十話 早すぎる危機
「あなたは誰?」
周囲は裏路地感あふれる街の一角。近くには麻の袋が積み重なっている。
やっちまったよ・・・まさか初っ端からこんなヘマをやらかすことになるとは・・・。
とりあえず弁解しなければ。
「いやぁ、あの、僕は、その・・・あひゃっ!」
弁解しようとするも袋の上に落ちたのを忘れ、再び落下し地面と激突する。
ああああ!もう駄目だー!なにも考えられなーい!
「まあまあ落ち着いて下さい。上から落ちてきたから一体なんだと思ってビックリしたんですよ!」
少女に諭され一旦深呼吸をして自分のペースを取り戻す。
スーハー。やっと落ち着いた・・・。
「いやぁ、ゴメン。ちょっと色々あってね・・・アハハ・・・」
父さんならこんなミスをしないんだろうなぁ・・・。僕がこんなんだから父さんが残していった実験がうまくいかないんだろうか・・・。
上から・・・落ちて・・・実験・・・魔法・・・これだ!
「実は・・・空を飛ぶ魔法の実験をしていてね。途中でしくじって落っこちちゃったんだよ」
我ながら苦しい言い訳だが、実際空を飛んでいたからね。
通るか・・・?
「・・・」
少女こっちをじーっと見つめてくる。心なしか体も少し震えている。
終わった・・・妄想不審者野郎とか思われ怖がられているんだろう・・・。
そう思ったら少女が口を開いた。
「空を飛ぶ魔法!お兄さん魔法が使えるの!?」
なんか凄い声出したなこの子。なにはともあれ不審者扱いは逃れたようだ。
「ああ、魔法なら使えるよ。ちょっとだけだけどね」
「すごーい!私も魔法を使えるんですけど、全然うまくならなくて・・・」
見たところ少女は中学生くらいに見えた。そのくらいの年代ならありふれた悩みだろう。
「どううまくいかないんだ?一応これでも魔法使いの端くれだからそれくらいは相談に乗れるよ?」
弟と妹を持っていると、なんとなく年下の面倒が見たくなってしまう。
「えっとね、私水魔法に適正があるって言われたのに全然うまく扱えないんだ」
「たとえば?」
「こうして水を出しても途中ですぐに消えちゃうんだ。見てて、”潤いの水よ!我が呼び声に応じ現出せよ!水流!”」
少女が呪文を唱え少し水流を発生させる。しかしその水は地面に接する前に消えてしまう。
「うーん、なるほど。君は水を手から出すときにどうしている?」
「手のひらから水を川の流れみたいに出す感じ・・・かな?」
「そう、魔法を使うときは想像が大切だ。呪文を唱えて手から水が出るのも君がそういう想像をしているからそうやって水が出てくるんだ」
「つまり水が地面に落ちて流れるところまで想像すれば・・・」
「地面に水が流れるはずだ」
魔力は自身の精神力にいくらか影響されているのが現代では分かっている。
その魔力を使って魔法を発現させるのだからイメージなどはとても大切なのだ。
中途半端にやっても中途半端かそれ以下の結果しか出せないということだ。
少女は僕の言葉を聞いて目をつぶりなにやら呟いている。
「地面を流れる水、地面を流れる水・・・」
「そんなに気を張らなくて大丈夫。気楽にやってみるといいよ」
「はい!」
・・・大丈夫かな?
「”潤いの水よ!我が呼び声に応じ現出せよ!水流!”」
再び少女が呪文を唱える。今度こそうまくいくか?
「・・・!」
少女の顔がみるみる明るくなっていく。
水は少女の手から放たれ、そのまま地面で弾け、地面を濡らしていった。成功だ。
「よかったな!成功したじゃないか!」
「はい!ありがとうございます!」
少女が感動して少し水の流れを眺めていると。
「おーい、エリーはおらんかー」
誰かの声が響いた。
「あっ、お父さんの声だ」
ハッ!よく考えたら魔法を教えている暇じゃなかった!
丁度区切りもいいしこれでお別れかね。
「そういえば私まだ名前言ってなかったね。私はエリー。よろしくね!」
可憐に挨拶をするエリー。
「それじゃあお兄さん、お父さんに呼ばれているからもういくね。魔法のことありがとう!またどこかでね!」
「ああ、僕も楽しかったよ。また会えたら」
手を振り、エリーと別れる。
やっとこさ目的に向かえる・・・。
気を取り直して食料と移動手段を確保いなければ・・・。
そういえば結局最初の質問答えてなかったな・・・。
◇◆◇◆
一波乱があったが、なんとか街に侵入できた。まず食料から探していくか・・・。
人の流れに沿って少し歩くと市場へでた。市場は既に人で一杯だった。
「あー、うまそうなモンがたくさん売ってるなー。腹減ってきた・・・」
宣伝のついでに食べ歩きできるものを出している店もいくつかあるため、誠司の腹はもう限界だった。
「・・・ちょっとくらい寄り道してもいいよな?あそこの焼き鳥っぽいやつうまそうだなぁ」
恰幅のいいおじさんが焼き鳥のようないい臭いを店から出しているため、フラフラと足が近づいていく。
「おじさん、これなに?」
「ああ?このフィラ焼きを知らねえのか坊主?」
フィラはこの鶏のような感じの鳥・・・というかまんま鶏な鳥だ。
「生憎田舎から出てきたばっかだからね」
異世界トリップでどこから来たかと聞かれたら、とりあえず辺境から来たと答えれば大体のことは通るって本から教訓を得ました。
「なるほどな。フィラ焼きはフィラの肉を火でじっくり焼いて、タレをつけた食べ物だ。うまいぞ」
ふむ、予想通り概要は焼き鳥のそれだな。
「そんじゃ2本ちょうだい」
「あいよ、御代は合わせて300ペンドだよ」
ペンドとはサグストス王国とその国に連なる国で使われる通貨の単位だ。
他の国では違うらしいけど。
基本1ペンド=1円みたいな感じだ。
下から小銅貨10ペンド、大銅貨100ペンド、小銀貨1000ペンド・・・というように小と大の貨幣があり、上に上がるたびに桁が1つ増える。
例外で虹金貨という最上級貨幣は1つしか種類がない。
なんでも元になる金属が希少すぎて生産できないとか・・・。なんでそんな貨幣を作ったか疑問だけど。
「はい、大銅貨3枚」
「丁度か、毎度あり!」
串を二本渡されて心が浮かぶ。今日はいいことありそうだ。
初っ端から挫けていたのはなかった。イイネ?
あれから一時間経った。
食料品は普通に買えた。バンやら干し肉やら水やらといった感じだ。
しかし問題は移動手段だった。
次の街、エステンまで馬車で三日程度かかる距離らしい。
しかし肝心の馬車は2日後にしか出ないらしい。
あと少しなら大丈夫だろうが2日もこの周辺をウロウロしていたら勇者達に発見されて連れ戻し&尋問の嵐を受けるに違いない。
抜けてきたばっかりなのにそれはちょっと・・・。
しかし馬車は出ない。うーん・・・。
「仕方がない、歩くか。それしかない」
異世界を渡り歩くチャンスなんていうことはもうないだろう。そのチャンスをふいにしてしまってはもったいない。
と、いうことで再び街角へしゅっぱーつ。
壁から墜落した場所へ着く。
あの女の子のが所属している馬車はもうなかった。
それならそれで大助かりだけど。
そのまま再び、屈折と浮遊を同時に使いながら壁の傍を昇っていく。
前回の反省から一番上には乗らずそのまま降りることにした。門番に見つかるとかさっきの子に見つかる以上に洒落にならんしな!
そのまま無事着地。ある程度街から離れてから魔法を解除してのんびり歩く。
自転車があればいいのになぁとか思ったけど、そもそも舗装されていない場所を走るのは論外だと気がついた。
無駄に高校へ通うときに使っていた自転車よりも古いやつが鞄の拡張空間に放り込んであるから余計に悔しかった。
そんなこんなで身体補助魔法でスピードブーストしたり、風魔法を利用して楽をしようとしたりして遊んでいるとあっさり辺りは暗くなっていった。
まあ現代と違って街灯すらないから当然といえる。
無理をすれば進めないこともないが、別に急いでいる理由もないし野宿の準備を始める。
火の元である薪は木の枝を刈り取って魔法で無理やり乾かして使用した。だって楽だったんだもの。
パンなどを食べて腹ごしらえをし、特にすることもないのですぐに眠気が襲ってきた。
闇討ち防止のために物理防御結界、魔法防御結界、索敵結界を適当に張っておいた。
「さて、じゃあ寝る・・・んがっ!」
頭の中で鐘の音がガンガン反響する。索敵結界になにかが引っかかった合図だ。眠っている人を強制的に覚醒させる意味もあるため音が結構強烈なのだ。
寝る寸前に索敵結界に引っかかるとか、一体なんなんだ・・・。
ふと思い、魔力反応から人らしき集団がいるだろう方向へ気配を抑制して進む。
そこには、盗賊らしき男達に囲まれている馬車の姿があった。
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Portalを遊んでいたら5時くらいに寝落ち→起きたら朝という意味不明の事態により投稿が(ry
GLaDOSかわいいよGLaDOS
襲われている馬車は一体どこのなんだろうなぁー(棒)