十三話 鉱山の街へ
しばらくするとあっという間に街の入り口に着いた。
門では列が出来ており、僕らもそのまま後ろへ並び街へ入る審査を待つ。
特にすることもなかったのでエステンの特色などを聞きながら順番を待った。
少ししたらすぐに順番が回ってきた。身分証明はボードで提示するからそんなに時間はかからないのだろう。
「それでは次、馬車の数を見たところ商人か?」
いかにも中世の兵士というような格好をした人いかつい男の人がヘンリーさんに問いかける。
本当に中世っぽいかどうかは良く知らないけど。
「はい、日用品などを扱っております。隊員は十三人で護衛が一人です」
さっき預けたみんなのボードをそのまま兵士に渡す。
「ふむ、特に不信な点はないようだな・・・。荷物にも危険というほどのものもなしっと」
「それと道中盗賊を倒したのでボード十九枚を提出します」
「十九枚だと!護衛は一人と先ほど言っていたが・・・」
「はい、その護衛一人が全員を倒しました」
兵士はポカーンとした顔で硬直してしまった。
まあ一人で十九人を葬るってのは数の差もあってほぼ無理ゲー臭いから驚くのもやむなし。
「・・・とりあえずボードを調べるのでしばらく待っていてくれ」
その言って兵士は事務所のようなところへ戻っていった。
数分後。
「倒した盗賊の中に指名手配されている者がいたのでその護衛に話を聞きたいのだが・・・」
どうやら指名手配犯がいたらしい。まあいわずもがなあのリーダー格の男だろう。
そのままヘンリーさんに呼ばれ兵士の前へ出される。
「君が盗賊カーガンを倒したという護衛か?」
心なしか威圧されている気がする。まあ一人で十九人を倒すとか眉唾モノの話を怪しんでいるのだろう。
「カーガンという名前は知りませんけど盗賊を倒したのは僕ですね」
「見たところ武器は剣一本のようだがその剣で盗賊と戦ったのか?」
「一応剣は使いましたけど多分そのカーガンって奴に感づかれて逆に返り討ちにあったんで実質使ってないに等しいです」
「では何で盗賊を倒したというんだ」
「魔法ですよ」
「魔法?君のような子供が?」
背は平均よりちょっと低いけど子供扱いなんてあんまりだ!
ちょっとカチーンときちゃったよ!
「では証拠を見せましょう。あちらの丘の上をご覧下さい」
少し近くの小高い丘を指す。
「では・・・。”雷陣!”」
今回は精巧に魔法を打つ必要はなかったので詠唱は省略。
ピカッ!っと激しく光を上げて光の柱が見えたと思ったら、既にそこには円状に焦げた草の跡しか残っていなかった。
そういえば自分の魔法をこうして客観的に見るのは久しぶりだなぁ・・・。
「以上です」
そう言って兵士に向き直ると。
「・・・分かった街へ入るのを許可する。あと懸賞金を持ってくるので少し待ってくれ」
今だ信じられないような目で僕を見てくる兵士。
「懸賞金はいくらくらいになるんですかね」
「全部で40万ペンドになる予定だ」
40万!?ちょっと盗賊を倒しただけで40万とかすげえなオイ。
「40万!?カーガンという盗賊はそんな危険な奴だったんですか?」
僕と同様驚くヘンリーさん
「カーガンは数年前からここら一帯を根城にしていてな。地方のほうのせいであまり強い冒険者もいない上、奴自身なかなか強いは身の危険を感じると即座に撤退するはと厄介な奴だったんだ」
確かに僕が魔法を使った途端顔色を変えて撤退命令を出していたな。
「その厄介なカーガン一派を全滅させてくれた礼を兼ねて色を少しつけといた」
「いいんですか?そんなことをして?」
最もな疑問を僕は言う。
「元々俺の上司の判断だからな。君達は気にしなくていい」
なるほどね。それならまあこの人も大丈夫かな。
兵士はまた事務所へ戻り、40万ペンドを持ってきた。それを受け取ったが、全部硬貨のせいで重いったらありゃしない。
「それでは改めて、ようこそエステンへ。街はあなた方を歓迎します」
なんやかんやでようやくエステンへ入れた誠司達であった。
◇◆◇◆
街へ入り、商隊の泊まる宿の名前を聞いて別れた。明日からいよいよエリーへの魔法授業を開始することになる。
ということで泊まる宿と黒板的ななにかを物色中。
商隊と同じ宿に泊まってもよかったけど、エリーにずっとベタベタ一緒にいるのも目障りかなと思い止めた。
「さーて。なにか良いもの売ってないかな?」
街の中はまだどこがどこだか分かっていないので適当に人が集まっているところをブラつく。
流れ着いた先はこの前と同じく市場だった。鉱山の街だけあって工芸品や宝石などの店が多い。
でも黒板とチョークの代わりになりそうなものなんてあるかねぇ・・・。
待てよ、チョークとかは確か石灰でできていたよな・・・。
ここは鉱山の街だから石灰岩とかが産出されててもおかしくはないはずだ。
「でもそんな簡単に見つかる訳―――」
「文字を簡単に書いたり消したりできる便利な石版売ってるよー!」
あったー!
こんな簡単に見つかってよかったよかった・・・。
ちなみに石版は一つ5000ペンドとなかなかいい値段だった。
「そろそろ宿をみつけないとな」
この街に入った頃には既に夕方に差し掛かっていたのでも大分暗くなってきていた。
「こういう少し裏に行ったところにいいところがあったりするのが鉄板・・・」
少し路地を進んでいくと、そこはみるからにヤバイ人らの溜まり場だった。
僕は自前のチキンハートを発動して、気がつかれる前に速攻で表通りに引き返していった。
「死ぬかと思った・・・」
ちょっと裏路地に行くだけでアレとか、あらゆるものが整備されていた現代日本人からすればただの恐怖スポットですわ。
適当に見回すとちょっと分かりづらい場所に宿があったため適当に行くことにした。
既に部屋が埋まっているとか知らん!
宿の名前は紫花亭だった
「紫花亭にようこそ!お泊りですか?」
宿に入るなりカウンターの男の人に声をかけられた。
「はい、しばらく泊まりたいんですけど」
「お客様は運がいいですね。ちょうど部屋の空きが残り一つだったんですよ。まあそれはさておき、この宿は料金を1週間分までなら払うことができます。1週間払った上でそれより長く泊まりたい場合はさらに追加で料金を支払いください。料金は1泊朝夕食尽きが3000ペンド、1週間一括支払いなら21000ペンドです」
「1週間でお願いします」
21000ペンド分の硬貨をカウンターに出す。盗賊の分で金はやたらあるからな。
「丁度ですね。ではこちらが24号室の鍵です。宿を出る際にはこちらに鍵を渡してから外出してください。食事は朝が6時から10時、夜が5時から9時までの間に頼まなければ別料金となってしまうのでお気をつけ下さい。あとお客様が部屋から出た時に部屋の清掃をさせていただきますので貴重品は自分で保管下さい。それ以外のことでなにかご質問は?」
「体を洗いたい場合は?」
「宿の者に頼めば別料金で用意できます。それ以外には?」
「他は大丈夫です」
「もしご不明な点がありましたらお尋ね下さい。それでごゆっくり」
やっと一人で休める・・・。そう思い少しほっとしながら宿の2階へと足を進めていった。
お読みいただきありがとうございます。
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やっと次の街に着いた・・・。
黒板とチョークの下りは、鉱山とか石灰がモリモリ出てきそうという勝手な偏見から思いつきました。実際はどうかって?知らんな(無責任)