十分な時間だった。
「”全ての始まりの炎、輝ける炎よ、彼の者を打ち滅ぼしその魂を焼き尽くせ!”」
そう唱えるとストーム・バードの周囲が赤くて紅い魔方陣に埋め尽くされる。
普通の昼下がりの森はさながら地獄の様相をしていた。
「”灼熱十字砲!”」
次の瞬間、魔方陣を中心とした半径数十メートルの空間は爆風に包まれ、空には巨大な十字架の火柱が上がっていた。
この十字架が街からも目撃されるほどの大きさだったため、その件が『昼間の魔族襲撃事件』と約数ヶ月噂されることも誠司は今だ知る由もない。
もちろん街の住民もまさかとある一人の少年が昼ご飯が台無しになったせいでこんなことになっただろうとは微塵にも思わなかった。
お読みいただきありがとうございます。
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作者ー生きとったんかワレー!(自虐)
数ヶ月もほったらかしてサーセンした。
しばらく余裕ができるのでさすがに月単位放置はなくなると思うのでよろしくお願いします。
ついでに気晴らしに書いた短編二つも投稿したので暇な方はそちらもどうぞ。