プロローグ
「誠司、起きなよ〜」
「うーん・・・」
なにか聞こえたような・・・夢か・・・。
「起きろ誠司ィ!」
「のわっ!?」
突然の大声で僕は机から飛び起きた。
寝ているときに耳元で大声などたまったものではない。
とりあえず落ち着いて周りを見渡すと最後の授業はとっくに終わったようで多くの生徒は帰宅や部活の準備をしたり、友達と雑談をしている。
「やっと七時限目が終わりか。今日も疲れたなぁ〜」
「おい、俺らを無視するんじゃねえ!」
「まあ起きたんだからとりあえずオッケーじゃない?」
前者の暑苦しい声は親友の大山明人後者の緩い声は幼馴染の南雲唯子のようだ。
明人は相変わらず短髪長身で、運動系イケメンのオーラを出している。家が剣道の道場をやっていて、自身も剣道をやっている。顔もイケメンに入る部類だ。
唯子はもうすぐ腰まで届くんじゃないかってくらいの長髪に人懐っこい笑顔を浮かべている。背はあまり高くなく、クラスのマスコット的存在になっている。
「明人・・・。眠ってる人の耳元で大声なんか出して怪我をさせたらどうするんだ」
「正論だがお前に限ってその程度で怪我をするはずがないだろう?」
正論に対して暴論を返してきやがった。でも大体合ってるから反論できない・・・。
「まあまあ、その話はそこらへんまでにして今日の放課後みんなでどっかに遊びに行かない?」
「おっ、いいねぇ和音!」
唐突に現れた第三の声の主は唯子の親友でこのクラスの女委員長の猪城和音だった。
髪は後ろにまとめており、眼鏡が常に手放せないほどのド近眼である。背は普通くらい。
「あれ、和音いたの?」
「いたわよ!影が薄いみたいに言わないで!」
だが事実あまり重要視されてない仕事も率先してやるほどの真面目ようだが重要視されないが故に結果が日の目をみることがあまりない。
つくづく残念さを感じる。
「ちょっと誠司、今失礼なこと考えてなかったかしら・・・?」
ジト目で猪城がこっちを睨んでくる。女の勘って怖えぇ・・・。
「嫌だなぁ、僕がそんなことを考えるわけないじゃないか」
「・・・まあいいわ。で、みんなさっきの話はどうする?」
さっきの話・・・?ああ、放課後みんなで遊びに行く話しか。
みんなとは別にクラスのみんなというわけではない。当たり前だが。
猪城がいうみんなとは運動熱血漢こと大山明人、ほんわか女子こと南雲唯子、堅物女委員長こと猪城和音、そして自由人こと古川誠司の僕をあわせた4人を指す。
唯子は幼稚園、明人と和音は小学校の頃からの付き合いだ。
いろいろないきさつで高校まで一緒になるほどの腐れ縁集団である。
「俺は部活も稽古も今日はない日だから大丈夫だぜ」
「今日は元々暇してたし大丈夫だよん」
「私も今日丁度委員会の仕事がなかったから都合いいわね。誠司は?」
「残念。今日僕は帰ってちょっとやることがあるんだ」
「うーん残念だな」「えー!遊ぼうよぉ!」「チッ、仕方ないわね」
三者三様の答えを返す。最後の舌打ちはなんなのだろうか・・・。
「まあ夕飯の買出しと料理当番っていうのもあるんだけどね」
「あぁ、それなら仕方ないね。霜太君と鈴ちゃん元気?」
霜太は僕の弟、鈴は妹だ。霜太は小学六年生で鈴は小学4年生である。
あと現在働社会人である姉の晶子がいるが、皆が遊びに来る時はあまりいないため、俺の家族で話題になるのはもっぱら霜太と鈴である。
父親と母親は僕が11歳になった時、俺と晶子姉に家を託して世界を巡っている。家族のことは全然ほったらかしというわけではなく、誕生日にはメッセージカードが届くし、たまに思い出したかのように帰ってくる。
幸い金は銀行にアホみたいな桁の額が貯金されていたので生活にはあまり困っていない。
「ああ、元気だぞ・・・って四日ぐらい前に会ったじゃないか」
余裕のある休みの日はローテーションでみんなの家に遊びに行くのがお決まりとなっている。
四日前の日曜日は僕の家で遊び、霜太と鈴を含めボードゲームなどをして遊んだのである。
「”もう”四日前なんだよ・・・誠司・・・」
遠い目で明後日の方向を眺める唯子。南雲は一人っ子だから兄弟とかに飢えているのだ。
「んじゃ、そういうことでまた明日」
「おう、また明日な」「じゃね〜。あーあ、霜太君と鈴ちゃんに会いたいなぁ・・・」「ええ、また明日。・・・ちょっと唯子いい?」
事前にまとめてあった荷物を持ち僕は席を立った。最後に黒い笑顔を見せながら唯子に放った和音の言葉は・・・聞かなかったことにしよう。うん、それがいい。
◇◆◇◆
駅まで徒歩十分という良立地である県立窓山高校に感謝しつつ僕は帰路についた。
駅の周囲はファストフード店やゲームセンター、ショッピングモールが並び暇な学生の遊び場となっている。
電車で三十分ほど揺られて地元にやっとこさ到着。そこから自転車に乗りスーパーへ向かう。
買う必要のあるものはあらかじめリストしておいたのでさほど買い物に時間はかからなかった。
顔見知りであるレジのおばちゃんと軽く世間話をし、僕は自転車カゴに買った夕飯の材料を乗せてえっちらおっちら家へ帰っていった。
そこから自転車で一五分ほど進むと2階建ての我が家に到着する。住宅団地のように家が乱立している狭い場所ではなく、そこそこ広い庭もある。
自転車を止め家のドアまで歩いて行くとなにやら家の中が騒がしいご様子。
「今日なんかあったっけ?」
そう思いながら家のドアを開ける。
そこには・・・
「おう誠司、遅かったじゃないか!」「学校ぶりだね!」「ふっ、ドッキリ大成功」
そこには学校で分かれた明人、唯子、和音がいた。は?
なんでみんなここにいるんだ・・・。
そう疑問に思いながら呆然としていると霜太と鈴がしゃべりだした。
「今日はみんなで夕飯を食べに来たんだって」
「そうそう!今日のご飯は楽しくなりそうだね!」
ふーん、ご飯を食べに来たのか・・・それなら仕方な・・・
「仕方ないわけあるかァァ!!」
なんでよりによってこんな日に!俺の怒りが有頂天だよ!
「ふん、みんなが予定空いてるのに誠司だけ駄目だっていうから先回りして遊びに来てたのよ」
あの別れ間際に聞こえてきた台詞はそういうことだったのか・・・。
「っていうかみんな家の夕飯は?」
「親に説明済みだぜ」
「僕に対しての気遣いは」
「そんなものはないね。元はといえば誠司の予定が空いてないのが悪いのよ」
「理不尽すぎる・・・」
一体どうやったらコイツらを家に帰さようと考えていたその時、唯子が俺に話しかけてきた。
「あの・・・駄目・・・かな?」
しかも上目遣い。身長が低い分男性対してこうかは ばつぐんだ!
はうぁ!
すごい断りづらい・・・仕方ないな・・・。
「はぁ・・・今回だけだからな」
「やったー!」
とりあえず夕飯の下準備をしようと台所に行くと既に和音がスタンバってた。そして意味深な笑みを浮かべている。まさかさっきの必殺技の出所は・・・。
「クックック、こんなこともあろうかと唯子に男に首を振らせる必殺技を伝授しといて正解だったわね」
「やっぱりお前かコンチクショー!」
◇◆◇◆
働かざるもの食うべからずという格言の元、僕は明人と和音をビシバシ働かせ夕飯のシチューを完成させた。
ちなみに唯子は霜太と鈴に詰め寄り速攻で戦力外となってしまった。
途中で姉が珍しく早めに帰宅し、丁度夕食中の僕らと鉢合わせしたが色々疲れたため割愛。
そして現在は8時、もうだいぶ遅いから帰ろうという和音の提案でみんな帰宅の準備を始める。
「いやぁ、にしても今日は作って食って遊んで楽しかったなぁ。このまま泊り込みたい勢いだぜ」
「私もすっごい楽しかったよ!主に霜太君と鈴ちゃんと一緒に遊べて!」
「私たちと遊べて楽しかったんじゃないのね・・・」
そんなことを話しながら4人で夜道を行進中。
みんなの家は比較的近くにあり、お互いの家に着くまで大体徒歩5〜10分くらいの距離である。
そして別れの目印である十字路に着く。
「それじゃ今度こそまた明日だな」
「ちゃんと唯子を家まで送ってってあげなさいよ?」
「元々そのつもりさ、じゃあ今度こそまた明日」
「バイバーイ」
明人、唯子、和音とはちょうどこの十字路で別れ、同じ方向に帰る明人と和音は一緒に帰るお決まりのパターンである。
もう夜も更けてきて危険なので今回僕は唯子を送っていくこととなった。
「ふう、今日は本当に楽しかったなぁ〜」
「唯子、ずっと霜太と鈴につきっきりだったもんな」
特に夕飯が出来上がるまでの間は。
「でもやっぱり一番楽しかったのはいつもの4人であそぶことかなーって」
そこは僕も同意できる。
「そうだな、俺たち4人は最高の4人だって俺もよく思ってるよ」
「やっぱり?私もみんなのことだーいすき!」
嬉しそうに笑顔で俺の言葉に同意してくれる唯子。
「ああ、僕もみんなのこと好きだな」
「モチロン私も含めているよね?」
「そりゃみんななんだから唯子も含めているに決まってるだろ。・・・わざわざ聞くようなことか?」
「ち、ちょっと聞いてみただけだよ!」
唯子を見ると少し恥ずかしそうに顔を下に向けている。
それを見て少し微笑ましくなった。
それから他愛もない話をいくつかしていたらあっという間に唯子の家に着いた。
「あっ、ウチに着いた。送ってってくれてありがとさん!」
「こんな可愛い女の子を夜1人で歩かせる男がいたら見てみたいもんだ。じゃあまた明日」
「か、可愛い・・・。う、うん。また明日ね!」
お互いに手を振って帰った。最後の笑顔を見れただけで明日もがんばれそうな気がした。
◇◆◇◆
「ふう、とりあえず今日はここまでにしておこう」
そんな一人言を呟きながら時計を見る。げぇ!もう3時かよ!
・・・明日の授業も昼寝三昧になりそうだな。
机の上に広げたルーズリーフやら雑多な道具類やらを整頓して僕は急いで自分の部屋のベッドに直行した。
「父さんの研究を引き継いだはいいけど全然終わらる気がしない・・・」
ベッドに倒れこんで呟いた愚痴は闇へと吸い込まれていった。
こうしてグダグダと毎日過ごしていくのが僕の日常・・・。
だが嫌いではない。むしろ好きだ。
しかし今日(正確には昨日だけど)は最近の中で一番楽しかったなぁ・・・。
こんな平和な日がいつまでも続きますように・・・。
切実にそう思いながら古川誠司の意識は夢に消えていった。
その想いを裏切る出来事がもうすぐ訪れようとしているのも知らないで。
お読みいただきありがとうございます。
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あんまり間隔が長くても短くてもアレなんで。
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