十二話 とりあえず一段落
「セイジお兄さん起きて!もう朝だよ!」
盗賊を返り討ちにした次の日の朝。
僕はいつもとは違う声で起きた。
「・・・ああ、おはようエリー」
起こされてから十秒ほどしてやっと僕の脳が正常に起動する。
昨日は盗賊から商隊を救ってそのまま商隊を護衛しながら進んでいくことになったんだっけ。
盗賊は昨夜のうちに全員処分しておいた。ヘンリーさんにああは言ったものの、流石に人を殺したことはなかったので気分いいものではなかった。
そこで気分がよかったらただの快楽殺人鬼だ。
亡骸をそのまま放っておくほど鬼畜ではないので、魔法で地面を掘りそこに埋葬した。せめてもの慈悲だ。
「セイジお兄さんが一番起きるのが遅かっですよ」
これでも早く起きた気分だが、商人朝は大分早いらしい。
「げっ、マジか。初っ端からこんなんで大丈夫かな・・・。とりあえず顔洗うか」
「顔洗うならこれを使って下さいね。あと朝食のパンです」
そう言うとエリーは傍らに置いてあった桶と布に包まれたパンを出した。
「この水私が出したんです!これからは私も商隊の役に立てるようになりました!」
どうやら昨日教えたコツが利いたらしく水係りとして役に立ったようだ。
「教えたことが役に立って僕も嬉しいよ。ただ調子に乗って魔力を使いすぎるなよ?」
「大丈夫!魔法を結構使ったけどまだこんな元気に・・・わっ!」
僕が顔を洗い終わったので、桶を持とうとしたエリーだが足元の凹凸に躓いてしまった。
「おっと危ない」
「ひゃっ!」
丁度いい位置だったのでエリーの体を支える。
「ちょっと注意力がなくなってるみたいだな。疲れは本人に気がつかないように溜まっていく場合もあるから休むことを勧めるよ」
「ふぁ、ふぁい・・・」
そう言うとエリーはピューっと走っていってしまった。
◇◆◇◆
全員の準備が整ってから馬車は出発した。
出発前に挨拶をし、馬車は全部で三台。商隊のメンバーは12人ということが分かった。
比較的小規模な商隊だった。
「ああ、疲れた・・・」
僕は馬車の中で質問ラッシュを食らっていた。
自分で言うのもアレだが見た目普通の人が盗賊を魔法で瞬殺していく様は非常に興味をそそるだろう。
質問は別にいいがそんなにしなくてもいいじゃないか・・・。
「セイジお兄さんお疲れ様」
隣のエリーは終始こっちをチラチラ見るだけで質問はしてこなかった
商隊の人はエリーの父親であるゼルベスさんとその娘エリー、隊長のヘンリーさん以外は魔法がからっきしだそうだ。
その使えるゼルベスさんとヘンリーさんも火を起こすなど便利な程度の魔法しかできない。
「あの・・・私も質問いいですか?」
「なんだい?」
「私に本格的に魔法を教えて欲しいんです」
質問じゃなくなっていることに関しては突っ込まないでおこう。
「エリーは強くなりたいの?」
「はい。昨日のことがあってからずっと考えていました。私が強ければもっと早くみんなを安全にさせてあげられたのに・・・と」
確かにエリーが強ければあんなことにはならなかっただろうけど・・・。
人質にとられたからそういう風に考える人ってなかなか珍しいね。
「強くなるには・・・か・・・。別に僕もそんな魔法を極めてるって訳じゃないから大したことは教えられないと思うよ」
謙遜ではない。魔法全属性をほぼ網羅している代わりに各属性魔法の錬度は極めている人から比べればほど遠いレベル。器用貧乏とはよく言ったものだ。
「でもセイジお兄さんは10人以上いた盗賊を一瞬で倒すほどの魔法が使えるし上、サートルスでのことから魔法のことにも大分詳しそうでしたし・・・」
「・・・やっぱり駄目だな。僕は君に上からものを教えられるほど立派な人間じゃない」
「では・・・この商隊を助けたことが立派なことではなかったと言うのですか?他人を助けられる人は立派な人だと教わりました。お兄さん自身や他の人がなんと言おうと、セイジお兄さんは立派な人だと私は思います。私はどんなに魔法がうまい人でも立派じゃない人からは教えは請いたくありません!」
年下に説教されちゃった・・・。半分くらいはちょっと面倒臭かったとか言えない・・・。
見捨てるのは簡単だけどそこまで言われちゃこちらも引き下がれないね。
「そこまでやる気があるとはね。その意気込みは受け取ったよ」
「それじゃあ・・・」
「ああ、こんなので悪いけど魔法を教えてあげよう」
「やったー!ありがとうございます!」
「とりあえず本格的なことはエステンに着いてからだ。道中は揺れてあまり集中できないからね」
「はい!分かりました!」
エリーは本当に楽しそうだ。
まあ魔法に心をときめかない人なんてそうそういないからなぁ。
ましてやこっちでは普通の人でも使えるし。
とりあえず道中はどこらへんまで魔法に理解があるかチェックしてみるか・・・。
そこからは魔物に何回か襲われたことはあったが、盗賊に襲われることもなく順調に進んだ。
そして・・・
「そろそろ街が見えてくるぞ。エリーちゃん、フルカワさん、外外」
そう声をかけてきたのは馬車の手綱を握っているヘンリーさんだった
促されるまま馬車両脇にある窓から外を覗き込む。
「うわぁ・・・!」
「これはなかなか・・・」
時刻は夕方、斜めから差し込むオレンジ色の光が街の壁で反射している。
その街の後ろには雄大な山脈がどっしりと構え、キラキラと光り輝いていた。
鉱山の街、エステンはもうすぐだ。
お読みいただきありがとうございます。
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投稿が遅れたのも、投稿のこと自体忘れてたのも全部ゴルゴムとジュラル星人とドン・サウザンドの仕業に違いない・・・。
嘘です。家で稲刈りした後ずっとスマブラしててすっかり忘れてました。
まあどうせこんなしがない小説を気にしている人なんていなさそうだから問題ないね。自分で言って悲しくなってきた・・・。
今回の話は大きな出来事と大きな出来事の間あたりな感じです。特になにもないから書くことあまりなかった・・・。