十一話 悪党への制裁
馬車を囲む荒んでそうな男達。間違いない、盗賊だ。
「馬車の荷物を全部よこしなぁ!そうしたら命だけは助けてやるよぉ」
ゲヘヘと下品な笑い声を上げながら楽しそうにするリーダー格らしき男。
そこへ馬車側のリーダーらしき人が前へ出る。
「全部は無理です!どうか半分でお願いします!」
「ふざけんな!全部よこせっつってんだからさっさと寄越しやがれ!それともあれか。命すらもいらないのかよオイ!」
必死に土下座をする馬車側の男。
しかし当然との如く盗賊は却下。
しかし大体この手のやからって約束守っているところ一度も見ていないんだよなぁ。
目の前の命を見捨てるのも後味が悪いし、助けるとするか。
「ふっ!」
木陰からできる限り気配を消し、丁度目の前にいたリーダー格の男へ城から支給された剣で切りかかる。
「・・・そこだ!」
リーダー格の男が僕に気がつき剣で防ぐ。体格差や力の差により、突進した勢いのまま盗賊が作る円の中心のほうへ飛ばされる。
「うっ・・・と」
怪我らしい怪我はせずにそのまま立ち上がったが、盗賊達に囲まれてしまった。
「不意打ちとは危ないところだったぜ小僧。だがな、百戦錬磨の俺様にはその程度のチンケな攻撃なんかお見通しってわけよ。残念だがお前は逆転の糸口にもならなかったという訳だ。悔しかったら家に帰ってママにでも慰めてもらうんだな」
ギャハハハと周りの盗賊達と一緒に笑うリーダー格の男。
馬車の人たちの一瞬希望を得た顔も、再び諦めムードとなる。
残念ながらこうなる事態も予想済みだ。
「じゃあ逆に僕一人が逆転する要素だとしたら?」
「フン、騙されんぞ。それはただのハッタリだな。時間を稼ごうたってこんな夜に通る奴は盗賊ぐらいだぜ」
「盗賊以外にも僕みたいな旅人がいるし、ハッタリだと思うなら確かめてみたら?”風と双璧をなす雷の壁!雷陣!”」
「なに!魔法だと!」
あからさまに焦る盗賊達。だけどもう遅い。
「魔法使いは相手が悪い!撤退だ!てっ、ガガガガ!」
バタバタと次々に感電して倒れていく盗賊達。よし、目標達成っと。
ぐるっと見ても立っている盗賊はいなかったから大丈夫かな?
とりあえず馬車の人達に説明しないと。
「皆さん大丈夫でしたか?怪我とかあったら・・・」
しかし、その先の言葉は続かなかった。
「動くなてめぇら!動くとガキの命はねえぞ!」
馬車の反対側から声が響く。
ありゃ、もしかして内部スパイ的ななにかか?
とりあえず様子見をしていると馬車の影から二人組の男が子供の首に剣を・・・ってありゃエリーじゃないか!
あまりの恐怖に声も出ないようだ。クソッ!早く助け出さなくちゃ!
「そっちの魔法使いのガキも動くんじゃねぇ!」
まあデスヨネー。知ってた。
そのままこちらへ近づいてくる二人組の男。
「てめえのせいで俺達の計画が台無しだぜ。冒険者のフリをして商人を襲う計画がな!」
商人の護衛として騙しつつ、仲間がいいタイミングに出れるよう誘導していたということか・・・。
「さすがにガキを人質に取られればお前も動けないようだな。オラァ!」
足を蹴られて僕は倒れた(フリをする)。
この瞬間を待っていたんだー!
攻撃が通った瞬間という、戦闘で気が緩むタイミング。僕は急いで呪文を詠唱する。
「”雷と双璧をなす風の壁!風陣!”」
MAX火力はカマイタチのように殺傷能力がある風陣だが、今回はエリーが人質に取られているため局地的に人が吹き飛ぶレベルまで下げてある。一応気を配ったから周囲にあまり影響はない・・・はず・・・。
まあそれでも十分に強い魔法だ。
「なにっ!?」「てめっ!」
フハハ、吹き飛ぶが良いわ!
「「ぐおおおおおおおお!!」」
「キャアアアアアアアア!!」
エリーも吹っ飛んでしまうので、浮遊技術を用いて急いで迎えに行く。
「よっと、大丈夫?」
「・・・」
し、死んでいる・・・のではなく気絶してしまったのようだ。まあ半分は僕のせいな気がしないでもない。
エリーのことを考えてゆっくりと着地する。そういえばあの二人組は・・・。
と、思っていると鈍い音を出して二人組の男が落下してきた。
骨が何本か逝ってそうだけど自業自得ってやつだ。
念のため地面の土を魔法で変化させて二人とも拘束しておく。
「ふぅ、改めて皆さん大丈夫ですか?」
「どこのどなたか存知あげないが我々を助けていただき感謝いたします。私はこの商隊のリーダーのヘンリーという者です」
「僕は古川誠司といいます。これくら普通のことですよ。後この子なんですが―――」
「エリーは無事か!?」
エリーのことについて説明しようとすると、馬車から別の男の人が出てきた。
「今は気絶しているだけで特に怪我はしてないようです」
急いで出てきた男の人に説明する。
「おお!私はエリーの父親のゼルベス・アーリウスです。娘を助けていただいてありがとうございます!」
「いえいえ。念のため安静にしておいて下さい」
「ありがとうございます。では」
エリーを抱えてゼルベスさんは馬車へ戻っていった。
再びヘンリーさんが話し出す。
「すいませんフルカワさん、非常に押し付けがましいのですが・・・もしよければこの馬車がエステンに着くまで護衛をしてもらえないでしょうか?」
エステンは僕が目指している街だな。これは丁度いい。このまま便乗してしまおう。
「いいですよ。エステンは僕が丁度目指していたところですし、護衛の冒険者も盗賊の仲間とはいえ僕が倒してしまいましたからね」
「おお!重ね重ねお礼を申し上げます」
「もうお礼なら十分いただきましたよ」
僕は困り顔でそう言った。
◇◆◇◆
それから十分ほどして馬車の周辺は落ち着きを取り戻した。
「そういえばこいつらの処分ってどうすればいいんですかね?」
とりあえず集めて拘束した盗賊達を見る。痺れがとれたあとにうるさくされると困るので、精神に働きかけて声を出せなくなる魔法沈黙を使ってある。
「基本道中で襲ってきた盗賊などは殺してしまっても構わないということになっています。殺したあとは体から能力魔力板が出てくるのでそれを提出すれば懸賞金が貰えるというわけです。殺さずに連れて行けば労働奴隷としてつかえるのでその分多く懸賞金が貰えるということになっているぞ」
「なるほど。ちなみにヘンリーさんはこの場合どちらがいいと思いますか?」
まだこの世界の基準はよく分かっていないためヘンリーさんに判断を仰ぐ。
「そうですね、普通なら連れて行く際に反撃されるリスクを考えて殺してしまう場合が多いですね。盗賊を倒したのはフルカワさんなので判断はフルカワさんにまかせますよ」
要は金を取るか安全を取るかの二択ということか。
金はあって困らないけど別にそんな大量に欲しいわけでもないしここで処分したほうが商隊の精神衛生上よろしいんじゃないかね。
「商隊のみなさんのことを考えればここで処分してしまったほうがいいかもしれませんね」
「お気遣い痛み入ります。しかし倒したのはフルカワさんなのに我々のことを考えてなんて・・・」
「いえ、いいんですよ。別にそんなにお金が必要なわけでもありませんしね。処分なら僕一人でできますし」
「分かりました、それではそのように。それじゃあフルカワさんの協力も得られたことですし、今日はこのへんでお開きということで―――」
「それじゃあフルカワさんの協力も得られたことだし、今日はこのへんでお開きということで―――」
「すいませーん」
ん?この声は・・・。
「エリーちゃん?よかった目が覚めたのか!」
「はい。でも私のせいで商隊のみなさんに迷惑をかけてしまったので・・・」
「エリーちゃんが悪いんじゃないから気にしなくていいんだよ」
「はい!ありがとうございます。それで私のことを助けてくれた人がヘンリーさんのところにいると聞いたので来たんですけれど」
「ああ、それなら彼だよ」
ヘンリーさんが僕の方を見るように促す。
「やぁ、また会えたね」
「おや、フルカワさんはエリーの知り合いだったんですか?」
「はい。ちょっとしたことがあってエリーに魔法のコツを教えたんです」
「そして私が捕まったときに助けてくれた人が街で会ったお兄さんに似ていたので確かめに来たんです」
「なるほどねぇ。結構な偶然ですなぁ」
「そういえばエリーにはまだ自己紹介していなかったね。僕は古川誠司。呼び方は適当で構わないよ」
「それじゃあ私も改めまして。私はエリー・アーリウス。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。っと、もう夜も深いし、特にエリーはもう寝たほうがいいかもしれませんね」
「ではそうしましょうか、それでは今後ともよろしくお願いします」
「ええ、それでは」
「それじゃあ私もお言葉に甘えて。おやすみなさいセイジお兄さん」
「おやすみ、エリー」
この馬車の人達にはしばらくお世話になりそうだ。
セイジお兄さんと呼ばれて少し心が揺れたのはナイショ。
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